村田らむの”裏・歳時記2022”【10月】~国葬・大運動会~

2022年明けから始まった、ケムールの国内旅行連載。毎月、日本のちょっと変わったスポットを訪ねていきます。
メジャーな観光地とは一線を画す、超穴場紹介です。
その旅の案内人は「ホームレス」や「樹海」取材のパイオニア、村田らむさん。


村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。

10月、ハロウィンと運動会の季節。行楽でお出かけになる方も多いでしょう。
さて今回の「裏・歳時記」では9月27日に行われた故・安倍晋三氏の「国葬」にお出かけします。悲惨な事件であったがゆえ、多くの人が弔意を示した国葬ですが、さまざまな批判も多く噴き出していました。
まさしく日本人の主張が行き交った日となりましたが、そこに特定の主張などまったく持っていない(でも主張をお持ちの知り合いは多い)村田らむさんが立ち寄ったら…?
どうかと思うくらいフラットな日本人の姿が見えたのかもしれません。

国葬へのお誘い

「国葬の近くで菅野完さんと一緒に、ビラ撒きするから行きましょう!!」

 と、『やや日刊カルト新聞』の藤倉善郎氏に言われた。

『やや日刊カルト新聞』とは、カルト宗教と戦う新聞であり、藤倉さんはその創設者だ。最近テレビに出まくって、統一教会を叩きまくっている鈴木エイトさんもメンバーである。
 俺は、藤倉さんとは20年来の知り合いである。ラエリアン・ムーブメントという宇宙人を信仰するカルト宗教に、お互い別々の経路で潜入していて、その時に知り合った。
 長年一緒に活動しているし、最近は2人で『フジクラム』というYoutubeチャンネルをやっているくらいだから、
「村田らむはカルト新聞の一味だ」
と言われることも多いのだが、実はメンバーではない。
 ただ、一緒に行動すると面白いネタが拾えたりするので、同行することは多い。

 なんのビラを撒くんですか? と藤倉さんに聞くと、

「鈴木エイトさんの新刊『自民党の統一教会汚染』(小学館)の宣伝のビラを撒きます。ちなみにエイトさんと小学館の許可は取っていません」

 とのこと。
 「故安倍晋三国葬儀」に関しては何の関心もなかったが、安倍氏国葬会場の周りで、安倍氏が統一教会とベッタリだったのを批判した本のビラを配ったら一騒動あるだろう。
 とりあえずネタが欲しいと思っていた俺は、ゴロゴロとベッドでスプラトゥーン3をやっていたいという気持ちを押さえつけて九段下まで出かけた。

■やや日刊カルト新聞・藤倉氏らと九段下へ

 九段下は、よく仕事をしている竹書房があるのでよく打ち合わせでやってくる。
 近くに靖国神社があるので、しょっちゅうワーワー揉め事をしている。
 国葬は武道館で行われた。
 『大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い』(爆風スランプ)の
「九段下の駅をおりて坂道を人の流れ追い越していけば~♪」
 の九段下からの上り坂は警察が交通規制をして、玉ねぎの下(武道館のこと。武道館の屋根に玉ねぎのような飾りが乗っていることから)には、行けなくなっている。

■菅野氏と藤倉氏(ヘルメットを着用している方)

武道館に向かう人々

 反対側の靖国神社に通じる歩道は規制されておらず、そこでビラを撒こうということになった。
 車道にはずらっと警察関係の車両が並べられている。自動車と自動車の隙間から安倍氏の写真が見えるポイントでは、通行客がパシャパシャと写真を撮っている。

 藤倉氏と菅野氏がビラ撒きの準備を始めると、ワラワラワラと警察官が集まってきた。8人くらいの警察官に取り囲まれて、
「暑い日にご苦労さまです。これは何をしようとしているんですか?」
 と優しげな口調で詰問されている。

 終始警察官は丁寧だった。
 昔に比べ、最近の警察官は優しげな口調になったが、これはたぶん録画してSNSなどにアップする人が増えたからだろう。

 周りをぐるっと見ると、離れた場所にも制服警官が何人も立っていた。
 そして目立たないが、ワイシャツに黒ズボン、黒いショルダーバッグ、イヤホンの人たちが大勢いる。
 おそらく公安だと思う。

 オウム真理教の後継団体に潜入していた時に、公安はよく来ていた。その時は『公安』という腕章を腕につけて、偉そうにしていたから嫌でも公安だとわかった。
 ふと『チェンソーマン』(集英社)の服っぽいなと思ったが、そういえばチェンソーマンは公安警察の公安対魔特異課で働いているんだった。

 九段下を歩いて行く圧倒的多数は、普通の通行人である。サラリーマンやオフィスレディーと思われる人たちが、白い目で藤倉さんたちを見ながら通り過ぎていく。
 そして、安倍元首相の国葬に普通に参加する人たちも多い。喪服や、黒い服を身に着け、手には花を持っている人も。
 右翼っぽい人はいるが、ただ街宣車が来たりはしていない。
「拉北者奪還の遺志を継げ!!」
「改憲核武装で反撃せよ」
 とえらい攻撃的な看板を持っている人はいたが、これは安倍さん寄りの人なんだろうか? 新興宗教団体がシレッとビラを配ったりもしているが、あまり大規模ではない。

