プロジェクトK vol.4 「手染めラウンド財布 タシルの街角」に込められた株式会社わちふぃーるどの、研ぎ澄まされたこだわりと技術

世界中、様々な用途で人間の生活における補助的役割を果たしている「革製品」。
今回は革製品を作ることに長年情熱を注ぎ込む「株式会社わちふぃーるど」にお話を伺いました。

株式会社わちふぃーるど・ご紹介

革製品の中でも本革は、合皮と比べて丈夫であることに加え「可塑性(かそせい:水で濡らした革を変形させると乾いた時にその形が残ること)」という性質があります。

その特性を活かして、精密な表現を得意としているのが「株式会社わちふぃーるど」です。

株式会社わちふぃーるど株式会社わちふぃーるど
X(@wachifield_com)

※わちふぃーるど社は「It’s a small Kawaii world」にもご出演いただいています。記事が気になる方はこちら

株式会社わちふぃーるど(Wachifield Inc.)創立1976年4月。会社設立1986年5月。
現 代表取締役・池田舞子の祖母(作家・池田あきこの母)が埼玉・鶴瀬にて革細工教室をしていたことからはじまり、1973年に革教室から革工房へ。当時は革小物を製造・販売。パッケージにはダヤンではなく、オリジナルの風景イラストを用いていたが、1983年に東京・自由ヶ丘に初の直営店を開店した際に、看板や包装紙に使用するマークとして『猫のダヤン』を用いるようになった。

そこから「不思議な国わちふぃーるど」の物語をつくりはじめ、ダヤンをはじめとする“わちふぃーるど”の住人たちが描かれたコレクション性の高いグッズが大きな人気を博している。

製品のジャンルは設立から50年を誇る革工房でつくられる革製品や、アートを使用した雑貨類、アパレルなど多岐に渡る。

【製品紹介】

手染めラウンド財布 曼荼羅(本牛革エンボス:手染め革版画×インクジェットプリント)
マリオネットキーホルダー/ブローチ(プリント牛革:手成形+アクリル)
その他商品

わちふぃーるど社は「ファンタジーを形にして思い出に残る商品をつくること」と「高品質なまま革製品の無限の可能性を追求する」ことに情熱をかけてものづくりを行っています。

他にどんな商品があるのか気になる方は公式オンラインショップを覗いてみてください。

40年以上前から続く手染め版画の歴史。「手染めラウンド財布 タシルの街角」のゴム版も公開!

わちふぃーるど社の独自性を担保する特徴の一つ「手染め版画」製品は革工房が発足する1976年より前40年以上もの間、作られ続けています。

このダヤンたち、全て顔が違います。

上の画像は「WACHI FIELD」のロゴとダヤンの顔が入った革製品たち。
このシリーズは製作初期ではエンボス部分(絵柄を浮き出させた部分)にゴム版を使用しており、すり減る度に新しい版をつくっていましたが現在は銅版を使用しています。
しかしこのエンボス部分に染め付けをする作業は40年前から変わらず、今も全て手作業で行われています。

今回は、40年営々と育まれ続けた手染め版画製品「手染めラウンド財布 タシルの街角」にフォーカスを当てていきます。

ちなみに本製品は革工房40周年(2016年当時)を記念して、あきこ先生のイラストをもとに手彫りのゴム版を舞子氏が一から制作したもの。

舞子氏制作の手彫りゴム版

この技法を使っていた当初はすべての商品を手染めで色付けしていたため、色数の多い本製品は製作に時間がかかることと、「彩色の人によって絵柄が変わってしまう」という問題点がありました。そこで、今まで別ものであったインクジェット技術と手染めを組み合わせることになったのです。

舞子氏と現場の職人たちとの試行錯誤の末、革にカラープリントをしてからゴム版でエンボス加工を施し、浮き出た部分を手染めするという流れが出来上がっていきました。

革にインクジェットプリントして手染めをしたが、エンボスの深さが足りなかった
色を入れずにエンボス加工後、手染めをしただけの状態。キャラクターの顔にインクが乗ってしまっているので商品にできない

開発から約半年、「手染めラウンド財布 タシルの街角」完成

わちふぃーるど社の工場では作業工程ごとに職人がいるため、この財布を一つ作るのにも多くの人が関わってきます。開発途中の製品はトラブルもつきもので、当時の舞子氏はあちこちの調整に駆け回り、安定した量産体制にこぎつけるまで半年もの期間を費やしました。

