プロジェクトK vol.3 からくりの申し子・からくりすと鈴木完吾が魅せる「構造の視覚化」と「壁掛けからくりタイマー」

「プロジェクトK」はあまり世に知られてない「商品」たちが、なぜ・どうやって作られていくのかというのを面白おかしく伝えていく連載です。普段目に止まらなかったり、気にしていなかったモノが生まれる背景に潜むドラマをぜひお楽しみください。

からくりすと・ご紹介

我々の生活や仕事を助ける機械。いわゆる「自動装置」と呼ばれるものはおおよそ人の手によって設計されていますが、制作者を除いてその仕組みを知る人、知る機会はほとんどありません。

例えば時計には、機械式時計の針を正しい速度で進めるための「脱進機(だっしんき)」が必要不可欠です。
しかし機能さえすれば設計は自由なので形もさまざま。時計一つ取っても、中身を見てみると全く違う設計だったりします。

今回は今まで30作品以上のからくりを制作してきた「からくりすと」の鈴木完吾氏にからくりをどうやって生み出しているのかお話を聞きました。

からくりすと-karakurist-からくりすと公式HP
X(@BellTreeNursing)2016年の卒業制作でからくりを制作して以降、多くのからくりを設計・制作する。
もともとは手作業でパーツを切り出していたが、2022年ごろよりCADデータから3Dプリンターでパーツを出力・組み立ても行うようになる。

【制作実績】

書き時計
機械式7セグ時計
カップヌードルタイマー
トゥールビヨンの置き時計
ホムンクルス

2023年9月に「株式会社開日ホールディングス」との共同制作で巨大からくりを創り上げた鈴木氏。そのほかにも大小さまざまなからくりを動画形式で披露されているのでご興味のある方は公式サイトやSNSを見てみてください。

■巨大からくり

シンプルだが遊び心のあるからくり「壁掛けタイマー」の試み

2023年7月に制作された「壁掛けからくりタイマー」は、1〜10分の間で1分ごとに計測時間を変えられる作品で、計測終了時には時間に応じた数の鐘が鳴る仕組みとなっています。

当時すでに3Dプリンターでからくりの制作を行っていた鈴木氏は、組み立てに必要な全てのネジも出力しています。その時のCADデータと設計メモもいただきました。


機械」と聞くと「中身の仕組みが複雑でよく分からない」イメージを持ち、抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、必要な材料を揃えて工程通り作れば使えるようになるモノ。という意味では、服を作ることも料理を作ることも一緒で、材料が違うだけなのだと分かります。

鈴木氏は外観のデザインは勿論、各「機構」の設計をすべて自分で行っており、今回の壁掛けからくりタイマー制作に掛かった期間は10日ほど。

ネジを3Dプリンターで出力した理由は、データ販売をする際にネジが別売りだと手間が増えるためで、ユーザーのことも考えて設計されている点に尊敬の念を覚えます。
さらにはドライバーも出力ができるようデータを作成したようで、3Dプリンターの可能性は無限大であると同時に鈴木氏へのリスペクトが止まりません。

出力・組み立て・動作確認。パズルのピースがハマるような感覚

タイマーに必要な部品はその数165点。というのも、本体幅が35cmで鈴木氏の出力するプリンターでは造形できるサイズを超えていたため。こんな時は大きな一つのパーツを分割して設計を行います。
(実際のところ、35cm以上の造形が可能な3Dプリンターはお値段もウン百万にのぼるモデルもあるので、パーツを分割していただき大変助かります。ありがとうございます)

出力した後は部品を重ね、ネジを回して組み立てます。これを実際に見ていると、あるべきところに部品が収まっていく様がかなり気持ちいい。上の画像は冒頭でも話した「脱進機」を組み立て中。

組み立て終えると、テンプ(振り子の役割を担う部品・画像内緑色のパーツ)の回転速度を1秒一往復とするため、ネジの差し具合を調整してストップウォッチで測っていく。なかなか地道な作業です。

脱進機の調整が終わるとタイマーの土台を組み立て、鐘を鳴らすからくりを取り付けていきます。
青い歯車が回転すると、球が下のポケットから上のスライダーへ運ばれていくところがピタ⚫️ラ⚫️イッチ的でワクワク。じきに計測時間に達すると球止めの青いレバーが外れて鐘が鳴るという仕組みは、音で分かりやすく、見た目も楽しい設計が童心をくすぐります。

