プロジェクトK vol.9 羊に魅入られた「Ovis Lamp」嶋浦氏が仕立てる羊毛ランプ「moffi」

電気機械がまだ発明されていない紀元前より人と暮らし、生活を助けてきた「ヒツジ」から刈り取ることができる「羊毛」。
化学繊維では生み出せないと言われるほど多くの特徴を持つ羊毛。その可能性や願いを灯りに込めた「Ovis Lamp嶋浦顕嶺(しまうらあきお)氏にお話を伺いました。

Ovis Lamp・ご紹介

嶋浦顕嶺公式サイト
Ovis Lamp
X(旧Twitter):@OvisLamp
Instagram:@ovislamp

インテリア関連会社に勤めたあと、正社員を辞めて照明工房「Feel Lab」に所属。
木工、電工、照明製作に携わり、その後独立。
2019年3月「Ovis Lamp」を設立。

「Ovis」はラテン語で「ヒツジ」を意味する。その名の通り、ランプシェードは羊毛を加工してつくられており、LEDを光源に大小さまざまなライトを製作・販売する。

見えすぎないから、感じ直せる」をコンセプトに羊毛照明を製作するOvis Lamp・嶋浦氏
羊毛のシェードから漏れる、あたたかくまろやかな光が「気持ちも優しくしてくれる」と男女問わず人気です。

Ovis Lampについてご興味がある方は、公式ホームページをご覧ください

どんな部屋にも馴染む吊り照明「moffi」

吊り照明「moffi」

電熱線を使用していた頃のコタツに潜ったり、お祖父さんの懐中電灯で遊んだり、北海道修学旅行での小樽のガラス照明を自分のお土産に購入するなど、子供の頃から照明に対して印象に残る想い出があった嶋浦氏。

照明工房からものづくりの学びを経て、自分の中の価値観としてあった「長く使えるもの」をつくりたいと独立。

「自分と向き合える」ような「誰かと囲んでよりよい対話を促す」灯りで未来へ繋がるきっかけづくりとして、試行錯誤の末に生まれた作品の第一号が「moffi」でした。

「moffi」の製作工程大公開!

moffiのランプシェード

原料となる羊毛は卸を行っている業者や、国内の牧場から仕入れます。
卸売の状態はゴミだらけであったり、少し洗ってある状態であったり、それを丸めている状態などさまざまあり、嶋浦さんは「少し洗ってある状態で丸めている羊毛」をよく購入します。

羊毛の選り分けとごみ取りの様子

洗ってあるとは言え、小さな絡まった植物やゴミをより念入りに除去。
さらに光が透過しやすいよう「白い羊毛」以外の毛も取り除きます。
ピンセットで丁寧に作業して2時間。続いて成形の作業に入ります。

羊毛ランプシェード・ビフォアフター

羊毛フェルトはニードルを使う方法石鹸水を使う方法の2種類あり、嶋浦氏は聖書にも載るほど長い歴史を持つ後者の手法を取ります。

1Point!
アルカリ成分のある石鹸水で濡らすと、人間と同じように羊毛の「キューティクル」が開きます(石鹸水が無かった時代は人間の尿を使っていたとか…)
濡らした状態で摩擦をかけると繊維が絡まるので、成形後にアルカリ成分を落とすことでキューティクルが閉じて、羊毛がフェルト化します。
積んだ羊毛(左)と石鹸水を含ませた羊毛(右)

元となる大きさの(プチプチなど耐水性のあるもの)を用意して、綺麗になった羊毛を積んでいきます。

表裏片面ずつ積んでから石鹸水で濡らし、型を羊毛で挟んだ「どら焼き」のような状態にしたら、1時間〜1時間半ほどこねます。
時に洗濯機やサラダスピナーで水気を取り、洗濯板で摩擦をかけながら羊毛を縮める作業はゴミ取りには及びませんが根気が必要です。

ちなみに積み具合で厚みや耐久性が変わるのはもちろんのこと、どの程度縮むのかも個体差があるため、本品を作る前にその時使用する羊毛を使って実験を行います。

ランプシェードの形に近づいてきた羊毛

良い塩梅まで縮んだら、型を外してようやく丸い形へ。
羊毛は形状記憶性を持つため、フェルトの状態で一度その形に固まると維持しやすくなるという特徴があります。
さらにアイロンなどの高温を直に当ててやるとその温度以上でないと崩れにくくなります。

