ジョー横溝が、親交のあるミュージシャンを迎え“レコードと煙草”について語る連載『スモーキング・ミュージック』。
連載9回目のゲストはCaravanさん。
茅ヶ崎を拠点にしてスローライフを送りながらレイドバックしたピースフルな音楽を奏でるCaravanさん。
二人のスローミュージック、レイドバックミュージックLOVEなトークが止まらない。今回も音楽ファン必読!
■著者プロフィール
ジョー横溝 -Joe Yokomizo-
ライター/ラジオDJ/MC。1968年生まれ。東京都出身。
WEBメディア『君ニ問フ』編集長や音楽&トーク番組『ジョー横溝チャンネル』にて音楽に関するディープなネタを発信。
■ゲストプロフィール
Caravan
1974年生まれ。南米ベネズエラにて幼少時代を過ごす。
その後、シンガーソングライターとして音楽活動をする中で、数々の来日アーティストのオープニング・アクトを果たし、バンド・ソロアーティスト問わず楽曲提供も手掛ける。近年では茅ヶ崎の風景を守る取り組み「HARVEST PARK」の発起人となり、パフォーマーを務めるなど、活動は多岐に渡る。
▼こちらの記事はCaravan氏厳選の「無人島に持っていきたい」プレイリストとともにお楽しみください
※記事の最後にCaravan氏の解説もあります
――人生で初めて買ったレコードは覚えていますか?
Caravan「覚えてますよ。ちょうどね、俺が中学上がるか上がらないかくらいの頃に、世の中はCDというものに切り替わるタイミングだったんですね」
――80年代後半ですかね?
Caravan「うん。その頃、俺が住んでた私鉄の小さな駅の前にも「友&愛」というレコードレンタル屋があって。あの頃は、みんなレコードをレンタルして、家でカセットとかにダビングして、インデックスを頑張って書いたりして(笑)。そんな時代からCDになるって時に「友&愛」が抱えてるライブラリーをCDに入れ替えると。それで、今まで貸してたレコードを、50円とか100円とかで叩き売りしてたんですよ。そこで、千円札握りしめて、行こう!っつって友達と行って、知ってる名前の、当時は、尾崎豊だったり、ブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)だったりをピックアップしたんだけど、知らないレコードも買ってみようってなったの。で、洋楽で、あの時なにがあったかな…。AC/DCとかさ(笑)。その中に1枚、それがきっかけで音楽にのめり込んじゃった1枚があって。
それがデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』。パッとジャケット見た時に、なんだ?このカッコいいジャケットはって、子供ながらに思って。当時、ジギーっていう日本のバンドもいて。もしかして、ジギーってこっからとってるのかな?みたいなこととかもあって。これ聴かなきゃいけないやつだなって思ってさ。で、買って帰ったわけ。家帰って、真っ先に『ジギー・スターダスト』を聴いて。そしたら1曲目の『Five Years』から鳥肌がドゥワーっ立っちゃって。ドラムがバーッて鳴ってきて、バーッてイントロのピアノ鳴った時に、なんだこれは~!って感じたことのない興奮と感動と、寒気みたいなのを覚えたの。それでもう何回もそのアルバムを聴いて。そこから、洋楽って面白いなって思ったし。言葉も何言ってるかわかんないんだけど、日本盤とかだと対訳が入っててそういうのを読んだりしてましたね。うん。初めて自分のお小遣いでちゃんと買ったのは、友&愛の中古のレコード10枚で、その中にデヴィッド・ボウイが入ってたっていうのが、自分的には人生の分岐点だね。その頃から、音楽やりてー!って思い始めた」
――Caravanさんの音楽とデヴィッド・ボウイってあんまりシンクロしない感じもあるんですけど。
Caravan「確かにね」
――ニール・ヤングがルーツな空気感満載なので。
Caravan「そうね。だんだんそうなってくるんだけど。でもデヴィッド・ボウイのそのアルバムは擦り切れるほど聴いて。その中にちょっとブルージーな曲が1曲入ってたりとかもするし。その曲の作者がデヴィッド・ボウイじゃなかったりするから、その作者の音楽を聴いてみようみたいな感じで掘り下げたりさ。昔ってネットがないから、情報はジャケットとかを隅々まで見て。それこそファッションとかもさ、このジーパンはラングラーだなとかさ、そういうところまで見て。吸い取れるものは全部吸い取るっていう。その中にいろんな音楽のヒントもあったりして。幼い頃に誰に影響を受けて音楽を始めた?とか、そういうライナーノートがあったりするじゃん。そういうのを読んで、じゃあそのルーツを聴いてみようとか。デヴィッド・ボウイはイギリスのロックだったけど、自然とアメリカのちょっとレイドバックした音楽が居心地いいことに気づいていったという感じですかね」
――音楽を始めたのはいつ頃ですか?