次に錘と連動して回る赤い歯車を球運び歯車と連結させて、最終的に右下に取り付ける脱進機から全ての歯車が連動する仕掛けを組み立てていきます。

出力するフィラメントの色も自由なので、子供のころ親に強請って買ってもらったおもちゃの組み立てキットのようなトキメキも思い出しますね。

仕上げにタイマーをセットするのに一番重要なダイヤルリングを取り付けたら完成!
最後にしっかりと動作確認を行います。

リングを最大計測時間の10分まで回した時の全体像はこんな感じ。錨の形をした錘が可愛らしいデザインです。

こちらのタイマーはBASE、BOOTHにてデータ販売・物販を行っています。
ご興味のある方はぜひ覗いてみてください。

BASEhttps://oishiiosushi.thebase.in/items/76554791
BOOTHhttps://karakurist.booth.pm/items/4933540

「からくりすと」のこれから

鈴木氏は今後も思いついたものをどんどん作っていくとのこと。
開日ホールディングスとの巨大からくり制作を経て、面白い提案があれば協力は惜しまないという、やる気に満ち溢れた答えを返してくれました。

からくりづくりの申し子・鈴木氏への制作依頼はこちらからご連絡ください。

制作依頼はこちら

からくりすと・鈴木氏独占インタビュー

ーーそれではよろしくお願いします。
鈴木完吾氏(以降鈴木):はい。

ーーからくり作品を作り始めたきっかけはなんだったんでしょうか。
鈴木:大学の卒業制作で「からくり時計」を作ったのがきっかけで、それから色々からくりというものを沢山作っているような感じですね。

■卒業制作「書き時計」

ーーもともとからくりを作るのが好きだったんですか?
鈴木:動く仕組みとか、そういったものを見たりするのが好きだったんです。それで、卒業制作で「からくり」にフォーカスして時計を作ったのが最初ですね。

ーーではそこで「からくり」の仕組みについて学んだと。
鈴木:そうですね。

ーー作品を作る中で、常に考えていることやこだわり・信念のようなものはありますか?
鈴木:一貫して「構造の可視化」がコンセプトにあって、からくりの仕組みをどのように見せるか考えながら作っています。

ーーなるほど。今回は「壁掛けからくりタイマー」を取り上げさせていただきましたが、作品たちはすべて鈴木さんが設計してらっしゃるんですか?
鈴木:そうですね。最初から最後まで自分でやってます。

ーーすごい!何か参考にされているものとかあるんでしょうか。
鈴木:機構模型とかを参考にすることはありますけど、それを組み合わせて作るのが好きですね。例えば時計だったら時計の機構を調べて、実際に一度作ってみたりするんですが、そこから「自分の制作にも活かしてみる」という意識で作っています。

ーー発案はどんなタイミングで?
鈴木:なんだろうな…生活している中で、「これが欲しいな」と思う時があるんですけど、実際それをからくりで作れないかとある種ひとつの課題として捉えて、どんな仕組み・仕掛けにするかを色々考えを広げていく感じですかね。

ーーYouTubeでもコメントをよくいただいていますよね。
鈴木:そうですね。コメントで「こんなの見てみたい」というのがあれば、作ってみたりもします。

ーー制作はまず何から始めるんですか?
鈴木:スケッチとまでは行かないですが、どういう風な形にするのかアイディア出しから始めて、必要な部品と歯車の噛み合わせを計算してCADで設計をしますね。

ーー今回取り上げた「壁掛けからくりタイマー」はいつごろどんなきっかけで作った作品なんでしょうか。
鈴木:確か2023年7月ぐらいでしたね。3Dプリンター製の時計を作りたいというのが一つあって、でも「時計」だとずっと動かし続けるのが正規品と比べて使いにくく感じるんじゃないかと思っていて。それならタイマーにして使う時だけ動かせるようにしてみたらどうだろうか、と考えて作っていきました。

ーー発案から完成まで約10日とのことでしたが、各工程どのくらいのペースで進めていったんでしょうか。
鈴木:設計に4日ほどかかっていて、部品のデータ作成・出力に3日程度、組み立てに2日くらいかかりました。設計が上手くいっていれば基本的にスムーズに進められるので、そこに時間をかけています。

ーー一番こだわった部分は?
鈴木:あの作品は一番外側のダイヤルリングを回すと好きな時間にタイマーが設定できるんですが、その「動かすだけで良い」ところの分かりやすさ、そして楽しさもある面白い作品になったんじゃないかなと思っています。

