村田らむの”裏・歳時記2023”【閲覧注意】スマホで旅する異界案内~AIにオカルトは宿るのか?~

 この女の子を知っていますか。

1万回以上リツイートされた、スマホで無料で使えるAIアプリが「出力」した、謎の少女
彼女は「誰」なのでしょうか。

「ホームレス」や「樹海」取材のパイオニアである村田らむさんの案内で巡る、メジャ~&激込み~&つまんな~い観光名所紹介とは一線を画す、日本の裏側を覗く旅。

今回は特別に、自宅でゴロ寝しながら行ける「ヤバすぎるAIの異界」への旅です。

村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。

「AOKIGAHARA少女」誕生


 普段は様々な場所に出かけて行くのが、この連載なのだが、今回は終始自宅である。
「なんだよ。コタツ記事かよ!! 村田らむも落ちたもんだ!!」
 と思った人もいるかもしれないが、我慢して読んでいただきたい。

 2月16日にツイッターで 『AIでAOKIGAHARA (青木ヶ原)を描いてもらうと、定期的に同一人物っぽい女性が現れる。』 と、AIで出力された写真4枚を貼り付けて呟いたところ、バズった。

 この原稿を書いている3月5日現在で、1.34万リツイート、4.64万いいね、1053万インプレッションである。
 1053万インプレッションとは、もう少しで、幸福の科学の公称の信者数(1100万人〜1200万人)に届きそうな勢いだった。
 でも実は、俺自身は
「バズらせるぜ!!」
 とか全然考えていなかった。
 いつも通り、適当につぶやいたツイートの一つだった。

 俺は交通機関で移動中や、バスタブに浸かってる間などの暇な時間、AIに絵を描いてもらうことが多い。
 良く遊んでいるアプリは、存在しない人間の顔をランダムに生成するジェネレーター
 顔写真を笑顔にしたり太らせたりなど細かく調整することができるロシア製のアプリ『FACEAPP』
 人物の写真などをコミック風に変換してもらえる『Meitu』などだ。
 どれも基本無料で、精度が高く、生成する時間も短い。

 新幹線の品川→新大阪の移動時間くらいは、存在しない人の顔を作って、笑わせて、美形化して、性別を変えて、アニメ化して、その顔を元にリアルな人間の顔を再生成して……みたいなのを繰り返していたら簡単に潰れる。

 普段からAIで遊んでいる俺だが、今回のAOKIGAHARAガールを誕生させたアプリは『dream by wombo』だ。
 カナダ・トロントが拠点の企業WOMBOのAIで、単語や文章を指定すると、そこからイラストを描いてくれる。
 一応日本語でも大丈夫なのだが、カナダのアプリだからか、英語の方がキチンと反映されるので「青木ヶ原」ではなく「AOKIGAHARA」と指定したのだ。

 実はこのツイートには一つウソ、というか書いてないことがあった。「AOKIGAHARA」だけだと、森の映像が出力されることが多かったのだが、「AOKIGAHARA」に「SUICIDE」(自殺)という単語をプラスすると、例の少女が現れるようになった。
 つぶやきで「SUICIDE」を省いた理由は、ツイッターなどのSNSは自殺関連に厳しいからだ。ウソをついてたことは申し訳ないと思うけど、たぶん事実の方が怖いと思う人が多いのではないだろうか?

 つぶやいてしばらくしたら、ドドドドッとリツイートされた。
「こわっ!!」
「ヤバい!!」
 という悲鳴のようなリプライが一気に一年分ほど来た。
「自分でもやってみた」
 という人たちがリプライをくれて、気持ち悪い、エグい画像がドドドドッと押し寄せてきた。

 だが、先にも書いたけど俺は「バズらせるぜ!!」と考えてもいなかったし、実はあまり「怖い」とも思ってなかったのだ。
 AIに単語を指定したら、AIはどこからかその単語に引っかかる画像を引っ張ってくるのだろう。同じサイバー空間から探してくるのだから、当然同じ画像や似た画像がチョイスされることも多く、結果的に同じような画像が出力されたのだろう。この女性も、青木ヶ原樹海にまつわる作品や、商品に写っていた女性ではないか? と推測していた。