Caravan「まさにその頃で。たぶんレコード屋さん行ったのも、音楽をちょっとかじってたから、音楽好きな仲間と行ったんだよね。当時、バンドって言ってもコピーバンドで、みんなでリハスタ入って、みんなのやりたい曲を1曲ずつやるみたいな。すごくカオスな時代でさ(笑)。ラウドネスとBOØWY。そこにアイアン・メイデン入ってきたり、なんでもありの時代。その頃なんとなく楽器は始めてたんだよね。中学1年ぐらいには、ギターとか触ってたから。余計のめり込んでしまったという感じですかね」
――今レコードは何枚持っていますか?
Caravan「何枚ぐらいだろう。数えたことないですけどね。でも、そんなにないですよ。1500ぐらいですかね。家と自分のスタジオの両方においてあるんですけど、でも家は家族も多いし、ゆっくりレコードを聴ける感じじゃなくて。聴きたいものをスタジオに持ってって聴いたりってことが多いですね。だから家はストックルームって感じですね(笑)。」
――なるほど。まぁしかしレコードゆっくり聴くっていうのは、本当に贅沢な時間ですよね。
Caravan「そうだね。レコードって、聴くっていう行為が、儀式っぽいところがあるじゃないですか。盤をだして、A面どっちかな?みたいな。ふーって埃を吹いて、針置いて、わざわざ聴かなきゃいけない感じがある。長さもちょうど片面20分ちょっとだったりするからさ、意外と集中力が続くし。CDに74分とかぴっちり入ってても、たぶん記憶に残らなかったりするじゃないですか」
――残らないですよねー。サブスクもいいんですけど、ずっと流れっぱなしだと、途中からBGMになっちゃう。
Caravan「レコードのよさは、B面の2曲目よかったよね、とかそういう覚え方できるところにもあって」
――そうですね。さて、まずはお題として煙草・煙ジャケットをご持参いただきました。
Caravan「今日ジョーさんに会うっていうのもあったし、デッド周りでないかなって探したら、これあったなって。『ニュー・ライダース・オブ・ザ・パープル・セイジ』。ガルシアが作ったカントリーバンドで、割と爽やかなアメリカンカントリーで聴きやすいです」
――このアルバムに思い入れは?それこそCaravanさんの周りは、デッド(グレイトフル・デッド)のTシャツなどを扱っているショップDUDE INさんなど、デッドマニアの人多いですよね?
Caravan「結構コアなデッドファンいるけど、おれはそこまでじゃなくて、デッドも70年代の音楽の一つって感じだから。でも、その界隈の音楽はいいものが多いからすごい好きで。デッド周りで掘り下げてる時に出会った1枚ですかね」
――僕はデッドのライブをアメリカで4日間生で見たというのが…
Caravan「それはもう財産ですね」
――はい。
Caravan「80・・?」
――僕が21の時に行ってるんで、89年です。
Caravan「なんでデッドにはまったの?」
――福生ってところでずっと遊んでたんですけど、ケイジャンフードを出すバーでしょっちゅうデッドのレコードがかかっていて、デッドが好きになって。そしたらマスターが、お前、デッドは聴くもんじゃなくて体験するものだから、ライブに行って来いって。自分でチケット取ったんですけど、ただ4日間のうち3日間しかとれなくて。最終日が売り切れだったんですが、現地で“I Need A Miracle”ってやってたら、どっから来た?って聞かれて、日本からって言ったらチケットを手に入れることができて、結局4日間見られるという奇跡が起きました。
Caravan「すごいな。その旅の思い出も含めてね」
――それも含めて最高の体験でした。あれがなければ、たぶん僕の人生はもうちょっと変わってたかも(笑)。
Caravan「こっち側へ来ちゃったきっかけ(笑)」
――(笑)。その流れで僕も煙草ジャケットをここで披露したいなぁと。これもガルシアが在籍しているバンドで、おもいっきりカントリー、ブルーグラスで。ジャケットでは、ガルシアがバンジョーを弾きながらパイプを咥えています。ベースのジョン・カーン、ガルシアがデッド以外でやる時のベーシストですが、彼が煙草を咥えています。デッドはブルースっていうのもあるんですけど、なんと言ってもガルシアのカントリーとブルーグラスルーツが…
Caravan「そうね。ブルーグラスの感じがいいですよね」
――はい。この脱力する感じが、ある意味デッドの隠し味になってるのかなって。大好物の1枚で、今日きっとアルバム被るかなと思いましたが、やはり被りましたね。Caravanさん、何枚か煙草ジャケットを持ってきていただいたみたいですが。
Caravan「そうですね。では行きます。続きまして、サンフランシスコつながりで『パール』というと、泣く子も黙る名盤です。ちゃんと煙草持ってます」
――煙草なのかな?
