プロジェクトK vol.8 木工房 千舟が切り出す絵本の1ページに浮かぶ、木のぬくもりを携えた「寄木の潜水艦」

今回ご紹介するのは、様々な種類の木材を使用した装飾工芸技法の「寄木(よせぎ)」や「木象嵌(もくぞうがん)」。
その中でも「絵本の中の1ページのような木工作品」をつくる、「木工房 千舟(もっこうぼう ちふね)岩宮千尋(いわみやちひろ)氏にお話を伺いました。

木工房 千舟・ご紹介

木工房千舟
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木工ろくろや組み木、木象嵌などの技法を使い作品づくりを行う。

メイン作品の一つである木象嵌の絵画のコンセプトは「架空の国々を旅して回った人が、旅の中で記憶に残った風景や建物」。
初めて見るはずなのにどこか既視感があるような、不思議と懐かしさを覚える雰囲気が男女問わず人気を集める。

その他にもアクセサリーや、むっつりした鳥をモチーフにしたオリジナルキャラクターの雑貨を製作する。

着色を行わず、“”そのままの色を組み合わせてノスタルジー溢れる作品を生み出すことを得意とする木工房 千舟・岩宮氏。

木工房 千舟についてご興味がある方は、公式ホームページをご覧ください

活動の第一歩「寄木の潜水艦」

作品「寄木の潜水艦」

岩宮氏に話を聞くと、今回取り上げる「寄木の潜水艦」がこの活動の原点となる作品であることが分かりました。
発案時から「絵本の中の1ページのような木工作品をつくりたい」という変わらない想いを具現化した潜水艦は、コロンと丸いフォルムが親しみやすさを感じさせます。

「寄木の潜水艦」の製作工程大公開!

製作途中の潜水艦

まずは木材を必要な厚さに製材します。

潜水艦は大まかに、艦本体部分と本体後ろのスクリュー、本体上部の操縦室に分けてパーツを作っていきます。

艦本体の製材の様子・異なる木材を3種組み合わせる

艦本体は3種類の寄木のため、同幅に切り揃えた木材を合計33mmになるよう厚さを調整し、貼り合わせていきます。

角材は木工旋盤(もっこうせんばん)に取り付け、回転させながら削ることで卵型に変身
艦本体の形に近づきました。

寄木の卵ができました

スクリューと操縦室のパーツを取り付ける前に、本体にもう少し加工を施します。

はじめに操縦室を取り付ける面を平らにならし、次に船室の窓穴を卓上ボール盤で開けていきます。


開けた穴に接着剤と窓用の棒をはめ込んで乾燥させます。再び表面を綺麗にならして艦本体パーツは完成です。

艦本体のパーツ製作と並行して、スクリュー操縦室も形を整えます。

操縦室の煙突は穴を開けた角材に煙突用の棒を差し込んでいる
操縦室の窓は“はんだごて”で焦がしてできあがり

揃ったパーツを艦本体に取り付けて、手のひらサイズの「寄木の潜水艦」の完成です。

完成した「寄木の潜水艦」

そして今回は特別に、木工旋盤で艦本体を卵型に削る様子を岩宮氏直々に動画に収めてくださいました!

職人の御業、とくとご覧あれ!

木工房 千舟のこれから

木工房 千舟は、4月21日(日)~28日(日)の間、岩宮氏の母校である武蔵野美術大学のチャリティー企画販売として「ギャルリ朔(ついたち。)」にて『「作家市・つくりびと」vol.4』へ出展いたします!

他の卒業生の作品も並ぶので、気になる方は要チェック

イベント情報はこちら
https://www.musabi.ac.jp/topics/20240325_03_01/

他のイベントでも作品販売がございますので、ぜひお越しください。

デザインフェスタ59
https://designfesta.com
5月18日(土)、19日(日)

木工房 千舟・岩宮千尋(いわみやちひろ)氏 独占インタビュー

ーー潜水艦本体の配色はどうやって決めていますか?
岩宮千尋氏(以降岩宮):定番にしている色の組み合わせは「焦茶薄茶」なんですが、他の変わった色の組み合わせはその時手元にある材料から選んで「この配色綺麗だな」というものが見つかれば新しいパターンでつくることもあります。

ーー艦本体で私が好きな配色は写真2枚の焦茶×白×赤茶(薄茶?)なんですが、これは何の木を使っているんですか?

