Record6 片平里菜

ジョー横溝が、親交のあるミュージシャンを迎え“レコードと煙草”について語る連載『スモーキング・ミュージック』。
連載6回目のゲストはSSW(スクールソーシャルワーカー)・片平里菜さん。
福島出身の片平さんが10周年の今年リリースしたニューアルバム『Redemption』はジョーが激賞するレベルのミュージックアルバム!?
その『Redemption』についての話を軸に、音楽とメッセージについても語るエモいインタビューになりました。

■著者プロフィール


ジョー横溝 -Joe Yokomizo-
ライター/ラジオDJ/MC。1968年生まれ。東京都出身。
WEBメディア『君ニ問フ』編集長や音楽&トーク番組『ジョー横溝チャンネル』にて音楽に関するディープなネタを発信。

■ゲストプロフィール


片平 里菜 -Katahira Rina-
1992年生まれ。福島県出身。
2018年より個人事務所を立ち上げ、シンガーソングライターとして活動中。演奏にはギターを用いて、弾き語りセッションやワンマンライヴも行う。

▼こちらの記事は片平氏厳選の「無人島に持っていきたい」プレイリストとともにお楽しみください
※記事の最後に片平氏の解説もあります

――片平里菜、企画最年少です。ちなみにレコードはどれぐらいお持ちですか?
片平「今本当に少なくて。引越しのタイミングで断捨離したのと、事情があって家でレコードを聴けないっていうのがあって、今は30枚ないかな…めちゃめちゃ厳選して、売っちゃいました。そもそも厳選されてたので、今回選びやすかったです。これは持っておきたいっていうのだけが家にあります。聴けないですけど(笑)」

――(笑)。レコードを聴くようになったきっかけは?片平さんはリアルタイムはレコードじゃないですよね?CD世代でしょ?
片平「CD世代です。きっかけは、周りの友達がレコードを聴く子が多いのと、近所にレコード屋さんがあったのと、一人暮らしで味気ないことから脱したいということからです」

――温もりが(笑)?
片平「そうそう(笑)」

――ペットもいいけどペットだとツアーに出れないですもんね。
片平「そう。レコードを聴くのに機材はどれを買ったらいいのか音楽業界の知り合いに教えてもらって揃えたんです。そんなことを周りのミュージシャンにも言ってたんですよ。“最近レコード聴くようになったんですよ”って。そしたら、いらないレコードをもらうようになるわけですよ。最初はそれを聴いてました」

――ミュージシャンがミュージシャンにくれるやつだから、ハズレは渡さないと思うので名盤が集まったのでは?
片平「ハズレはなかったです。レピッシュ(LÄ-PPISCH)のタツさんが当時バンマスでやってくれていて。タツさんからもらったのは、セックス・ピストルズ(SEX PISTOLS)とかエタ・ジェイムズ(Etta James)とか、モータウン系のやつ、あとビル・エヴァンス(Bill Evans)…とオーセンティックなレコードをたくさんいただいて聴いてました。そのうち自分で掘るようになりました」

――レコードを掘るようになると、時間とお金がいくらあっても足りなくなってくるわけですよ。特にツアーで地方に行くと、掘り出し物がいっぱいあるので・・・。
片平「ヤバイですねー」

――さて、タバコのジャケットを見せてもらおうと思うのですが、その前に片平さんはタバコは吸わないんですか?
片平「吸わないです」

――タバコに対する憧れは?
片平「私の楽曲に「煙たい」という曲があったり、10月に発売になったアルバム『Redemption』にも「Tom Waits」という曲が入っていたりと、タバコを吸う男性の歌は多いかもしれないですね」

――煙草を吸う男性がカッコいいと?
片平「渋い人が結構好きで。タバコを吸ってる人同士の時間があるじゃないですか?あれに憧れがあって。ちょっと一服行って、そこでしか話せない話とか、空気感とかを共有しているのが羨ましいなっていうのは多々あります」

――会社でも喫煙所仲間とか、喫煙所トークってあるらしいです。今、煙草吸ってるだけで、何か共通の価値観みたいのがある感じがして、自己紹介する項目が1~2個省けて会話できるっていう。
片平「それで仲良くなるのはわかります。ミュージシャンでもフェスの喫煙所で仲良くなるのってあるみたいですし」

――タバコ1本ぐらいの会話っていうのも粋だしあの時間っていいですよね。
片平「なんか自由そうですよね。別に話したくなかったらプカーってしてるだけでもいいんだろうなって」