ーー制作中に気をつけたことや大変だったことは?
鈴木:結構部品が多くて、特にネジの3Dデータを作る時に寸法を合わせたりとか、「この寸法のネジはこの目印」というようにぱっと見で分かるように設計することで「誰でも組み立てやすく」という点に考慮しながら作りました。実際にどのパーツを出力する必要があるのか説明書きを加えた組み立て説明書なんかも作ったりして。そこが大変だったりもしましたかね。

組み立て説明書・脱進機完成形

ーー3Dプリンターの出力でよくあるのが「パーツ同士が上手くはまらない」ことだったりしますが、鈴木さんもそういうことはあるんでしょうか。
鈴木:そうですね…プリンターのスペックもそうですし、使う人の環境によって若干ずれは生じるものなので、組み合わせる部品に関してはある程度余裕を持たせるように隙間を作っています。「上手く行かない時はドリルで穴を開けてください」といった注意書きを書いておいたりもしますね。

ーー今までの作品で設計した部品を、新たに作る作品に流用したりすることはあるのでしょうか。
鈴木:やりますね。例えば時計の心臓部分「脱進機」とかはすでにデータを作ってあるので、いろんな作品に組み込んだりできる状態になっています。

ーー世にある「脱進機」って様々な種類がありますけど、鈴木さんが使用しているのは鈴木さんデザインのオリジナルモデルということですか?
鈴木:そうですね。原理や寸法が同じもので、3Dプリンター出力用に設計したものがあります。

ーー作品をいくつか拝見して、どれもカラフルだなと感じているんですが、配色にはこだわりはあるんでしょうか。
鈴木:もともと木材加工で作品作りをしていて、3Dプリンターを使い始めたのが1年ほど前からなんですが、折角3Dプリンター使うんだったらカラフルな樹脂もあるので、そういったものを使いたいなと思って色々なフィラメントを使用してます。

ーー好きな配色はありますか?
鈴木:レトロカラー的な…昔っぽい配色は味があっていいのかなと思っています。

ーーBASEBOOTHで販売している商品の中でどれが一番人気ですか?
鈴木:人気なもの…データだと「トゥールビヨンの置き時計」が人気ですね。完成品物販だと木工の「ホムンクルス」が結構売れたりしてます。

ーー頑張って作ったものを買ってもらえるのは嬉しいですね!私がこっそり気になっていたのは「機構模型セット」なんですが、これって実際に手で動かせるものなんですか?
鈴木:動かせますね。データ販売のものだとちゃんと組み立てられたら動くようになってます。

機構模型セット・ver.2

ーーこれも全て鈴木さんの方で設計を?
鈴木:そうです。

ーー制作ペースはどれくらいでしょう?
鈴木:だいたいひと月に一作品出していますが、作品自体は一つ当たり2週間で出来上がるようなイメージですね。

ーーえぇ!かなり早いように思います…コンスタントに作れるのすごいですね…アイディアに詰まったりしないんですか?
鈴木:普段からこういうからくりあったら面白いなというのは考えているものの、実際にちゃんとできるかってなると計算したり練り直したりということもしています。

ーー開日ホールディングスさんとコラボしているのをお見かけしてスケールの大きさに脱帽しました…他にもこういったコラボレーションはされているんですか?
鈴木:コラボレーションはあまりしてなくて、当時は開日ホールディングスさんがデカい工作機械をお持ちだったので、それをお借りして作ることができたという感じでしたね…

ーー今後もこのようなコラボレーションをしたいと思いますか?
鈴木:そうですね…面白そうだったらやりたいなと思いますね。

ーー今後の活動について教えてください。
鈴木:3Dプリンターを使い始めてまだ日が浅いので、このプリンターを使って作れるからくりの幅を広げていきたいと考えています。

ーー読者の方にも何かプレゼントになるものがあるといいなと思うのですが…
鈴木:さっき話に出た機構模型セットが一式ここにあるのでこれでもいいですか?

ーーありがとうございます!こちらで取材は終了とさせていただきます。
鈴木:ありがとうございました。

ーーー

ということで、からくりすと・鈴木氏にいただいた「機構模型セット」を抽選で1名様にプレゼントします!
応募はケムール公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー+該当のポストをリポストして完了!
応募期間は一週間なのでお早めにご応募ください。

↓該当ツイートはこちら。

からくりすとオリジナル「機構模型セット2」プレゼントキャンペーン

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