Caravan「煙草…じゃないかな(笑)」
――煙草ですかね。
Caravan「まぁ、それらしいものですよ」
――ジャニス(・ジョプリン)と言えば、デッドとかと一緒に列車で旅するのありましたよね。タイトルが…
Caravan「あった!『フェスティバル・エクスプレス』。あれずっとガルシアがジャニスを口説いてるやつ(笑)」
――ジャニスは、確かデッドのメンバーの誰かと付き合ってたんですよね?
Caravan「そうなんだ」
――誰だったかな。キーボーディストかな。
Caravan「みんな狭いところで(笑)」
――ジャニスはどんなタイミングで聴いてたんですか?
Caravan「もちろん自分のリアルタイムの音楽とかも聴いてて、ちょうど自分の時代はヒップホップとかも流行りはじめて。でもやっぱりちゃんと掘り下げたくて。誰もがジャニス・ジョプリン、ジャニス・ジョプリンって、その頃のバンドの人がリスペクトするミュージシャンとして言ってたりするから、ジャニス・ジョプリンって何がいいんだろう?と思って。当時はね、ネットとかないから、YouTubeでも検索できないし。で、買ってみようと思って。間違えて、ジャニス・イアンとか買っちゃったりさ(笑)」
――アハハハハ!
Caravan「いろんな人を遠回りしながらの、これだったんだ!みたいな。そういう感じでさ。ジャニスを聴けっていろんな人に言われて。やっぱ聴いたら、なるほど、かっけーなって。バンドもいいし」
――あの当時のサンフランシスコに生まれてみたかったなって思いますよ。
Caravan「結局俺としては、ジャニスにしてもすでにとうに昔の音楽だったから。でも、こんなものがとっくにあったんだっていう驚きもあるし、ここからいろいろ派生したんだなって。90年代も、ちょっと70年代リバイバルみたいなのがあったから。あ、そうか!ここへのオマージュだったんだな、みたいなこととかもすごいありましたね。点と点がつながる感じというか」
――Caravanさんも、今年から茅ヶ崎で“農と食と音楽”が融合する無料フェス「HARVEST PARK」を立ち上げたり、仲間と一緒に農業をやってそこで収穫されたお米をライヴで配ったり…と、ある種60年代70年代のコミュニティの空気と近いのかなって、個人的には思ってたんです。
Caravan「かもしれないですね。自分達の理想を、じゃあ政府とか、大きいものには頼らず、小っちゃくても自分達で楽園作ろうぜっていう感覚にどんどんなっていってて。だから、NOではなく、小っちゃいYESをいっぱい自分で作っていく。その一歩として、フリーフェスをやろうとか。フリーフェスをやるにはどうしたらいいんだろう?みたいなことで、いろいろ頭使ったり。あとは、コロナもあって、仕事も減って時間はあるけど、困ったね、みたいな時に、じゃあお米作るか!とか。そういう感じで面白がりながら、ちょっと抵抗する感じです。今のメインストリームに対してのカウンターを生み出していきたいなっていうのはあって。でもそれって、結構60年代70年代とかのムードにも似てるのかもしれない。でも、ウッドストック(・フェスティバル)の頃のヒッピームーブメントみたいなのは、もっと流行りものだったような気がするし、もっとバカでかい波だったと思うので。そこまでの大きな潮流にはならないかもしれないけど、それの更に小っちゃいコミュニティなものですね。でも今、日本中にそういうことを考えてる人がいてさ。みんなスタイルは違うし、表現方法とか空気感は違うんだけど、意外と根底で考えてることは一緒なのかなって思う、ちらほらシンパシーを感じる人はいますけどね」
――その小さな共同体を現代はテクノロジーでつなげるので、離れていても連帯できますよね。
Caravan「それは可能性はすごいあるよね。逆にくっつかなくてもいいから、必要なタイミングでつながればいいわけだし。普段は別にお互いさまでやってるから、変な同調圧力みたいなものもできにくいだろうしね。小さいチームのまんま、大きい動きもできるっていう良さはあるかもしれないですね」
――そしてお米にいたっては、もはやライブで配るようになったところまで。
Caravan「もう最後の手段だよね(笑)。もうないよね(笑)」
――物販はまだ始めてないんですか?