――さて、片平さんチョイスの煙草ジャケットをお願いします

片平「これはカレン・ダルトン(Karen Dalton)というアメリカのシンガーソングライターです。タイトルに『1966』って書いてある通り、その時代の人で、結構謎めいた方なんですが、ボブ・ディラン(Bob Dylan)も密かに敬愛していたミュージシャンです。アルバムも2枚ぐらいしか出してないのかな?すごく独特の声質で、この人の声と雰囲気が大好きで」

――どうやって知ったんですか?ディランから入っていって知った?
片平「レコードをディグるというよりは、知り合いのおすすめだったかもしれないですね。ルーツがネイティブアメリカンの血筋で、聴くと懐かしい感じがあるんです。音楽的にはブルースかフォークなんですけど、哀愁漂う感じが大好きです」

――ちなみに片平さんの音楽ルーツは?
片平「広く浅くて。お兄ちゃんの影響で音楽をやるようになって、最初は邦ロックを聴いてました。私の時代だとエルレガーデン(ELLEGARDEN)とかを聴いてました」

――まさに今片平さんが一緒にやってる先輩たちですね!
片平「そうなんです。そこから音楽を好きになって、自分で歌ってみたい、曲作ってみたいって思うようになったのはアヴリル(Avril Lavigne)。アヴリルから入って、こんな風になるにはどうしたらいいのかなって思って、アヴリルが影響を受けたアーティストを調べて、アラニス・モリセット(Alanis Morissette)もカッコいいとか、そこからまた掘って行って、ジャニス・ジョプリン(Janis Lyn Joplin)っていうのがいるんだとか…そんな感じでどんどんどんどん遡っていく感じでした。今はフォークとかブルースを日常的に聴いていますね」

――僕も毎回煙草ジャケットを1枚持ってきています。これはビクトル・ハラ(Victor Jara)というチリのアーティスト。これは実は本国版じゃないんだと思うんですよね。

これ、ビクトル・ハラの別のアルバムのジャケットなんですよ。本来の『La Población』は子供が二人写っているジャケットなんですよ。よく海外版ってジャケットがすり替わってたりするので。それはさておきこの人のことはどうしても片平さんに教えておきたくて。
片平「そうなんですか?どうしてですか?」

――片平さんのニューアルバム『Redemption』には『Blah Blah Blah』という最高なメッセージソング、レジスタンスソングが入っていて、大好きなんです。で、ビクトル・ハラはその大先輩にあたります。1973年にチリで初めて民主的な選挙によって、社会主義政権が世界で初めてできたんですよ。だけどその政権が軍部のクーデターによって倒されちゃうの。

けどその軍部政権に対して民衆ももう一度革命を起こそうとするんです、で、その民衆のデモにビクトル・ハラも参加して、ギターをかき鳴らして、革命の歌を歌ったんですけど、その時、軍はハラが二度と歌を歌えないようにギターを取り上げ両手を拳銃で撃ち抜き、そのままその場で射殺したっていうエピソードがあります。ただそれは少し脚色されているらしく。民衆の前で歌ったけどその時はギターは持ってなかった。軍によって地下室に連れて行かれて、そこで銃殺されたのが本当らしいです。まぁそれでもすごい話なんですけどね。チリの英雄です。
片平「すごい話。もっと有名になっていいはずですよね」

――そう思います、この『La Población』というアルバムタイトルは村とか町と言う意味だそうで、新しく村とか町を作って、子供たちがそこの主役であるようにということを歌っている歌が多いんです。片平さんのニューアルバムに収録されている『ただ笑っていて』にという曲にも子供たちの声が入っていたり・・・。
片平「そうなんです。裏テーマじゃないけど、子供の目線や未来とかは、このアルバムには多くって。ハラの音、聴かせてもらってもいいですか?」

――はい。(レコードをかける)

――ただ俺もスペイン語がわからないからさ、聴いてもよくわからないんだよ。こんな感じ。
片平「フォークなんですね。革命家とは思えない優しさ」

――彼自身は革命家と言うよりも、文化人なんですけどね。
片平「正義感が強いんですね」

――まさに。この人の存在は片平さんに知ってもらいたかったし、この流れでニューアルバム『Redemption』についても話を聞かせてください。まずは、今作は初の自主制作ということですか?
片平「自主制作です。大きなレコード会社に所属せずに、自分で考えて全て手配して作るということをやりました」

――実際どういうふうなところから作り始めるの?
片平「本当に何もわからなくて(笑)。どうやって作ろう?って思って。これまでも自分で作っていて、デモがたくさん溜まってはいたので、その中からピックアップしてレコーディングしました。とは言え、自分だけでできるかなって自信がなくて、客観的にアドバイスや指摘してくれる人がいたら最高だなって思って、ディレクションしてくれる人を周りで探してたんです。

