プロジェクトK vol.1前編 イラストレーター村田蓮爾の創造と破壊、未来主義が構築した新時代の扇子「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」

世にある商品たちってどうやってできてるの?

私たちの周りには様々な商品があふれている。生活必需品は言うに及ばず、たまに必要になる程度のちょっとしたもの(封筒とかボールペンとか)なども、そこら辺のスーパーやコンビニに行くだけですぐに手に入ってしまう。

これは私たちの生活している文明圏が円熟していることの証であり、誠に結構なのだが、ふと「この私が手に取っている品物は誰がどのようにして作ったものなのであろうか」と思うことがある。幸いにして現代人類の集合知の結晶であるインターネットの波の中にはこんな益体もない疑問に応えてくれる情報を集積して惜しげもなく公開してくれているYouTubeチャンネルがあって、個人的にはN〇Kなどよりよっぽどお世話になっております。本当にありがとうございます。しかし、仕方のないことではあるのだが、こういった場所にある情報は基本コモディティ化したごく一般的な商材に関するもの、が多い。

ここで今更だが自己紹介をしておこう。私は株式会社GoFの藤岡というケチな企画屋・マーケティングコンサルタントである。実はこのケムールの連載コンテンツの幾つかにも関わっている。万一、実績など知りたい方は弊社HPまたは過去に書いたコラムなどを読んでいただきたい。

設立8年目(2023年4月)にしてようやくまともに制作されたGoFのサイトである

で、話を戻すと、私は職業柄「狂おしいほどの妄執が生み出すような変わった品々たち」を愛している。のだが、そういったモノほど手がけている主体の規模が小さかったりして情報を得ることが難しかったり、そもそも情報が外に出てこないなどということが往々にして起きる。その悲しい情報格差にスポットライトをあてることは日本一のライターメーカーである株式会社ライテックのオウンドメディア「ケムール」にふさわしい使命ではないかと考えているのである。

と、大上段のスタートを切ってみましたが、この「プロジェクトK」はあまり知られてない「商品」がなぜ・どうやって作られていくのかというのを面白おかしく伝えていく連載記事です。普段目に止まらなかったり、気にしていなかったモノが生まれる背景に潜むドラマをぜひお楽しみください。あと、上でN〇Kをくさしときながらこんなロゴでスイマセン。

イラストレーター村田蓮爾氏紹介

「プロジェクトK」の第一回目を飾るのは…イラストレーター村田蓮爾氏がデザインした扇子「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」!

ハイ、もう一発目から製品開発主体が企業とかでなく一個人です。いわゆる同人グッズというヤツです。製品自体を紹介する前に村田蓮爾氏を紹介しておくと…

村田蓮爾氏個人サイト「PSWEB」

村田蓮爾(RANGE MURATA/むらた れんじ)1968年10月2日生。大阪府出身。AB型。イラストレーター。1993年、格闘ゲーム『豪血寺一族』のキャラクターイラストを担当する。1994年より、『快楽天』、『ウルトラジャンプ』など各雑誌でイラストを担当する。『豪血寺一族2』、『GROOVE ON FIGHT(豪血寺一族3)』等のキャラクターデザイン・イラストを担当する。1996年、ゲーム会社を退社し、フリーランスとして活躍。同年、初の画集『LIKE A BALANCE LIFE』【ワニマガジン社】を発表。1999年、村田蓮爾企画責任編集フルカラーコミック誌『FLAT』を発表し、第34回造本・装幀コンクール展にて、日本書籍出版協会理事長賞(コミック部門)を受賞する。2001年、神戸で開催された『FA宣言』より、イラストの立体化企画がスタートし、2003年、アートギャラリーGoFaにて第1回『fa RANGE MURATA collection 001』展が開催される。OVA『青の6号』・TVアニメ『LASTEXILE』やゲーム『スパイフィクション』などのキャラクターデザインを担当。2003年、第二画集『futurhythm』【ワニマガジン社】を発表し、第38回造本装幀コンクール展にて、日本書籍出版協会理事長賞を受賞する。2006年には、第37回『星雲賞(アート部門)』 を受賞。2013年より、京都精華大学マンガ学部(キャラクターデザインコース)教員。また、コミックマーケットなどのイベントで、個人サークルより、同人誌を発表している。(サークル名:PASTA’S ESTAB.)
(村田蓮爾氏個人サイト「PSWEB」より)

コレ本当に手前味噌で申し訳ないんですが、実は村田氏と藤岡は20年近い付き合いでして、この扇子も企画は藤岡が担当しております。で、たまたまライテック社の代表である廣田社長に紹介したところ快くバックアップ(ライテック社の商材とするわけではなくコケた時に助けてくれるという感じで)していただけることが決まりまして、あれよあれよという間に頒布日(8月13日夏コミ二日目@村田蓮爾氏サークルPASTA’S ESTAB.ブースにて)が迫ってきているという逸品でございます。

正直この連載もこの扇子のために始めてるみたいなとこありますからね。大御所とスポンサーに風呂敷広げてるからこっちもケツに火がついてるんじゃい!ということでまずは生暖かく見守ってやってください。あと4親等くらいまでの親戚に宣伝して回って、自己使用分、保存用、布教用で5本ずつくらい買ってください。