岩宮:①は上からウォールナットミズキサクラですね。真ん中の白い木「ミズキ」は仙台こけしにも使われている木材で、自分の作品で一番多く使っている木です。
②の方はウォールナット・ミズキは変わらず、一番下は確か…「唐変木(とうへんぼく)」だったと思います。

ーー…“あの”唐変木ですか?
岩宮:そうですね。若い子に「唐変木」と言ってもあまりピンと来ないようですが…悪口としても使われる“あの”唐変木です。

ーーこんな良い色なんですね…
岩宮:これは寄木作品を製作している方からいただいたんですが、「色が綺麗だから寄木には使えるけど、家具とか強度を求められる木としては使えない。だから悪口にも使われたんじゃないかな…」という話を聞きました。

ーー大物をつくるには強度が足りない木ということですね。
岩宮:そうなんです。比較的軽い木なんですよね。ちょっとスカスカしている感じで。でも色はすごく綺麗なので、使い所を間違えなければとても良い木です。

ーー岩宮氏のお気に入りの木はなんですか?
岩宮:え〜…たくさんありますが、「ケヤキ」や「神代楡(ジンダイニレ)」でしょうか。
ケヤキはおぼんやお椀にも使われている日本では馴染みのある木で、山吹色の発色が綺麗なところが好きですね。
もう一つの「神代楡(ジンダイニレ)」は青緑がかった色をしていて、木としては珍しい色ですが寄木として使うと効果的に映えるのでお気に入りです。

もちろんウォールナットやサクラも大好きです……あるいは木目がグラデーションがかっていたり、木目がツートンカラーだったり色が混じっていたり「フラットな一色でない木目が好き」と言いますか。

なので、「この木が好き」というよりかは、「面白い木目がある木が好き」です。
出先で出会ったら思わず買ってしまうこともありますし、お気に入りの木目を買ったら、ここぞという時に使ってあげようと考えています。

ーーこの活動を始められたのはいつ頃ですか?
岩宮:「木工房 千舟」として活動を始めたのは2014、5年頃だったと思います。その時はまだ会社員でした。
武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科を卒業して、お土産屋さんに置くような小さな木工作品をつくる会社に就職しました。
全体的に可愛いフォルムの作品が多かったので、活動を始めると決めてから、自分なりに考えていたオリジナル作品にも学んだ造形技法を活かせることが多くありました。

会社を辞めてから、本格的に活動を始めたのが2016年頃からです。

ーー木材はどうやって仕入れていますか?
岩宮:勤めていた会社が小田原だったので、住居は多少離れてしまいましたが、今でも小田原のコミュニティを大事にしています。
元職場の取引先から仕入れたり、小田原で活動している寄木職人さんの製作過程で出た端材をいただいたり、元職場の先輩方と情報交換しながら仕入れています。

ーー普段はどんなものを作っていますか?
岩宮:基本的には片手に乗るサイズの木工雑貨を、大きく4つのシリーズに分けて製作しています。
まず一つ目に、私は「トリシリーズ」と呼んでいるんですが、目が吊り上がって怒ったような顔をしたトリをつくっています。
明確な品種を決めているわけではないんですが、ヒヨコ・アヒル・ブンチョウなどに見えるようなデザインになっていて、鏡餅を模したトリをつくったところから始まり、最近はシーズンごとに装いを変える特徴を持たせています。
他にペンギンもいるので、気になった方はぜひ店舗やイベントに見に来てください。

二つ目に、今回取り上げていただいた潜水艦を含む、建物・乗り物系シリーズ。三つ目に立ち姿の「こけし」と呼んでいるおかっぱ・マッシュルームヘアの女の子シリーズ
四つ目に木象嵌のブローチや小物入れなどの木象嵌シリーズになります。

ーー「寄木の潜水艦」をつくろうと思ったきっかけは?
岩宮:会社員時代、休み時間にこっそり手遊び的にモノを作っていたときに生まれました。
その時は乗り物の、それも「」が好きで。船といっても「SF」が好きだったので「宇宙船」とか「UFO」とかああいった造形の、メカメカしさというよりも子供が描いたようなふんわりと浮かんでいる乗り物が好きだったんです。

会社では動物のイヌやネコをつくっていたので、たまには顔がない「乗り物」を木製品でつくったら可愛いんじゃないかと考えて、その時ちょうど学んでいた寄木から、異素材の板を三枚組み合わせるところから始めました。

丸く挽いて、外国の船体のようにパキッとした配色で、側面に窓をつけて…と、自分が思い描く形…スペースシップのようでいて潜水艦にも見えるモノを遊びでつくっていったのが始まりです。

ーーもしかして、活動前に自分で製作した初めての作品だったり…?
岩宮:言われてみればそうかもしれません…!
それでも初期案をつくって販売したあとは潜水艦には全く手をつけていなかったんです。そのうちにコロナ禍に入って、またつくってみようかなと思い立ちまして。

