Record4 SOIL&”PIMP”SESSIONS 社長

ジョー横溝が、親交のあるミュージシャンを迎え“レコードと煙草”について語る連載『スモーキング・ミュージック』。
連載4回目のゲストはSOIL&”PIMP”SESSIONSの社長。DJ、選曲家としても活躍する社長の所有するレコードはお宝も多そうで、どんなレコードが出てくるのかが非常に楽しみなゲスト。

すばらしい音楽トークが展開されたがまさかのハプニングから対談が始まった。。。。

■著者プロフィール


ジョー横溝 -Joe Yokomizo-
ライター/ラジオDJ/MC。1968年生まれ。東京都出身。
WEBメディア『君ニ問フ』編集長や音楽&トーク番組『ジョー横溝チャンネル』にて音楽に関するディープなネタを発信。

■ゲストプロフィール


社長 -Shacho-
1978年生まれ。福井県出身。
ジャズバンド『SOIL&”PIMP”SESSIONS』でアジテーターを担当し、ラジオDJや選曲家としても活動する。

▼こちらの記事は社長氏厳選の「無人島に持っていきたい」プレイリストとともにお楽しみください
※記事の最後に社長氏の解説もあります

ーー煙草・煙が写っているジャケットのレコードと、無人島に持って行きたいレコードを紹介していただくという本企画…。
「それを全部この取材現場に持ってこないといけなかったんですね。なのに手ぶらで来ちゃった(笑)。ごめんなさい」

ーーそれだけバンドが大変だってことなんですか(笑)?
「それは関係ないと思う。ただただ思い込みと勘違いからくる…すみませんでした。申し訳ない本当に!」

ーーハプニングもまた楽しいです!さて社長はラジオDJ、選曲家としても活動なさっているので今日は深い話を楽しみにしていますが、そもそも音楽に目覚めたのはいつですか?
「母親が音楽の先生だったのもあって、普通に幼い頃から家では音楽が鳴ってて。母親が弾くピアノだったり、家で音楽教室もやってたから、生徒さんが来てピアノ弾いたり、フルート吹いたりっていうのがあったの。プラス、親父がアナウンサーでラジオもやってたから、ラジオ番組の選曲を家でやってて。そのサンプル盤のアナログを家に持って帰って来たりしてたんですよ。それをなかなかの音量で聴いてたりしてたし。そんなんでうちの家庭にはもう幼少期からずっと音楽がそばにある感じでした」

ーーちなみに初めて自分のお金で買ったレコードは?
「もうCD世代なので、B.B.クィーンズの『おどるポンポコリン』の8cmCDと、KANの『愛は勝つ』の2枚。それも8cmCDで。小6かな?自分のお金で買いました」

ーーそこから時は過ぎ…今レコードは何枚お持ちですか?
「数えてないけど、ちょっと前は自宅に作業場があったんだけど、それを外に借りて、そこに移動するにあたって、3分の1ぐらい処分したんですよね。結構厳選して、もう聴かなくなったやつは後輩にあげたりとかして。それでも今1500枚ぐらいあります」

ーー今ある1500枚のうち、ジャンル別でいうとどんな割合になりますか?
「レアグルーヴ、ソウルファンク系のLPと12インチが一番多いのかな。その次がブラジルで、あとクラブ系とかヒップホップとかジャズとかって感じ」

ーー実はジャズがメインではないんですね。
「いわゆるジャズって、手放しちゃったのもあるんだけど、そこまで手持ちではないですね。基本的なところは一通り聴いたけど後輩に回しちゃったりしてるんです。歳も45だから、今から一日一枚アルバムフルで聴いていっても、たぶん聴ききれないだろうなと思って。それだったら、まだ聴いたことない後輩にどんどん譲っていこうと思って。これを聴いて勉強しなさいみたいな」

ーーなるほど。さて、最初のお題が煙草か煙が写るジャケットのレコードですが、その前に煙草は吸いますか?
「煙草はかつて吸ってました」

ーーもちろん煙草カルチャーに対する憧れも?
「めちゃめちゃあって。僕こういう仕事に就きたい、音楽やりたいっていう源流がU.F.O.なの。United Future Organizationという日本のDJ3人組。彼らのビジュアルには煙草がつきもので。もちろんその文脈の絵作りの延長線上には、モダンジャズの流れがあるんだけども。それが90年代後半ぐらいの時点で、スーツを着るなどすごくスタイリッシュにアップデートされていて。しかもただのスーツじゃなくてちゃんと仕立てられた、色も派手だったり、裏地がカッコよかったりするスーツを着て、DJブースに立ってクラウドを踊らせてたの。この全ての様式美が一番カッコいいと思った。その中で、ビジュアルには絶対煙草がつきもので。MVの中でも吸ってたり、っていうこともあって、煙草を吸っていい年齢になって初めて買った銘柄も、松浦さんが当時吸ってたのと同じものだったし、紙煙草を吸っていたときは、それをずっと吸ってたから。つまり、ジャズと煙草は親和性があるんだと思います」

ーーさて、そんな社長が持っている煙草ジャケットのレコードを一枚挙げると?