 バズった後に
「同じ箱から画像を取ってんだから、同じような女性が出てきて当たり前じゃないか!!」
 みたいに叩いてくる人がいたが、
「いやまさしくそのとおりですよ。俺もそう思ってますよ」
  って話だった。
 こうやってクールに書いていると、
「絵を見ても怖いと思わないの?」
 とか思われそうだが、そんなことはない。
 怖いと思う絵はたくさんあるし、むしろ好きだ。ムンク、ベクシンスキー、ウィリアム・ブレイク、クラナッハ……と怖い絵を描く人は昔から多い。
 カラヴァッジョの『ホロフェルネスの首を斬るユディト』などは、たぶん今の基準だと生成途中でNGになるくらいエグい。
 西洋絵画の多くはキリストを題材にしていて、つまり磔刑や鞭打ちをテーマにしているものも多い。新約聖書に書かれているから、描きたくもないのに描いたのか? 否、多分人は怖い絵、残酷な絵が好きなのだ。だからたくさん描かれてきたし、これからも描く。そういう怖い絵や写真の多くは、インターネット内のマトリクスに蓄えられていく。
 AIはそこから画像を引き出して絵を描くわけだから、当然怖い絵になる可能性は高い。

スマホの中身だってオカルトだ

 ケムールの編集者から
「AIにオカルト性はあるのか?」
 と聞かれた。つまり
「科学の申し子と言える電脳世界の中に、オカルトなどという非科学的なモノが存在する余地があるのか?」
 ということを聞きたかったのだろう。
 “オカルト”をどういう意味でとらえるかによるのだが、とりあえず「YES」と答えた。
 オカルトを「超自然現象」「神秘現象」ととらえるなら「NO」だ。別にAIやネット空間に限った話ではない。
 世界には、断じて
「超自然現象は起きない」
 のである。
 処女は懐妊しないし、パンは増えないし、死者は復活しない。
 それに起きてしまえばそれはどれだけ変なことだって「ただの自然現象」なのである。
 寂しいが、それが現実である。
 電脳世界だってやっぱり、現実なわけで、超自然現象も神秘現象も起きない。

 ただオカルトをオカルトのそもそもの意味である「隠されたもの」ととらえるなら、AIの世界や電脳世界はオカルトだらけだといえる。

3+5=8

を科学だとすると

3●5=8

がオカルトである。

 

「なにがあったか分からないが、結果的に8になった」
のである。
 オカルト好きな人たちは
「なにがあったか分からない」
 ●の部分を勝手に推測して語るわけである。
 それがちゃんと+になることもあるし、めちゃくちゃな式『×9ー24+』を入れても、答えが8にはなる。
 それぞれの勝手な推測が、怪談や陰謀論につながっていく。

「桜が綺麗なのは、木の下に死体が埋まっているからだ」

「お父さんが失踪したのは、ブータンの謎の吸血生物に食べられてしまったからだ」

「熱が出て体調が悪いのは、ケムトレイルを吸い込んだからだ」

「私の頭がおかしいのは、●●団体が電磁波攻撃をしかけてきているからだ」

 中には当たっているものもあるかもしれないが、大体は外れている。

「でもそういうのは非科学的な現実世界で起きるのであって、全てが詳らかに見えるAIやインターネットの世界では起きづらいのではないの?」

 と思うかもしれないが、そんなことはない。
 むしろコンピューターの世界にこそ、見えないものが多い。
 俺はiPhoneを使っているが、iPhoneの中がどうなっているか知らない。そもそも蓋も開かないようにできている。
 今まで生きてきた情報で
「iPhoneの中にはCPUの基盤があって、マイクとスピーカーと振動モーターがあって、バッテリーが入っていて……」
 と想像はできるが、それはあくまでも想像だ。「魔法で動いている」と小さな頃から学ばされていたら、信じるだろう。
 多くの機械だってそうだ。見て仕組みが分かるのは自転車が限界で、自動車やバイクがなんで走っているのかは見ただけでは分からない。テレビがなんで写っているのか、電子レンジでなんで物が温まるのか、完全に理解している人は稀だし、理解していなくても使うことはできる。
 科学技術が進んだことにより、より見えない理解できない部分が増えた。
 その見えない部分にじゃんじゃんと、勝手な推測が湧いてくるのだ。