 とか思っていると、藤倉氏らはカバンの中からカラフルなビラを取り出した。

「安倍さんの生前の御遺徳を偲ぶ本が出版されました!! どうぞ!!」

 強烈な嫌味を言いながら、藤倉氏、菅野氏がビラを撒き始める。

 3分の2は素通り、3分の1は立ち止まってるが、実際に受け取るのは5~10人に一人といったところ。
 受け取ってわざわざ目の前でビリビリに破いた人もいた。
 ただそれでも通行人の数は多くどんどんはけていく。

ビラ配りの路上から見えたこと

「ショカツー!! 仕事しろよー!! わけわかんねえヤツラ追い出せよー!!」

 と女性の声が聞こえてきた。
 黒のトレーナー、パーカーに身を包んだ男女。おそらく右っぽい人だ。女性のほうが警察官に向かって「ショカツー!!」と叫んでいる。

「やるなとは言ってねえだろ!! 日を選べって言ってんだよ!! 今日やることねえだろうが!!」

■さまざまな主張が行き交う路上

 安倍氏の国葬の前で嫌味な行動をすることに腹を立てているようだ。
 まあでもやるなら今日だろう。明日ここでやっても、あんまり意味がない。
「ショカツー!!」という雄叫びは、警察の所轄に対して叫んでいる。
 つまり、
「こんな変なビラを撒く人をさっさと所轄の警察官はつまみ出せ」
 と言っているのだろう。
「機動隊は人を移動させたりできないんですよ。できるのは所轄の警察官だけ。だから所轄の警察官に怒ってるんでしょうね」
 と菅野さんが、冷静に教えてくれた。
 どうにも女性の「所轄」発言には、上から目線というか、侮蔑と言うか、そんな臭いがした。この2人はかなり長時間、ビラ撒きの近くにいてギャーギャー喚いていた。どっちかと言うと、逆効果な気もする。


■メディアの取材を受ける藤倉氏

 2人の知り合いだと思われる、黒服を着た女性に話を聞いた。
 やっぱり、国葬の前で自民党と統一教会の親密さを暴露する本を宣伝されるのは嫌なものだろうか?

「ええ……。そうですね。(安倍さんの)そういう面(統一教会とのつながり)に関しては、フォーカスしないというのが美しいと思います」

 とのたまった。
 さすが『活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」 』を国家像として掲げた安倍晋三元首相を好きな人である。
 どれだけカルト宗教とベタベタつるんでいたって、焦点(フォーカス)を当てなければ、つまり見なければ、美しいのである。
 いや清々しい。

■ビラ撒きの様子

 それからは、若い眼鏡をかけた男が粘着質に延々と「やめるべきだ」ということを言い続けてきたり、爺さんが動画を回しているスタッフに「俺が写っている部分を削除しろ」と言ってきたりと小さなトラブルもあった。

 ただ警察官が多いのもあって、暴力沙汰にはならない。まあそもそもポーズだけで、ガチ喧嘩するつもりはないのかもしれないけど。
 10時~13時にかけて、ビラ撒きに付き合った。結局、黒服二人組が
「ショカツー!! ショカツー!!」
 と叫んでいたのが、マックスの盛り上がりだった。

九段下から国会議事堂へ

 14時から国葬が始まる。
 藤倉さんたちは、場所を移してビラ撒きを続けるようだった。
 俺は、国会議事堂前で、14時から始まる
『国葬反対デモ』を見に行くことにした。
正確には
『安倍元首相「国葬」反対!9・27国会正門前大行動』
 らしい。

 九段下駅から国会議事堂前駅まで地下鉄で移動。駅に向かって歩いていくと、ドンドン!! と太鼓の音が聞こえてきた。
 まだスタート時間までには時間があったが、もうはじめているようだった。

 

「南妙法蓮華経~南妙法蓮華経~」

 とデモらしくないお経が聞こえてきた。
 デモの一番目立つ場所にはには日蓮系の宗教団体が陣取っていた。全員でドンツクドンツク太鼓を叩きながらお経を唱えていて、むしろお葬式っぽかった。

 国会前は大きな広場があるわけではない。交差点を中心に道路に沿って人が並んでいるが、押し合いへし合いの状態である。一昔前の言い方をするなら「密です!!」だ。
 今回は行進をするわけではなく、マイクパフォーマンスをする舞台が作られ、そこで演説したり歌を歌ったりするシステムだ。
 その舞台の前には、カメラがズラッと並んでいる。テレビ局などのメディアも来ている。
 早めに到着したので、中心部に陣取ることもできたのだが、ジッと同じ場所にいるのも面白くないと思ってやめた。
「安倍国葬反対!!」
 の声を上げる人の前を、通行人に混ざってひたすら歩き続けて様子を見ることにした。
 非常にたくさんの団体が来ているが、右翼団体などや、カウンターデモ(デモ運動に対して抗議行動を行うデモ運動)も見えない。
 九段下では安倍氏の国葬に参列する人が多かったが、国会前はまるで風景が違ったのだ。