革屋から特製の革を受け取り、革の裁断からカラープリント、ゴム版プレスのあとには手染めを行い、いよいよ財布の形にしていきます。

縫い合わせる前の絵柄完成品
手で染めている線の部分は、一つ一つキャラクターやレンガなどの表情が少しずつ違う

革の状態から財布の形にするにも、多くの職人達がわちふぃーるど工場で作業を行います。
財布の外側、内側の縫い合わせ、ジッパー部分の調整、全てのパーツを縫い合わせる工程を終え、完成した「タシルの街角」がこちら。

手染めラウンド財布 タシルの街角

各工程を一人ひとりが真剣に取り組んだことで出来上がった、一つのアート作品のような財布。
外側も内側も本牛革を使用しているため、お手入れさえ欠かさなければ一生使い続けられる逸品に仕上がっています。

今回ご紹介した「手染めラウンド財布 タシルの街角」は現在でも定期的に生産をしているそうなので、気になる方は公式オンラインショップをチェックしてみてください。

わちふぃーるどを支える職人たち

手染め革版画の工程ではご紹介できなかった「実際に職人の方々が作業する姿」を、わちふぃーるど社から許可をいただき今回特別に公開

動画の中には革の裁断(型抜き)から型版のプレス、手染めや縫い合わせ、他商品の製作に至るまでを収録!これを見ればあなたも革工房わちふぃーるどの虜になる…

株式会社わちふぃーるどの今後の予定

わちふぃーるど社ではダヤン40周年を記念したイベントを開催しています。
ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

■2023ヨールカパーティ
会場 – 各地の店舗にて
会期 – 2023年12月2日(土)~2023年12月25日(月)
詳細はこちら

■東武百貨店 池袋店/ダヤン誕生40周年記念フェア ~ダヤンと過ごすクリスマス~
会場 – 東武百貨店 池袋店 8F催事場
会期 – 2023年12月14日(木)~2023年12月20日(水)
時間 – 10時~19時
詳細はこちら

株式会社わちふぃーるど代表・池田舞子氏独占インタビュー

ーーそれではよろしくお願いします。
池田舞子氏(以降池田):よろしくお願いします。

ーー早速ですが「革の持つ無限の可能性を追求し」と会社概要で拝見しましたが、今までに作った「これも革で作れる!」という自信作はありますか?
池田:今回紹介した「革版画」とか、「マリオネット(製品紹介参照)」なんかは革の可塑性を活かして作っているものなので面白いかなと思います。

あと、革製品はお財布とかを商品でよく見かけると思うんですが、毎月出していくとなるとバリエーションも必要になってくるので、一商品の中でも豚革・牛革で素材を変えたり、プリントしたり箔押ししたり何かしら工夫をしています。

ーー他に自信を持っていることはありますか?
池田:自社でインクジェットプリントもやってるんですが、昔のプリンターが登場した頃の、革の風合いを殺した仕上がりがどうしても気に入らなかったんです。

そこで前にいた工場長が、革の良さを残す方法を研究し続けて実現したのが今のプリント技術で。革の柔らかさやちょっとした傷もわかるぐらい風合いを残しつつ、原画の再現性もちゃんと保つインクジェットプリントなんです。

これを使ってOEMもしているので、有名なアニメ作品やキャラクターをプリントすることもよくあります。

ーーその技術を可能な範囲でお聞きしたいです…!
池田:プリントの仕方だけは企業秘密なんですが、下地になる革のなめし方とインクが落ちないトップコートを革屋さんと相談して開発しました。革とインクの無駄を最小限に抑えたやり方ですね。

ちなみに革のエンボス加工も結構珍しい技術だったりします。

エンボス加工の一例(版の彫りの深さを調整して自由にすることでポコポコ感の度合いが変わります)

ーー今回ご紹介した「手染めラウンド財布 タシルの街角」でこだわった部分を教えてください。
池田:やっぱりプリンターでの色付けとエンボス加工した後の手染めをするその組み合わせですかね。「アナログとデジタルの融合」という発想。私個人としては手染めがしやすいようにゴム版の彫りを調整したり、レンガのランダムな部分を表現できたところが気に入ってますね。

あとは、他の商品では内側部分を合皮で作っているところを、外側と同じくらい長持ちさせたくてこのシリーズだけ内側も牛革にしてます。外側は外側でヌメ革のタンロー(​​タンニンなめしろうけつ染め用の革:染色しやすいのが特徴)を使ってて、通常の革よりも使っていく度に馴染んですごくいい色になるんです。