 今回の俺のツイートは
「穴埋めしがいがある」
 ツイートだったのだと思う。

「樹海には人間には知覚できない霊がたくさんいて、それをAIが拾ってきて画像化したのではないか?」

「サイバー空間に住む女性がいて、単語を打ち込むことにより姿が見えるのではないか?」

などなど、推測はいくらでも言える。
 リプライではホラー映画や怪談漫画などに転用できそうなアイデアも生まれていた。
 いまだに、
「青木ヶ原樹海ではコンパスが狂う」
 という都市伝説を信じている人がいるように、
「AOKIGAHARAの絵を描かせると、同じ女性の絵が出力される」
 という都市伝説は何年も人の記憶に残るかもしれない。

AIが生み出す「心霊写真」

 他の理由としては、AIの不完全性が原因の一つとして挙げられるかもしれない。
 ここ数年で「絵を描く」「写真を作る」「文章を描く」などのクリエイティブ系のAIの伸び率はすごい。

 とは言えまだまだの部分もありバグも起きる。分かりやすいのは人間の手の部分だ。全体的なプロポーションや顔などは上手く描けても、手はなかなか上手くいかない。それだけ複雑で調整しづらいのだろう。指がごちゃごちゃっと5本以上はえていたり、横の人の手とつながっていたり、よく見ると気持ち悪いものも多い。

 オリジナルの「顔を作る」AIの場合、背景に歪んだ人の顔のようなものが現れることが多い。

 これは中心以外にいる人物の顔を、背景として処理しているからだと思われる。
 どちらも現実世界で撮れたなら
「心霊写真だ!!」
 と騒がれるような写真だ。

「死」と「ウソ」と「不気味さ」

 また、知り合いが「文章を書く」アプリで、人の経歴を書くのにハマっていた。
 〇〇〇〇さんの経歴を教えてください、と打ち込むと、
『A級戦犯として訴追・起訴された〇〇〇〇さんは、日本軍の検問官として働いていた人物でした。彼は1940年代初頭には、日本軍の検問局である映画監察庁や新聞選信局に勤務し、戦時下のプロパガンダ映画や新聞記事の検問を行っていました。〇〇さんは、戦後の1945年にGHQによって発動され、A級戦犯として起訴されました。戦争犯罪に関する情報を隠していたとして、戦争犯罪の責任に問われました。』
 ツラツラと出てくる。もちろん全部デタラメである。とても良くできているのだが、しかし奇妙な点もある。
『1948年、〇〇は死刑執行を受け、絞首刑にされました。彼は死刑執行を受けた後も、戦争犯罪の責任を認めず、自身の潔白を主張し続けていました。』
 とまとめられていた。

え? 死後に主張し続けるの?
 とギョッとする文章だ。何度も試した結果、AIは“死”の概念を理解していないのがわかった。人間は死んだ後も「影響を与え続ける」「愛され続ける」ことはできるが「主張を続ける」「執筆を続ける」ことはできない。
 ここらへんの微妙な感じは人間だったら反射的に分かるのだが、まだこのAIには理解できていなかったのだろう。
 だが、安直に
「AIには彼の魂が死後も訴え続けているのが見えたのだ」
 と主張することもできる。
 こういうミスはAIが進化していくとともに、少なくなっていくだろう。

 AI画像を見ていると、ゾクリと得体のしれない薄気味悪さにとらわれることがある。
 それは多分、人間とは全く違う方法で絵を描いているからだ。たとえば人物の構造の理解の仕方も違うし、アウトプットの方法も違う。
 最終、表面的には似たような雰囲気になるのだが、どこかが違うと見抜いてしまう。その微妙な違いに不気味さを感じてしまう。
 CGアニメーションやヒューマノイドの世界で言われる『不気味の谷現象』の一種かもしれない。人間の像や動作を現実の人間に近づけていくと、ある一点で薄気味悪さ、怖さが勝ってしまうという現象だ。
 この説は技術の進化とともに軽減している。現在、急成長中のAIだけに数年したら、違和感はすっかり軽減されるかもしれない。ただそれはそれでちょっとさみしい気もする。