陰干しで完全に乾いたらシェード部分は完成。
細かな部品パーツの加工に入ります。

配線をまとめた吊り紐と電気部分のパーツ

電気部分は専門で依頼している電工屋が仕上げるため、嶋浦氏はそれらを組み合わせます。

配線のはんだづけ金属パーツの組み立て、シェードと配線の境目を隠すフタを革で製作。革の可塑性を利用してシェードの曲線にある程度添わせるように加工します。

配線は多少の柔軟性があるものを選んでいるので、どこかに引っ掛けても簡単に断線しない設計に。滑り止め用の留め具には真鍮素材を使用。こうして「moffi」が完成します。

点灯したmoffiの様子

一つとして同じものはない、やわらかな光を放つ吊り照明「moffi」。
気になった方はオンラインショップやSNSをチェック!

オンラインショップ:https://www.ovislamp.jp/

Ovis Lampの製品はどこで見られる?

Ovis Lampは、定期的にイベントやマルシェに出展しています。(近況はSNSへ!)
Ovis Lamp製品は、長野県安曇野市「ギャラリーシュタイネ」、神奈川県横浜市「switchboxあけ/たて」などにて展示販売。
また、伊香保温泉「お宿 玉樹」の旅館内でもインテリアとして飾られています。

「お宿 玉樹」に飾られた「moffi」

製品を見たい方はぜひ一度「お宿 玉樹」へ!

「お宿 玉樹」公式サイト

Ovis Lamp・嶋浦顕嶺(しまうらあきお)氏 独占インタビュー

ーー羊毛と出会ったきっかけはなんですか?
嶋浦:実家の石川県に帰省した際に寄ったインテリアショップで、大きい吊り照明を見つけました。サイズの割には軽かったので素材を確認したら「フェルト製」のようでした。
その時の吊り照明は化学繊維のフェルトだったんですが、よくよく調べてみると羊毛から作れるものだったので、羊毛のフェルトを調べて実験し始めたのがきっかけです。

ーー「moffi」が作品第一号ということですが、あの形になった理由は?
嶋浦:普遍的な形が良いなと思ったんです。例えば「球体」、あるいは「三角形」など。馴染みがある形の中で普遍さを探していました。
その候補の一つに「卵型」もあって。実験的に色々と試していく中で「卵ってなんだろう?」とふと考えてみました。

その結果、「命が生まれてくるもの」「見守って温めていくもの」「その卵から生まれてきたものはたくさんの可能性を秘めながら生きていくもの」という考えに辿り着いて、未来を感じたんですよね。

卵型の灯りならただ光るだけではなく、自分の可能性誰かとの関係性の将来について投影・連想ができる形なのかなと。そこに物語性や神秘を感じてこの形になりました。

「moffi」の特徴である卵型のランプシェード

ーー製品コンセプトはなんですか?
嶋浦:いのちのぬくもりを灯りに」という言葉を特に大切にしています。
いのち」とは個々のことで、灯り一つ取っても、縮み具合も光の抜け方も違うそれぞれ別の存在として僕は認識しています。

ただ存在しているだけでも良し悪しを決めてしまうのが人間ですが、僕自身ありのままを受け入れたいという想いから来ているところもあります。

この灯りを買ってくださるみなさんには、「一個一個全て違います。同じものはありませんので、これと決めた子をよろしくお願いします」と伝えています。

ーー和紙や布製のシェードも見かけますが、他の素材との違いは?
嶋浦:厚みが違いますね。和紙も層にすればある程度厚みは出ると思いますが、「moffi」は大体1cm前後はあります。型崩れを防ぐ目的もありますが、このくらいの厚さになるとシェード表面が光っているというよりは、膜が張ったような、層全体が光っているように見えるんです。内側から発光している感じがまろやかさ、奥行き感に繋がっているんだろうと思っています。

あとは軽いので、壁にかけるにも天井から吊るすにも重さを気にせずレイアウトできます。クッション性もあるので落としても割れることはありません。優しく触ってもらえれば皮膚感覚で楽しめます。
実は人間の皮膚って細胞分裂の時、脳と同じタイミングで出来るくらい原始的らしいので、触感ってすごく直感的でもあるんですよね。