本邦初公開!村田蓮爾氏によるデザイン原画公開、プロダクトデザインの要点を絞る

と、いうわけで早速ですが村田氏がある日僕に持ってきてくれたデザイン原画がコチラ

「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」デザイン原画

古よりの村田蓮爾ファンならこちらの絵を見るだけで大体わかると思いますが、「鉄扇」ならぬ「鋁(アルミニウム)扇」でございます。

村田氏はイラストレーターとして可愛い女の子キャラクターにも定評がありますが、実は本人が一番力を入れているのが金属製品の素材表現。ちなみに村田氏にはじめて出会った頃「オレ金属の中ではアルミが一番好きなんだよね」と言われて困惑した事があります。そんな村田氏の妄執全開のプロダクトがこの「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」なのです。

ラフ画だけで適当に盛り上がってみましたが、当然このラフ画だけで商品を製作できるはずはありません。経験上、特に村田氏のプロダクトは微に入り細を穿つように、この絵だけでは伝わらないこだわりが後から後から出てくるのが通常運行。まずはこの絵から読み取りきれない仕様情報を洗い出していくことになります。で、この仕様情報の中身(や行ったり来たりで右往左往する話)を説明しだすと本が一冊書けるようになってしまうので割愛。最終的には上手くまとまりました。多分。

協力工場・商社の選定

まっとうな会社の商品開発工程ならばここでドンと商品の仕様書を作って、一旦上長とかに確認を取って、仲のいい取引先に見積もりとり始める、みたいな工程を踏むのですが、今回ご紹介する「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」の企画の成否を決めるボードメンバーは藤岡と村田氏の両名のみ(この時点ではまだ廣田社長には未相談)だったので特に書類も作らず、ラフ画とメモ書きだけで協力工場の選定を始めました。

村田氏の商品企画はいつもそうなんですが、ここが結構大変でした。基本的に工場・商社にとって割のいい商品というのは、「手離れの良いアリモノの部材だけで大きな数をまとめてくれる商品」なんですが、「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」はこれの真逆をいくモノ。そもそも完成させられるかわからないし、完成させられたとしても制作経費が高くつくのは間違いなし。となると手間をかけて見積もりしたとしても原価が高くなりすぎて、どうせ企画ごとポシャるんじゃないの?という担当者の心の声が漏れ聞こえてくるようなお祈りの嵐、ARASHIで1か月ほどかかってしまいました。

▼工場選定に際して集めた扇子サンプルの数々

これ、別に依頼しようとした業者さんの対応が悪いなどという話ではなく、至極まっとうな反応。業者さんも当然遊びじゃないので掛けた時間=コストに見合う成果がでなさそうならば付き合うべきではないですし、実際過去にも似たような座組の商品企画が見積もりの結果中止になったことは数えきれないほどあります。とかく新しい試みの商品企画というのはこういう困難とその困難に不安を覚える関係者というハードルを越えるために色々な努力を求められるモノなのです。

ともあれ最終的には、博物館などで企画展示に合わせたミュージアムショップのオリジナル商品を企画販売されている商社さんにご協力いただけることになり、ひとまず安心という事になりましたとさ。PROFECT INDUSTRIES株式会社さま本当にありがとうございます。

PROFECT INDUSTRIES株式会社が商品提供された科学博物館の毒展

フォーマットなどない!新プロダクトを世に出すために

生産協力をしてくれる会社さんが見つかったからと言って、村田氏のデザインラフ画を渡して準備は終わり、とは勿論なりません。そもそも世にあまり類のないプロダクトを創り出そうとするのですから関係者に共有できるゴールをしっかりと提示しなければなりません。

今回のプロダクト「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」は扇子の「外骨(紙や布を張る骨の一番外側の二本)」と「要(骨をまとめる支点を留めるためのパーツ)」の2パーツが特に既存の部材を使いまわせない特殊なモノになるので、これらのパーツを量産するためには「原型」か「金型制作に使える3Dデータ」を用意しなければなりません。

まあ幸いワタクシ少々CADなど嗜んでおりますので村田氏のラフ画を元に金型制作にも使えるデータを作成してみました。こちらご笑覧ください。

藤岡作CAD。実はこの後も細かい仕様変更が…

生産工場にて現実世界への落とし込み→見積もり

ここまできてようやく商品の仕様が関係者間で正確に共有され、生産計画や見積もりが立てられるようになります。ひとまず本件は物理的に不可能、みたいな要件は特に無かったので見積もりさえ成立すれば量産が可能というところまではこぎ着けられました。

そして、この段階でスポンサーであるライテック社の廣田社長にも承認いただきまして「FUTURICA CHORD PRODUCTS №01 SEN」が日の目を見られることがほぼ決定いたしました。めでたしめでたし。

で、ここでその見積もり内容を大公開!しようかと思ってたんですが、ちょっと長くなりすぎてきたのでお金に関する話は後半に回すことにします。

▼色々乗り越えてプロダクトが形になる姿を見ることができるのは幸せなことです

一旦今回はこの記事を書いている時点で出てきた扇子の外骨サンプルの画像をご紹介してまた次回。ご清聴ありがとうございました。ではでは。

求む!プロジェクトK取材協力者

この記事はあまり知られてないけど面白いモノづくりをしている会社や人を紹介していく連載企画です。「こんなことやってるのを広めて欲しいという」方がいらっしゃればぜひ取材にご協力ください。ケムール編集部がいつでもどこでも駆け付けます!
取材協力のご連絡はお問合せページ又は「kemur.contact@gmail.com」までお気軽にご連絡ください。

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