ーーこの作品を私の方で選ばせていただいたことにも運命を感じます。
岩宮:そう言っていただけて嬉しいです。

ーー潜水艦のデザインコンセプトは?
岩宮:これはすべての作品に言えることですが、自分の作品は「絵本の中に出てくるような世界観」にしたくて。中でも乗り物である潜水艦は、リアルな造形となるとUボートや、プラモデルみたいになってしまうのを避けたかったので、「これ、潜水艦として機能しないんじゃないか…」と思いつつも、もう少し可愛らしい見た目でつくりたいという想いがあってこの形になりました。とにかく可愛い潜水艦をつくりたかったんです。

ーー特にこだわっている部分はなんですか?
岩宮:スクリューの形ですとか、寄木の組み合わせ丸みのあるフォルムにこだわっています。
作品全体で言うと持ちたくなるような造形です。好きだからというのもありますが、全体的に丸みのあるフォルムにしているので、手に持つことで癒されたりとか、柔らかさを感じられるようなつくりにこだわっています。

「寄木の潜水艦」のもととなる沢山の卵

ーー潜水艦は他の作品と比べてもパーツの多さや構造が複雑な印象ですが、製作で大変なことはありますか?
岩宮:穴を開けるのは毎度緊張しますね…それ以外では製作を重ねてノウハウが蓄積されているので、大変なことはあまりないのですが…。
あとは、サンダー(研磨工具)でパーツを削る時は、ジグがあるわけではないので目視であわせていく時間が大変だったりするかもしれません。

ーー強みや、得意としていることは?
岩宮:私の作品ほぼすべてに言えることですが、作品のカラーリングは木そのものの色を使っていることです。子供用のおもちゃの木製品ですら安全な塗料でも着色しているものがありますが、そうではなく、黄色も黒も緑も、元からその木に備わっていた色をそのまま活かして、配色を考えているところが強みですね。

ーーどういう方に人気ですか?
岩宮:男女比で言うと、最近まで女性が大半だと思っていました。
ただ私自身「ハンドメイド系のイベント」に出ることが多くて、そうなると参加する人のほとんどが女性なので、そこに偏りがあったんじゃないかと。

実際にこの前出展した「ワンダーフェスティバル2024(2月11日)」では至上初、男性のお客様の購入割合が女性よりも多かったんです。

購入される商品は、男性は乗り物で女性はブローチと全く違いましたが、それでも新しい発見でした。
今度ワンフェスに出る時は、ワンフェス限定で男性心をくすぐるものを準備して持っていこうかな…と帰り道考えていました笑

ーー素敵なアイディアですね!楽しみにしております。
ファンの方からいただいた感想の中で印象に残ったものはありますか?

岩宮:いただいた感想はなんでも嬉しいですが、特に個人的に思い入れがあるのが「木象嵌」の作品で、「見ているとなんだか涙が出てくるような気がする」という言葉がかなり印象的でした。マイナスなイメージではない涙ですね。他にも木工房千舟の象嵌作品を見てこう思いましたと感想をいただいた時はすごく嬉しいです。その人の心に少しでも触れられたのかなと。

ーー今後作ってみたいものはありますか?
岩宮:大きめの作品を作りたい気持ちがあります。
インタビューの途中で仰ってくださった「手乗りサイズの作品たちをディスプレイした後ろに、額縁に入った背景があるといいな」という案に近いものを私も考えていて、その大きさに耐えうる設計をして臨みたいです。

ーー製品はどこで販売されていますか?
岩宮:インターネット通販、雑貨屋さんへの委託、即売会イベントで販売しています。
インターネットでは在庫がいくつかある作品を置いていて、木象嵌などの一点モノはあまり置いてないので一番品数が多いのはイベントに出展するときですね。

委託販売はその中間で、色んな場所に置いてもらっているのでぜひ探してみてください。

【委託販売先一覧】
海福雑貨
鎌倉八座
GINZA HAKKO 木の香
小田原観光交流センター
京都蔦屋書店

ーー製品について、見た人へ伝えたいことはありますか?
岩宮:木工房千舟のコンセプトである「絵本の中の1ページのような作品」をこれからも作っていきたいなと思っているので、作品を見た時に少しでも笑顔になってもらえたり何か物語を感じてもらえたら嬉しいです。
これからもお側に置いていただけるような作品作りを心がけていきたいです。

ーー最後に、読者の方にも何かプレゼントになるものがあるといいなと思うのですが…
岩宮:では「寄木の潜水艦」を…

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ということで、木工房 千舟の「寄木の潜水艦」を抽選で1名様にプレゼントします!

応募はケムール公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー+該当のポストをリポストして完了!
応募期間は二週間なのでお早めにご応募ください。

↓該当ツイートはこちら。

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