たまたまハナレグミの(永積)タカシさんにお会いして、自主制作でアルバム作るんですけど、誰かいい人いないですかね?って聞いたら、数日後にメールで“おおはた(雄一)君いいよ!ぴったりだよ!”って言ってもらって。確かに!って思っておおはたさんにお願いしたら快く引き受けてくださったんです」

――おおはたさんのギターも素晴らしく、このアルバムに奥行きを与えてくれていますよね。
片平「今回自分の伝えたいこともあったし、あとは日常の何でもない心地よい時間を過ごしているそういう自分もいて、そういった曲はおおはたさんが絶対合うと思って、それでセレクトして弾いてもらって、一緒に紡いでいきました」

――ほかにもOAUが参加している曲もありますね。社会の理不尽さに憤る片平さん、何気ない日常を生きる片平さん・・・いろんな「片平里菜」を感じることができ、そこに豊かさを感じました。今日はアルバムジャケットの話をしてるんで、ジャケットの話も聞きたいのですが、この『Redemption』のジャケットもかなりメッセージ性が強いですね。
片平「今回自主制作っていうのもあったし、いま自分ができる最大限の表現を活動の中でしていきたいなって思った時に、やっぱりDIY精神、パンクが一つ自分の中でテーマでもあったんです。そういうものが感じられる作品を作りたいなって。パンクだとコラージュしたりするじゃないですか?ああいうのが好きで、アートディレクターさんに相談しました。でもあれを真似するのは簡単だから、片平里菜らしいコラージュ作品を作ろうよって、いろいろアイディアを出し合いながら今回のジャケットに辿り着きました。

一見、物が砂に埋もれている感じのジャケにはなってるんですけど、そこに至るまでかなりの制作過程があって。テーマは、私自身を救ってくれたり、魂を解放してくれた物たち。例えば私は絵を描くのが好きなので、絵を描いて没頭することだったり、行き場のない感情を日記に書き留めたり、あとは気の向くままに旅をして、いろんな景色を写真に収めたり、アートギャラリーに行ったときのパンフレットやチラシやチケット・・・。自分の琴線に触れるそういった物たちをいっぱい出してきて、それをいくつも重ねながらコラージュを作ることを試みて制作をしました」

――なるほど。
片平「もう一つの要素として、この作品を作ったのが、福島県浪江の今復興記念公園がある場所なんです。たまたまその日にその場所でしか撮影ができないということで、浪江の沿岸や砂浜で制作をしていて、コラージュ作品を作っていく中で、何か物足りないなって思って、そこら辺にあるペットボトルや日常のゴミとかブイとかを加えたり、最終的に砂で埋めてしまったりしながら作っていきました。制作過程の一部の写真ではあるんですけど、その中でこの写真が一番自分っぽいなと思ってジャケットにしました」

――歌詞カードの裏に写っているものたちが砂に埋める前のものですね?
片平「はい。日記のページを破って断裁したり、雑貨、絵、チケットとか・・・結果カオス。グチャグチャ。よくわからないものになったらいいなと思って。わかんなくていい。その過程が自分の中でしっくりくるものだったらいいなと思って」

――で、ジャケットは砂で埋めた後っていうことなんですね。
片平「救いをテーマにしてたので。そういう物たちを砂に埋めることで風化していく、忘れられる、そしていつか誰かに再発見されるかもしれないとか・・・。そういう想像を掻き立てられるなって思って。あと福島のもの、福島の自然っていうのもいいなと思って」

――なるほど。ジャケットに廃棄されたペットボトルが写っているので、ゴミの海洋投棄問題も提起しているように感じるし、あとジャケットの真ん中に人の手の形のオブジェも写っていて、311の時に津波で亡くなった人のことも考えたし・・・いろんなことを僕は思い、感じました。
片平「そうやっていろいろと感じてくれたら嬉しいです。ゴミ問題も入れたい要素の一つです。しかも、ちょうどこの撮影の1日前に処理水が海洋放水されたばかりの双葉の海だったんで。タイミングもタイミングで、ざわついてる中での撮影でした」

――8月24日が海洋放出でしたね。
片平「ブツ撮りだったんで、強い光じゃなくて、朝焼けの光がいいと思って。朝日が昇る時間、3時、4時ぐらいには海にいたんですが朝日が本当に綺麗で。世間で騒がれていても、やっぱり綺麗だなって思って。不思議な時間でした」