だから外も中も一緒に「育てて」いって欲しいというか、「一生使えるもの」として製品開発しています。

ーー開発から製品が世に出るまでの中で大変だったことはなんでしょうか。
池田:量産体制を整えるまでが大変でした。これを作るまでは全面が革版画の商品がなかったので、みんな「いいんじゃない」と言いつつ仕上がりのイメージが掴めないから、ゴム版を使うならどの革がいいのか、手染めしやすい版の調整、どうやったらインクジェットプリントがずれないのかとか。色んなセクションの人達の間を駆けめぐりながら量産までいきましたね。

ーーその後のお客様の反応はいかがでしたか?
池田:反応はすごく良かったです。そもそもあまり見かけないやり方だったのもあるけど、外も中も本革で、手染めの部分は職人さんそれぞれで癖も違うから、買った瞬間から「あなただけのもの」になるんですよね。そういうところも評判良かったし、催事で商品を展示している時なんかに、たまたま「革のお財布が欲しい」ってダヤンのことを知らない人が来て、製作工程のご案内をしていたら「買います」って言ってくれたり。「ダヤンがどうこう」じゃなくて技術的な面で価値を見出してくれた人もいました。

ーーそれはめちゃくちゃ嬉しいですね。
池田:嬉しいですね。「ダヤン好き」じゃない人が買ってくれた時が本当に嬉しい。

ーー普段の製品開発の流れはどんな感じなんでしょうか。
池田:月に1度の会議でデザイナーに案を出してもらって、その会議で「いくらでいつ売り出すのか」という話と実際に作るもの、作らないものを決めて。そのあとは雑貨類と革製品で流れが変わるんですけど、雑貨類はメーカーさんに製造をおまかせするのでデザインを入稿してサンプルが上がってくるのを待ちます。

革製品だと、提案の時点でデザイナーから職人に「こういうの作れない?」って投げかけて職人が一度作ってきたものをもとにブラッシュアップしていくんですが、量産できるやり方であるかも重要なので、そこを詰めてから型紙を作って量産するパート職人さんたちが試しに5個作ります。

ーーそれは何故でしょうか。
池田:一個だけ作ると無理がきいちゃうので。5個が同じレベルでできているかを試して、「革をもう少し薄くして欲しい」とか「このコバの色だと目立つから変えたい」とか更に調整を加えて100個単位の量産に入ります。

ーー発案から量産体制が整うまでどのくらいですか?
池田:物によってバラバラです。ちょっと複雑なバッグだとまあまあ時間かかるし、反対に小物だと早いです。

ーー毎月どのくらいの商品点数を作られるんでしょうか。
池田:6,70点を300個〜2000個くらい作りますね。

ーー現在販売しているラインナップでわちふぃーるどおすすめの一品は?
池田:40周年コレクションです!
40周年のテーマを「」にしているんですけど、旅で泊まるホテルっていう切り口で「ホテルわちふぃーるど」シリーズの商品展開を2023年から継続的に展開しているのでぜひ見ていただけると嬉しいです!

ホテルわちふぃーるどシリーズ

ーーちなみに「猫のダヤン」はショップとのコラボなどの事業展開はされていますか?
池田:岡山には何かとご縁がありますね。あきこ先生の原画展でお世話になっている新見美術館だとか、あきこ先生が書いている瀬戸内エッセイ「ダヤンの瀬戸内 ぶらぶら旅」を「夢二郷土美術館」を管理されている両備グループさん運営のサイトで掲載させてもらってたりとか。伊勢崎創先生の備前焼とダヤンをコラボさせていただいたり、岡山デニムさんもそうですね。

左から備前焼、岡山デニムコラボ商品2点

ーーダイソーコラボも最近お見かけしましたが、驚かれているファンの方も多かったように思います。なにかきっかけがあったのでしょうか。
池田:東京ビッグサイトで開催されたギフトショーに参加した時にダイソーの方がブースに来てくださって、ぜひコラボしましょうってお話をいただいて。

今まではこういったコラボはしてこなかったんですが、ダヤン40周年ということもあって、店舗も多いダイソーさんのお力を借りてもっといろんな人にわちふぃーるどを知ってもらおうとコラボを決めました。

他にも、「Pullip」さんとのコラボでダヤンの飼い主「リーマちゃん」がわちふぃーるどまでダヤンを探しに冒険に出る姿をイメージしたドールも製作しました。

Pullipコラボ商品ページ
ダイソーコラボ商品ページ

Pullip コラボ商品「リーマ」

ーーこの作品(たち)を通して、見た人へ伝えたいことはありますか?
池田:ダヤンって絵本のイメージがやっぱり強くて、フルカラーイラストや雑貨もあるし「ダヤンがかわいい会社」って思われることが多いんですよね。でもダヤンのお話っていうより「」ありきでやってきた会社なので、革に対するこだわりがすごい強いんです。