社長氏『これです!!』

「パッと出てくるのは、やっぱトム・ウェイツなんです。僕は彼のスタイルにすごい影響を受けてるし、ああいう詞が読んでみたいなって思ってた。実際彼の詞を解析して、あ、こういう運びをしてるんだっていうのを解析しようとしたんだけど、彼の詞ってそれを超えていて、きっと無意識に作ってるんだろうなって思いました。で、煙草のアルバムが『The Heart of Saturday Night 』」

ーー連載初回の佐々木亮介氏のときに私が持参した1枚です。名盤ですよね。

第一回スモーキングミュージックでジョー横溝が持参

「名盤です。この中の『Diamonds on My Windshield』っていう曲があって、詞が大好きなんです。バイクのカウルにきらめく水の粒がダイヤモンドを“Tears from heaven、天国からの涙”って形容するわけですよ。カッコいい!って思って、僕がまだクラブでやってたときに、彼の詞をそのまま朗読したりとかしてたの」

ーートム・ウェイツはどういう経緯で知るようになったんですか?
「流れとしては、ジャック・ケルアックからのアレン・ギンズバーグからのトム・ウェイツっていう流れで。これもまさにU.F.O.の矢部さんの影響も大きいと思う」

ーー矢部さんはビート二ク好きなんですね。
「そう。U.F.O.の最初のアルバムで、ケルアックの詞をサンプリングしてる曲があって。いわゆるビートニクというシーンや、そのシーンにいた詩人や文化人や、『オンザロード』だったりとビートニクカルチャーを知ったんです。その流れで、ポエトリーリーディングっていうカルチャーに出会ったし。のちにU.F.O.が『No Sound Is Too Taboo』っていうアルバムの中で、Urban Poets Societyっていう90年代のポエトリー集団をフィーチャーしてたり。別のフリー・ソウルの文脈からラストポエッツの「IT’S A TRIP」っていう曲で、ウマービン・ハッサンっていう詩人がポエトリーやってたりして、ジャズとポエトリーっていう組み合わせがすごいグッときていて。その中でも、現在進行形=今もやってらっしゃるっていうのも含めての、トム・ウェイツのカッコよさに惹かれました」

ーーなるほど。ただ社長がトム・ウェイツって意外な感じがしました。
「本当に?」

ーー私がSOILを知ったときって自らの音楽をデス・ジャズと称し、社長は拡声器持ったアジテーターという役割だったので、あまりポエトリーリーディングっていうイメージもなかったんです。
「ポエトリーでいうと、ビートニクの後にサンダルスっていうバンドに出会うんですが、それがいわゆるアシッドジャズ系の入り口になったんです。U.F.O.の前はサンダルスだったんだけど、そのサンダルスのデレクっていうボーカリストは詩人でもあって。『Rite To Silence』っていうアルバムの中で彼が拡声器でポエトリーリーディングをしてるんですよ。

で、その後にアシッドジャズにのめり込んで、U.F.O.を知って、ガリアーノを知っていって。ガリアーノにはコンスタンティンという、いわゆるバイブコントローラー、これアジテーターとほぼ同義語なんだけど…。それも、拡声器でお客さんを煽るっていう専門職。そこを僕はやりたかったんで、僕が拡声器やってるのは、完全にトム・ウェイツからの文脈だとは思ってたんだけどね。それがデビューするときに、アイコン化するのにポエトリーではなくてお客さんをアジテーションする方をうまく切り取ってプロモーションしていった結果がこの社長っていうキャラになったんだと思います」

ーーなるほど。さて、私も今回の社長回用に煙草ジャケットのレコードを持ってきてます。ただ、私はジャズはほぼ聴かないんです。マイルスとかコルトレーンとかは一応かじってますが、ジャズを体系的に聴いたことはない。でも…今回持ってきたのが、チャールズ・ミンガスの『ミンガス・アット・ザ・ボヘミア』(1955年)です。