AIは怖いけど心配ない

 そして最後に。私たちはAIに恐怖感を抱いているのではないか?
 まず、よく言われるのは、
「AIに、仕事を奪われるのではないだろうか?」
 という恐怖がある。

 先日お会いしたアダルト系のライターさんは、文章に添えるセクシー系の女性のイラストは完全にAIに描いてもらっていると言っていた。漫画家も背景の処理などはAIが担うことが増えている。
 DMMのアダルト同人誌漫画サイトを見ると『AIで描いた作品を選ばない』というボタンが実装されていた。つまり、それだけAIでサクッと作って、販売している人が多いのだろう。小説でも『AIに書かせたら、まあまあの完成度のものができた』みたいな話をよく聞く。
 これらはAIにクリエイティブな仕事を奪われてしまうのではないか? という焦燥感や恐怖感をわき立てるエピソードだ。
 だけど、正直な所、今のところあんまり心配しないでいいかな? と思う。
 漫画アシスタントや文字起こし(インタビュー音声素材から文字を起こす作業)を生業としている人は、仕事が減少していく可能性はある。ただ、それでも多くの仕事は完全にはなくならないだろう。まあなくなってしまったなら、あきらめて違う仕事を探すしかない。
 逆にクリエイティブな仕事をする人はAIを利用することで、作業の時間を短縮化できたり精度を上げたりすることができる。
 ちなみに俺は、ソースネクスト製の『AutoMemo S』というAIボイスレコーダーを使っている。参考価格19250円、サブスクで月額980円かかるという、ボイスレコーダーとしては破格に高い値段だ。高い理由は、自動で文字起こしをしてくれるからだ。さすがに人間が文字起こしをしたデーターに比べると精度は劣るが、それでも仕事にはかなり役に立っている。

 みんなAIの恩恵に預かっている。でもやっぱりSNSでは否定的な意見は多い。
 たぶん、人間はコンピューターやAIに対してもっと根源的に恐怖感を感じるようにできているのだ。
 現在のロボットの語源にもなっているカレル・チャペックの戯曲『R.U.R.(ロッサム万能ロボット会社)』では、工場で作られた人造人間が氾濫を起こす話だ。
 そもそもロボットなど全く存在しない時代。概念として誕生したロボットはいきなり人間を襲っているのだ。
 アイザック・アシモフがロボット三原則

1-人間に危害を加えてはいけない
2-人間に服従すること(1に反しない限り)
3-1,2に反しない限り自己防衛をすること

 を出したので安直にロボットが氾濫することは減ったが、それでもやっぱり人工知能は人間に襲いかかり続ける。

『2001年宇宙の旅』のマザーコンピューターHAL9000は乗組員を次々に殺害した。
『エイリアン』のノストロモ号に乗船していたアンドロイド、アッシュは乗組員を次々と殺す。
『ブレードランナー』のレプリカントは寿命を伸ばすために反乱を起こしたし、
『ターミネーター』の自我を持ったコンピューター”スカイネット”は核戦争を誘発して世界を滅ぼした。
『マトリックス』の人工知能は世界を暗闇にして人類をカプセルに入れて電池代わりにした。

 AIが人間に襲いかかる作品は枚挙にいとまがない。
 仮想の中のAIは今までもこれからも、人類を襲撃し続けるのだ。
 そんなAIに対する潜在的な恐怖があるから、私たちはよりAIの行動の中に目ざとく“悪意”“敵意”そして“オカルト”を見つけるのかもしれない。

追伸:
ロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』に出てくる、意識のあるコンピューター“マイク(マーク4号L型)”は、珍しくとても良い奴なので、読んでほしい。

▶これまでの「裏・歳時記」

文・村田らむ Twitter:@rumrumrumrum

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