――不思議ですね。海洋放出のことを知らなければ、ただ綺麗な朝焼けですもんね、そして『Redemption』』というアルバム自体がそういう奥行きのあるアルバムですよね。いろんなレイヤーの歌があるし、一曲の中にもレイヤーがあって。聴けば聴くほど素晴らしいなって。
片平「嬉しいです。ありがとうございます」

――なかでも『Blah Blah Blah』は本当に素晴らしいですよ。
片平「実はこの曲は最後に作った曲で、かなり難航しました。意外と一緒に作ったのはおおはたさんなんです」

――そうなんですか!?てっきりOAUチームと一緒に作ったのかと思っていました。
片平「最後の最後に、ブルースっぽい攻めたライヴで盛り上がる曲を作りたいってなって。おおはたさんとスタジオに入って一から作ろうって話になったんですけど。でも毎回4、5時間かけても形にならなかったっていうのを2、3回繰り返して、でもおおはたさんにもらったギターリフのアイディアを持ち帰って、そこから『Blah Blah Blah』を紡ぎ出したって感じです」

――ツアーでこの曲絶対に演るでしょ?
片平「やる!!」

――すごいエネルギーが必要な曲なので大変そう(笑)。一人で演るの?
片平「一人です。今回のツアーも基本弾き語りなので」

――アルバムの中の曲でいうと1曲目の『予兆』もすばらしい曲ですね。
片平「『予兆』は前回の全国ツアー『片平里菜 感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022‐2023』で毎回必ずやってた曲なんです。これは結構前に作った曲なんですけど。今の世の中と自分自身にじっくりくる曲だったので、今歌いたい、伝えたいと思って、毎回歌ってました」

――この曲をアルバムの一曲目に持ってきた狙いは?
片平「この曲は、大切な人の命を守りたい、無事でいてほしいとか、目の前の命を願うミニマムな目線と、地球規模で、例えば、戦争とか、気候変動とか、そういったもっと大きい意識どっちもあって。だからこのアルバムを総括するテーマだなと思って、1曲目にしました」

――このまま全曲解説してもらいたいぐらいなんですが・・・もう1曲だけ。ラストの曲『ただ笑っていて』の詞の内容もボーカルも素晴らしいですね。聴き終わったあと動けなかったです。
片平「一発録り、弾き語りです。この曲をちゃんと歌おうとすると泣いちゃうんです・・・」

――感情が入りすぎたら心が崩壊して歌うの無理ですよね?
片平「無理、無理。ボロボロです。ライヴだったら泣いちゃっても伝わるかなって思うけど、アルバムに収めるなら、ちゃんといいバランスで収めなきゃなって思って、何回も歌った気がしますね。すごくいい空気感でした」

――これもライヴで聴いてみたいですね。
片平「そうですね。空気どうなっちゃうのかなって思って(笑)」

――この曲はセトリのどこに置くのか気になります。
片平「置き所によっては、私が泣いて歌えなくなるかもしれないので。『Blah Blah Blah』と『ただ笑っていて』の置き所は、かなり難しいです」

――もう1曲、このインタビューで触れないといけないのが最初の方に話題に出たアルバムに収録させている『Tom Waits』という曲です。トム・ウェイツ(Tom Waits)への想い入れは?
片平「トム・ウェイツは、最初は知り合いのミュージシャンからレコードをもらって聴いてたのが、いつからか能動的に自分で探すようになって。その時期にピックしたのが、トム・ウェイツの『クロージング・タイム』でした。これに触れるまでに、トム・ウェイツの名前は知ってたけどちゃんと聴いたことはなくて。ジャケもめっちゃそそられたし」

――しかもこれタバコジャケットですからね!

片平「あ!本当だ!すごい吸い殻!!今気が付きました!今日は無人島に持っていきたいアルバムとして持ってきたんです。試聴機でちょっと聴いて、これ買わなきゃって思って、すぐ家に持ち帰って、床に大の字になりながら聴きました。最高ー!って思いながら聴いたのを覚えてます」

――さて、この記事が出た時にはツアー『リリースツアー2023-2024』が始まってると思いますが、どんな感じになりそうですか?前回のツアー『片平里菜 感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022‐2023』は全国が53箇所、今回は全国51箇所をまわるという。
片平「はい。今回も47都道府県回ります」