ミンガスを知ったのは79年にジョニー・ミッチェルがリリースした『ミンガス』というタイトルのアルバムがきっかけです。このアルバムはジャコ・パストリアスやハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターといった名プレイヤーが参加したアルバムで、ミンガス自身も参加していますが、アルバムのリリース前にミンガスは亡くなってしまいました。このアルバムで初めてミンガスを知って、そこから『直立猿人』(1956年)『道化師』(1957年)ぐらいは聴きました。ミンガスは葉巻好きなんですが、喫煙が写っているのはこの1枚だけのような気がします。あと、ミンガスに対する思い入れとしては、黒人の差別に対して猛烈に反抗した人なんですよね。でも、白人のプレイヤーとも演奏してるし、一人目と二人目の奥様は白人でした。つまり無茶苦茶ラブ&ピースな人で、分断が進む今こそミンガスの再評価の時かとも思っているんです。

「ミンガスはまさにジャイアンで背も高いし、手も大きく、彼にしか出せない音を持ってるベーシストだと思う。うちの秋田ゴールドマンもミンガスのアルバムは、フェイバリットでよく挙げてます」

ーーしかし、ミンガスは大の葉巻好きなのに、ジャケットで吸ってるのが少ないんだろうなぁ?と。ジャズレコードだと煙草ジャケットが多いから他との被りを気にしたんですかね?
「たぶんそこまで考えてなかった気もするけどなぁ。当時は普通にどこでも吸えてたから、吸ってるところを撮ってる。撮るために吸うっていうよりも、吸ってるのが自然だったんだろうし」

ーーちなみにSOILのアルバムジャケットってどういう風に決めていくんですか?何かルールがありますか?
「基本的にはそのときに一緒にやってみたいアーティストさん、画家さんとコラボするっていう感覚でやってきました。こういうジャケにしようって言ったときもあったけど、基本的にはまずは人を選んで、その人の作品をジャケットにするみたいな感じですね。中でも、一番多くやってくださってるシュナーベル・エフェクツっていうアーティストがいて。彼にはその都度その都度、こんなんできたからジャケお願いしますって言って音を聴いてもらってます。一応キーワードぐらいは伝えますけど」

ーーもちろんSOILにとってレコードジャケットは、とても重要なものですよね。
「うん。アートピースみたいな感じです」

ーーさて、SOILは今結成して20周年。20年やってきて、SOILの音楽の意味合いをどんな風に思ってますか?
「たぶんメンバーそれぞれちょっとずつ思ってることは違うので、個人的なものになりますけど、SOILのパフォーマンスとかSOILの音楽って、生活の一部というよりも、非日常をご提供したいなっていう思いの方が強くて。かつ、社会的な自分たちなりのメッセージをいかに隠せるかっていうところだと思ってます。

例えば、原発反対って言葉で言うんじゃなくって、そういうニュアンスの言い換えと、例えばジャケットの中にそういうモチーフを忍ばせてみるとか。あくまでもアウトプットは音楽であって、それをもっと自分たちにとって強固なものにしていくために、メッセージや思いをそこに隠していくみたいなのがSOILの音楽なのかなって。結果的に出てきたものを、非日常のパーティーミュージックでもライヴミュージックでも、それはもう聴いてくれる人の捉え方でいいんだけど。それですごく高いエネルギーのぶつかり合いで、非日常がプレゼンテーションできたらいいなっていう風に僕は思っています」

ーー20周年を迎え、今後の展開は?
「フェスも含めてライヴツアーは、自分たちはやらせていただきたいなと思ってます。フェスに関しては、お許しいただければ、問題なければ出させてください!みたいな感じのスタンスです。ドラマーはサポートミュージシャンにお願いして、やってくことになるかなと思ってます」

ーーでも次のアルバムは、逆に全曲ドラマーを変えるってこともできるわけじゃないですか。
「すごいね、それね。だいぶ大変だろうけど、でも確かにドラマーフィーチャーアルバムとかもあり得ますよね。それこそ、人間じゃなくてもよかったり。マシーンドラムとやるっていう手もあるもんね。それは個人的には興味あるんだけどね。さて、どうなるか…今後もSOILをよろしくお願いいたします」