スタンドがついた「moffi di」

ーーそうなんですね…羊毛と聞いた時すごく気になっていたんですが、可燃性ってどうなんでしょう…?
嶋浦:羊毛は500度〜600度以上じゃないと発火しないんですよ。理由の一つは羊毛の含水率で、水分を含みやすいから発火しづらい。あと窒素成分が多いので難燃性が高い。例えばライターとかで炙ってみると、すぐ炭になって鎮火するんです。なので消防士の制服の一部や、飛行機のカーペットはウール素材が使われています。あとは江戸時代の火消しは、親分の半纏だけウールだったという記述もあります。

ーー意外と皆さん知らないんじゃないでしょうか?
嶋浦:そうかもしれませんね。僕は実際ガスバーナーで炙りましたがちょっと火がついただけですぐプシュッと消えました。表面は焦げましたが裏面は大丈夫でした。

ーー製品や作品作りの強みは?
嶋浦:作品である「灯り」自体で言えば、馴染みやすさだと思います。
白くて丸いものが主体なので、和室にも洋室にも合うし、ログハウスにも置けて空間に溶け込む。なんなら気づかれないくらい。

ーー確かに「主張しないデザイン」という印象ですよね。
嶋浦:そうですね。空間に対してあまりうるさくならないようにしています。
ただ、そう努めていても不思議なところがあって、誰かと対話する時に相手の顔を見るよりも、灯りを見ながら話すタイミングが意外と多いんです。さらに深い話をすることにも繋がったり。

そんなところも強みなのかもしれません。目線を外しながらも安心して場を共有できる灯りというか。僕自身も照明一つひとつを手作りすることによって生まれる、灯りごとの個性を提供できることを強みの一つだと思っています。

機能的な特徴で言えば、すごく目に優しいこと。
羊毛の縮絨(しゅくじゅう:水に濡らした繊維に熱や圧力をかけて縮め、組織を密にすること)によって、中からの光が繊維一本一本に反射しながら外に出てくるので、すごく光がまろやかになるんです。目にトゲトゲしないやわらかな間接光のように。

だから夜に灯りをつけていても睡眠を妨げにくいと僕は思っています。検証はまだ出来てないんですけど。

活動の特徴としては、羊と灯り、二つの世界の掛け合わせなんですが、羊界隈の方々は良い方が多くて。
羊で出会う方々は良縁に恵まれています。何の根拠もないですが。

ーーあはは!でもそう思えることはとても素敵ですね。
嶋浦:羊毛で良かったなと感じる理由の一つです。

ーー製品はどんな層に人気ですか?
嶋浦:年齢はさまざまで、30代の方もいれば70代の方もいらっしゃいます。
男女比は半々くらいでしょうか。
その中で一番リピートしてくれているのは、旅館の女将さんなんです。

伊香保温泉にある「お宿 玉樹」さんという旅館で、そこの女将さんが都度都度追加発注してくださっていて、とてもありがたいです。
もし行かれる方がいましたら、廊下などに吊るしてあったりするので探してみてください。

ーー素敵なご縁ですね。
嶋浦:そのご縁も不思議で、活動を始めた1年目くらいに練馬のマルシェに出展したんですが、そこに女将の妹さんが来られて。「姉が旅館をやっているので連絡しておきます。きっと気にいると思います」という流れで。人から人へ繋がったご縁の中でも特に印象的でした。

ちなみに「ペットの灯り」という商品も作らせていただいてるんですが、そちらの男女比は女性の方が多いですね。そしてワンちゃんが多いです。

羊毛の中に、連れ添ったペットの毛を織り交ぜた「ペットの灯り」

ーー「moffi」の製作で特にこだわっている部分は?
嶋浦:一つは、出来る限り細かいこともコツコツやること。特にゴミ取りです。薬品で真っ白に洗い落とすこともできるんですが、羊が実際に生活していたんだなぁと感じられる、想いを馳せられることが作品の中に反映できたらいいなと。どちらかというと精神論ですね。

二つ目は光の具合。2種類のLEDを調整して色を出しています。白すぎず、黄色すぎず、気持ちの良さそうな色に組み合わせています。

ーー発案から販売開始に至るまでの間で、大変だったことはありますか?
嶋浦:羊の種類って現状3000種類くらいいると言われているんですが、国連食糧農業機関(FAO)に登録されているだけでも1200種類以上。日本で手に入る羊毛は十何種類。
すべてを試したわけではありませんが、手の届く範囲で、どの羊毛がどのような加工結果になるのか、検証する過程が大変でもあり、楽しくもありました。全然縮まないとか、ベロンベロンになったりとか。