――10周年記念のツアーですからね。
片平「はい。前回のツアーは10周年の節目を前に、まずは今まで応援してくれたみんなの街に直接届ける気持ちで特に楽曲のリリースはせずに回ったんです。ツアーをしたいなと思った理由もいくつかあって。デビューしてから細かく全国を回れてなかったっていうのと、ツアーしてもなかなか地元のライヴハウスの人と仲良くなって帰るってことができなかったので。前回のツアーも今回のツアーも、しっかりライヴハウスの人と繋がって、毎箇所、地元のミュージシャンの方に出演していただいて、その場所に行って、ちゃんと繋がって、そこにある表現もしっかり知って、味わい深い旅ができたらいいなと思っています」

――太りますね(笑)。
片平「ウフフフフ。そうです。前回のツアーでちょっと太りました。飲んでると変なテンションになるじゃないですか。締めにラーメン行こう!ってなって」

――そして今回のツアーファイナルが日比谷野音?
片平「はい。私がデビューするきっかけにもなった場所です。閃光ライオット2011に出演したんですけど、ファイナルステージが日比谷野音でした。その時に観た景色が忘れられなくて。初めて自分の歌をこんなたくさんの人に聞いてもらえたっていうのもあるし。あとはその時の景色や気持ちが特別だったから、それを追いかけながら活動していた感じもあって。なので、いつか日比谷野音で自分主催のイベントができたらなって思っていたんですけど、ハコの抽選に当たらずで・・・」

――野音は改装が決まってから全然当たらないって言いますもんね。
片平「そうなんです。ずっとやりたいって言い続けて、なかなか出演が叶わなくて。それが今回10周年の節目に当たって、出ることが決まりました。しかも野音も100周年だし、これを逃したら、今の日比谷野音では多分できないと思うので、とても素晴らしいタイミングで決まったので、来年の4月20日、本当にみんなに来てほしいです」

【片平里菜が選ぶ無人島に持って行きたいレコード5枚】

●トム・ウェイツ『クロージング・タイム』:本文参照
●パティ・スミス『イースター』:パティ・スミスは絶対1枚持っていきたいなと思って。5枚持って行くんだったら、全パティ持って行きたかったけど(笑)、今回は1枚だけでこの1枚です。パティに出会ったのは音楽じゃなくて、パティが書いた小説です。パティの青春時代、19歳からニューヨークに住み始めて、そこでのちに彼氏になるロバート・メイプルソープに出会ってのストーリーを綴っている『ジャスト・キッズ』という自伝に出会って、それを読んでファンになり、そこから音楽も聴くようになりました。音楽性はもちろんですけど、精神性、言葉、声、パワー・・・なんか全部が大好きですね。初期の『ホーセス』のジャケはシャツ姿で、中性的なパティがずっと続いていた中で、ちょっと女性っぽいジャケで、だけど脇毛が(笑)。そういうワイルドな部分も大好きで、芸術的な存在だなと思っています。そんなパティの中でもこれを選んだのは、1曲(サブスクでは)聴けない曲があって。『ロックン・ロール・ニガー』という曲が大好きなんですけど、いつからかサブスクで聴けなくなって。多分ニガーという単語がNGなのかもしれないです。しかも今レコードが家で聴けない状態なのでとりあえずこれを聴きたいなと思って持ってきました。この曲が聴きたすぎて、この間うつみようこさんと対バンした時に歌ってもらったほどです(笑)」
●ニール・ヤング『アフターザゴールドラッシュ』:ニール・ヤングは今でもかなり精力的に作品を作ってリリースしまくっているので、全然追いきれてないんですけど、その中でもかなり初期のアルバムがこれです。多分トム・ウェイツを探した同じ店で見つけたのかな。アナログでニール・ヤングを聴いたのはこれが初めてですね。これも大の字になって聴いていました(笑)。カントリー、フォーク色も強いんですけど、このアルバムは旋律がすごく美しくて。「Only Love Can Break Your Heart」とか旋律が本当に美しいし、あとピアノの旋律も聴こえたり、コーラスも豪華なので。すごいシンプルなんですけど、景色が広がるしちょっと懐かしい気持ちになるのが好きですね」
●エンジェル・オルセン『Phases』:昔の人に見えますけど、バリバリお若い、アメリカのシンガーソングライターですね。この人は、声がすごいです。その声と質感が大好きなんです。しかも曲によって声色も全然変わるんです。煙草ジャケットで紹介したカレン・ダルトンとかと結構かぶりますね。こういう人たち好きですね」
●ミスティック・リベレーション・オブ・ラスタファリ『Grounation』:ラスタが宗教的な集会で奏でる音楽です。ナイヤビンギの音源がひたすら入ってるやつです。めちゃくちゃ無人島にぴったり。最初ジャケ買いなんですよ。すべてがかっこいいです。訛った英語も堪らないですね」

あわせて読みたい