【社長氏が無人島に持って行きたいレコード】

●カルロス・ガーネット『ブラック・ラヴ』:今年の3月に亡くなったサックス奏者。このアルバムの中の 『バンクス・オブ・ザ・ナイル』と『トーラス・ウーマン』の2曲が本当に大好きで。実はのちに、アシッドジャズのアーティストもこの曲をカバーしていて僕はそっちを先に知ってからカルロス・ガーネットに行き着いた。カルロス・ガーネットのサックスの吹き様って、全くカッコつけるとか、音楽を奏でてるというよりも、魂が吠えているみたいな感じで、熱さと冷静さが両方ある。で、結果出てきた音は、歌メロみたいに、ソロのインプロビゼーションのラインも美しく、それがすごい高いバランスで心に響くプレイするサックスプレイヤーであると同時に、アルバムの一つのビジョンみたいなものとか、曲のチョイス、もちろん作曲もメッセージも含めて僕のツボなんですよね。中でもこの『ブラック・ラヴ』というアルバムはすごく大好きです。
●ザ・ニュー・ロータリー・コネクション『Hey,Love』:ロータリー・コネクションは、ミニー・リパートンがボーカリストで在籍していて、プロデューサーがチャールズ・ステップニー。昔何かで読んだピチカートファイブの小西さんのインタビューで、この人の存在を消して全名義を僕のものにしたいって仰ってたような記憶があるんですが、それくらいすごいプロデューサー。この人のソングライティング、プロデュース、本当に素晴らしいです。タイトルチューンの『Hey,Love』ももちろんカッコいいし『Love Is』っていう曲もすごくいいんだけど、『I am the Black Gold of the Sun』っていう曲があって、これはもうライフタイムクラシックス。
●U.F.O.『No Sound Is Too Taboo』。無人島に、そこまでじゃないにしてもちょっとここじゃないどこか離れた場所に行くっていうときに飛行機に乗るとして…。この『No Sound Is Too Taboo』、つまり音楽にタブーはないっていうアルバムの
1曲目は「UNITED FUTURE AIRLINES」っていう、旅に出るときの機内アナウンスもサンプリングされている曲から始まります。このアルバムとの出会いでサンプリングジャズみたいなものに出会いました。アルバム3曲目は『Stolen Moments』というオリバー・ネルソンの曲で、マーク・マーフィーが歌詞をつけてカバーしていた曲で、これをマーク・マーフィーご本人をフィーチャーしてカバーしています。のちにSOILではアルバム『6』でジェイミー・カラムとU.F.O.バージョンの『Stolen Moments』を下敷きにして、カバーしています。『Mistress Of Dance』という曲ではUrban Poets Societyという詩人グループと、DJ KRUSHのスクラッチも入ってました。ポエトリーとスクラッチ。このアルバムの10曲がまさに僕の原点。もちろんジャケットもカッコいい。
●ミルトン・ナシメント『Tudo O Que Você Podia Ser』:ブラジルの巨匠。この中の『Tudo O Que Você Podia Ser』も僕のライフタイムクラシックスこれを無人島の夕焼けのときに聴きたい。そしたら泣くだろうなぁ。そうじゃなくても泣けるんだけど。改めて、ミルトンはブラジルのシンガーソングライター。MPB(エムペーべー)というブラジルで言う反社会的、反政府的なメッセージを含めた、日本で言うところのフォークソング的なカテゴリーに属してます。ロー・ボルジェスっていう人と一緒に作ってるんだけど、本当この曲が最高なんですよ。ブラジルも日本の演歌とかジャズとかと同じように、いわゆるクラシックスがあって、それがどんどんカバーされ続けていくんだけど。それの最初の一個だったと思います。72年の作品でオリジナルのレコードはかなり高いんですよ。
●スタンリー・カウエル『リジェネレーション』:SOILの丈青を除いて僕が今世界で一番好きなピアニスト。ソロピアノの『ムサ』っていうのもいいんだけども、この見開きのジャケットがすごい。音楽の行き着く先って、天との交信だったり、まだ見ぬ宇宙との繋がりだったり宇宙とコネクトすること。つまり脳天から高い次元へ飛翔するみたいなことを目的にして。それを形容詞的に使いながら、例えばアセンションという動画使ったり、その中にリジェネレーションっていう高い次元へのハイヤーセルフみたいな作品なんだけど。この中に入っている『Travelin’ Man』っていう曲と、『Trying To Find A Way』という曲が好きで。これも美しい。美しいっていうだけじゃないんだよな。本当宇宙と交信できるような、脳みそがパカンって開くような体験ができるアルバムで。あと、すごく大切なのが、ストラタ・イーストっていうレーベルから出てるんだけど。まさにストラタ・イーストが社会運動と密接に関係があるレーベルで。黒人解放運動の第一線の中から生まれた、黒人の黒人による黒人のためのジャズレーベルです。ここから出ている作品たちには本当に影響を受けていて。ただメッセージ的なところで言うと、まだ自分は理解しきれていない部分もあると思うんだけど。それでも出てくる音楽とか、そこに関わっているミュージシャンの作品たちって、言葉とかメッセージは完璧に理解できてないけれども、それでもすごくグサグサ刺さってくる、尖ったジャズ。いわゆるブラックジャズと言われてたんだけど。ストラタ・イーストは、僕にとっても大切な影響を受けたレーベルです。今のSOILのスタイル、デスジャズって、たぶんストラタ・イーストのブラックジャズの影響が一番色濃いんじゃないかなって。ちょっとパンキッシュな感じだったりとか。余談ですが、スタンリー・カウエルの『ムサ』っていうアルバムはピアノソロで、それがまたすごいんですよ。

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