あとはどうしても自分の価値観というか、色々な想いを込めたい気持ちが強くて。
どういうメッセージを込めたいのか、自分と向き合う時間が検証時間よりも苦しく感じた時もありました。

ーーどんなシーンで使って欲しいですか?
嶋浦:寝る前の一灯が理想的なシーンだと考えています。
見えすぎないから、感じ直せる」というキャッチコピーにもあるように、テレビやスマホの明るい灯りを全て消して、数分間でも自分とモノ、または誰かと向き合う時間に灯りをともしてくれたら嬉しいなと思います。

ーー今後の活動で考えている試みはありますか?
嶋浦:まだ試行錯誤段階なんですが、国産の羊毛を使って灯りを形づくれたらと考えています。
羊の先祖は海外に生息していたアンテロープというカモシカの一種で、品種自体もオーストラリア、イギリス、スペインなど海外の方が断然多くて、その分いろいろ楽しめるところはあるんですけど、詰まるところ、「どこの誰だか分からない」じゃないですか。
この毛はどこの誰のものなの?」という。

国内であれば、上流まで遡れば羊の個体を調べられる可能性は高いんです。「〇〇牧場の〇〇ちゃんの毛から作った〇〇です」といったように売り出せる可能性もあるなと。
僕自身はこの活動のほかに、若者支援のスタッフやコーチングのお仕事もやらせていただいてるんですが、それらに共通して思うことは「個性は大切」ということです。

同じ品種の羊でも、育ったその年の状況によって変化するので同じものは一つとしてないんですよね。
それぞれに美しさがあって、それを良しと思える、受け止め合えることが尊いと感じるので、産地の分かる灯り、物語みたいなものが見えてくるような灯りづくりができたら楽しそうだなと思っています。

羊毛の原毛

ーー確かに、「羊毛」は動物から採取できる素材の中でも「命を絶たずに得られるもの」ですから、牛乳や卵などの食品以外でそういった試みは面白いかもしれませんね。
嶋浦:そうですね。羊毛は毎年刈り取ることができて、しかも有機物なので土に埋めたら土に還る…そういう循環ができる素材なんです。さらに人と羊は1万年以上のお付き合いがあるので、その長さは伊達じゃないなと。

ーー嶋浦さんが思う、羊毛の凄さを思いつく限り教えてください。
嶋浦:これは教科書に載っているようなことなんですが、羊毛って天然繊維の状態で8つの機能があるんです。

保温性」「吸湿・放湿性」「撥水性」「弾力性」「難燃性」「抗菌消臭性」「空気の浄化」「形態安定性」が天然で備わっています。現代の化学繊維でもこれだけの機能を備えたものはないです。なぜこんなに機能がついてるかというと、生き物の一部だからなんですね。汗をかいたり、雨にぬれたりすることから身を守るための機能。

そういう機能的な面もあるし、扱いやすさという意味での手軽さが魅力として大きいと感じてます。大衆に寄り添った触れやすさ、そして形も自在。創造性もその人次第。

今でこそコモディティ化していますが、羊毛が貴重だった頃は貴族の装飾品でもありましたから、これからの世の中でも、羊毛の可能性についてより見直されていくんじゃないかと、所属している日本羊毛フェルト協会の仲間たちと話しているくらい魅力的なものだと感じています。

ーー製品を通して、見た人へ伝えたいことはありますか?
嶋浦:色々あるんですけど、「心と体を大事にして過ごして欲しい」という想いが大元にあって、そのための光・空間ってなんだろうと考えて行き着いたのがこれでした。

煌々と光る蛍光灯の下ではなく、深呼吸ができるタイミングだったり、目が安らいでリラックスできる時間だったり、この灯りを囲むことによって生まれるコミュニケーションを感じていただきたいです。

普段口にできないことを話せたりすると、心にも体にも働いてくるし、それが健康に繋がるひとつのきっかけとして、繋がるといいなと思います。

ーー最後に、読者の方にも何かプレゼントになるものがあるといいなと思うのですが…
嶋浦:せっかく取り上げていただいたので「moffi」をぜひ受け取っていただければ。

ということで、Ovis Lampの「moffi」を抽選で1名様にプレゼントします!

応募はケムール公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー+該当のポストをリポストして完了!
応募期間は一週間なのでお早めにご応募ください。

↓該当ツイートはこちら。

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