 すごい数ののぼりが立っている。目についたとこだけでも、

「キリスト者平和ネット」

「れいわ新選組」

「東京年金者組合」

「全国革新懇」

「全医労」
「日本共産党」

「日本婦人団体連合会」

「立憲民主党」

「ねりま九条の会」

「東京弁護士会」

「早稲田大学有志の会」

などなど。様々な会の人が集まっている。

まるで百鬼夜行

 そしてなにより特徴的なのは、年寄りが多い。爺さん婆さんばっかりである。平均年齢は余裕で70歳を超えているんじゃないだろうか? そこそこ暑い日だったし、近くに自動販売機などがないので、抗議行動が終わった頃には何人か逝っちゃてるんじゃないか? と心配になった。

「うるさいよ!! あんた!! あっちに行け!!」
「なんだよ心配して言ってやってるのに!!」
 という大声が聞こえてきて、見ると、爺さんと婆さんが喧嘩していた。
 独自の抗議行動(やや陰謀論入った感じ)をする婆さんに、アドバイスをした爺さんが怒鳴られているようだった。

 いろんな団体や考えの人が集まっているし、揉め事もあるようだ。だが全体的には楽しそうなムードである。

 そんなこんなでシュプレヒコールがはじまった。

「国葬反対!! 安倍元首相の国葬反対!! 黙祷を強制するな!! 憲法違反の国葬反対!!」

 当然、シュプレヒコールを叫んでいるのも爺さん婆さんなので、声はしわがれている。
 その後は、スピーチになる。

 社民党の福島みずほ氏、共産党の志位和夫氏、あたりは有名だし「ワー!!」と盛り上がる。

■福島みずほ氏のスピーチ

 その後は
『日本軍「慰安婦」問題解決全国行動』、『念仏者九条の会』、
 カトリック信徒だという著述家の方、大学教授など、バラエティーに富んだ人がスピーチをした。
 誰の話でも大いに盛り上がる……ということはなく、やっぱり人によって声援が大きかったり、しらけていたりした。

■国会議事堂前で配られていた団体のビラ ▶画像:フジクラムチャンネル(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=orTZShTqTKQ

 どちらかというと、内容より、話し方の方が重要な気がした。端的に言ったほうが、盛り上がる。
 『在日ビルマ市民労働組合会長』のミン・スイさんのスピーチには大きな拍手や声援が起こっていた。ぶっちゃけ大学教授のスピーチよりも盛り上がっていた。小難しい話を話すより、たどたどしい言葉でダイレクトに
「岸田政権は腐ッテいまス!!」
 とか言ったほうが湧くのだ。
「そういやヒットラーってスピーチ上手かったんだよなあ。こういう時に、バシッ!! とスピーチしたら盛り上がったんだろうな」
 とか思う。

 そうしてメインイベントになるのだろうか? フォークシンガーの小室等氏のライブがはじまった。御年78歳だが、声はものすごく若い。

■小室等さんの登場で盛り上がりを見せる路上▶画像:フジクラムチャンネル(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=orTZShTqTKQ

 娘のこむろゆい氏も途中から参加。
 4曲しっかりと歌い上げて、同世代の爺さん婆さんは大いに盛り上がっていた。

9月27日をくぐりぬける

 そして最後のスピーチ&シュプレヒコールがはじまる。

「1万5000人の参加者の皆さん、国葬参列者は4300人ですよ!! 約4倍の私達の声が圧倒的ではありませんか!!」

「そうだー!! おおー!!」
 と声が上がる。

 これは俺の個人的な感想だが、
「たしかに、かなり人が集まってるけど、1万5000人はいないかな~?」
 という感じだった。

「ネットには数百人しかいなかった」
 という発言が出ていたが、さすがにそれよりは多かった。でも1万5000人はいなかったかなと思う。

 あと、国葬参列者は4183人だけど、一般献花者数は約2万3千人だったらしいので、合わせると1万5000人を信じるとしても、倍近くの人数なので圧倒されている。
 なんつうか、そういう事は言わんほうがいいのに、と思う。

■シュプレヒコールが響き渡る ▶画像:フジクラムチャンネル(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=orTZShTqTKQ

「国葬中止!! 国葬反対!! 黙祷を強制するな!!」

 とシュプレヒコールがはじまった。
 抗議運動ではあるのだが、基本的には楽しいお祭り騒ぎだった。
 左な老人達が集まってワイワイやって、今晩はよく眠れるだろう。

■歌で主義主張を語りかける人も ▶画像:フジクラムチャンネル(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=orTZShTqTKQ

「国葬があって、こんなに楽しめて良かったですね」

 と思わず言ってしまいそうになる。

 九段下、国会議事堂前で、いろんな主義の人達を見て疲れ果て、トボトボと帰路についた。

 

▶これまでの「裏・歳時記」

文・村田らむ Twitter:@rumrumrumrum

あわせて読みたい