例えば「DBシリーズ」の革の色がDBっていう名前で、私たちも「DB=ダヤンブラウン」って呼んでるんですけど、同じ色の革を使ってるはずなのに一つ一つ微妙に違うんですよ。

ダヤンが気まぐれな性格なので、「DB(ダヤンブラウン)だしいっか」ってその違いを社内では楽しんでたりして。全面プリントと違って革本来の風合いも出やすいのでそこも大事にしているんです。小売店さん側からは「傷がついていないツルッとしたのが良い」って言われたりするんですけど、「この革は表面が綺麗だから良い」わけじゃないという気持ちはすごくあって。だからといって「ダヤンが入ってたらそれで良い」とも違うでしょ?って思うし。

手染め版画」の手で線一本一本を染めていくやり方もそうだけど、会社が築いてきた職人としてのプライドがなんだかんだあって、「DBシリーズ」にしてもこのシンプルな一商品の中に工夫がたくさん詰まっていて、色合い・染め方・使う版とか含めて「革工房わちふぃーるど」がもっと世間に伝わるといいなと思っています。

ーーお恥ずかしながら、今までにダヤンのイラストを見かけたことはあったのですが、「絵本を出しているのかな」という程度で実は会社名も、どんな商品を作っているのかも知りませんでした…ターゲット層はどのあたりなんでしょうか。今後、ターゲットを広げていきたい気持ちはありますか?
池田:ダヤンで言うと、30代後半〜60,70代くらいまで幅広いファンの方がいらっしゃいますね。高年齢層の方だと自分の子供や孫世代までひっくるめて好きで居てくれてあきこ先生のサイン会にも来てくれたりします。女性が多いですね。

でも革が好きな男性は多いと思うんです。あと猫が好きって男性も。だから「」の切り口から私たち会社を「こういう“ものづくり”をしてる所っていいかも」という目で見て知っていただきたいと考えています。

ーー推進させていきたい事業や製品、イベントもあれば教えてください。
池田:40周年記念ということで集大成として色んなことをしてるので、興味のある企画があれば遊びにきていただけたら嬉しいです。

40周年記念特設サイト

あとは革製品づくりや、プリントやマーキング技術もノウハウをかなり持ってるので、「40年以上日本製で革工房やってるわちさんはOEMもやってる」っていうのが広まると使いどころが何かしらあるんじゃないかと思っています。

また、2010年からダヤンの活動の一環で「ボルネオの森」を買う活動をずっとしています。本格的に活動を始めたのはあきこ先生の絵がきっかけだったんですが、この絵をモチーフとしたグッズの売上の一部を団体に寄付したり、あきこ先生の原画オークションでの落札額を全て寄付金に充てて「ダヤンの森」を取得する取り組みになります。

ダヤン誕生から40周年という節目もあり、「ダヤンの森IV」購入へ向けプロジェクトを進行中。年内にはⅣの購入、24年はⅤへ向けた活動を予定しています。
ご興味がある方は「Save the Forest」ページをチェックしてみてください!

活動のきっかけとなったダヤンのイラスト「森のささやき」

ーーたくさんのお話ありがとうございました。この記事を読んだ読者にも、何かお土産になるものがあるといいなと思うのですが…
池田:革を無駄にしないために、端革(ハガワ)を使ってつくったストラップがあるんですが、これでよければ!

ーーー

ということで、株式会社わちふぃーるど・池田舞子氏にいただいた「端革二枚貼り+型押しストラップ」を抽選で3名様にプレゼントします!
応募はケムール公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー+該当のポストをリポストして完了!
応募期間は一週間なのでお早めにご応募ください。

↓該当ツイートはこちら。

株式会社わちふぃーるど制作・端革二枚貼り+型押しストラッププレゼントキャンペーン

求む!プロジェクトK取材協力者

この記事はあまり知られてないけど面白いモノづくりをしている会社や人を紹介していく連載企画です。「こんなことやってるのを広めて欲しい」という方がいらっしゃればぜひ取材にご協力ください。ケムール編集部がいつでもどこでも駆け付けます!
取材協力のご連絡はお問合せページ又は「kemur.contact@gmail.com」までお気軽にご連絡ください。

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