Caravan「来年やろうかな(笑)。噓、嘘(笑)。売るほどのものじゃないからな」
――でも逆に、それが意志の賛同みたいなことになると思うんですよね。どこでもお米は買えるわけだけど、こういう取り組みをしているお米を体に入れたいっていう。
Caravan「そうそう。ただお米を作って配ってますじゃなくて、何を考えてそうなっているのかっていう、裏を読んでもらえると嬉しいけどね。きっとこういうこと考えて作ってるんだろうなとか、それでお米配ってるんだろうなとか。そこまで含めてのメッセージになったらいいなとは思ってます」
――ええ。そして、まだ煙草ジャケットを。
Caravan「テリー・キャリアー。すごく大好きなシンガーソングライターなんです。ジャケットの女性はテリー・キャリアーの彼女なのかわからないですけど」
――有名なジャケットですよね。
Caravan「この煙草もいいなと思って。アンニュイな」
――なかなか今だったらできないでしょうね、このジャケットは。
Caravan「そうだよね。裸だし」
――裸で煙草吸ってますからね。
Caravan「いろんなところからクレーム来るかもしれないですね。でも綺麗なジャケットですよね」
――ちなみに、Caravanさんは煙草は吸われますか?
Caravan「これが吸うんですよね」
――最近歌う方は吸わなくなる傾向にある中で。
Caravan「だいぶマイノリティになってきましたね」
――何か煙草に関して、一家言はお持ちなんですか?
Caravan「特にないんだけど。やっぱ好きなんですよね、火を点けて煙を吸い込むという行為が。ついつい煙草に頼っちゃってる感はあるんですが。あんまり吸い過ぎないようにはしようと思っています」
――さて、煙草ジャケットもう2枚あるんですか。
Caravan「この2枚はたぶん過去に誰か出してるかと」
――トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズは、確か過去に誰かが出してました。
Caravan「そうですよね。じゃあ、もう1枚。最近俺的には、この人はすごいなぁと。ミーターズのギタリストが、実はシンガーソングライター的なことをやっていたと。ところが、その音源はリリースされずに、どっかで眠ってたんだよね。それが、ついここ数年で発掘されて、音源化されたという。『レオ・ノセンテリ』!」
――そうか。これ煙草吸ってたのか。群衆と重なってて、これが煙草ジャケットだって気づいてなかったです。
Caravan「ミーターズっていうあの真っ黒いファンクバンドの人が、こんなメロウでアコースティックな音楽やってたんだっていうことにもびっくりしたし、曲もすっごくいいし。結構大好き」
――新譜を買う時は、意外とバイナルで買うんですか?
Caravan「買う時もありますね。何だかんだ抗ってきたけど、やっぱり配信とかサブスクも使うようになって、そうなるとCDを買うメリットがなくなるから。手元に置いときたいのはアナログで買って、普段聴く時は、これはバイナルじゃなくてもいいかっていうものはサブスクで聴いたりって感じかな」
――千円で月額聴き放題はね。やっぱり値段としては魅力的ですが。
Caravan「魅力的ですけど、それは絶対ミュージシャンには分配されない」
――ですよね。
Caravan「されるわけないでしょ(笑)。ただ、すげー垣根がなくなったから、例えばリリースされた翌日にエジプトで聴かれてるとかさ、そういうことも可能だから。そういう可能性の面白さはありますよね」
――確かに。Caravanさん、去年9月にニューアルバム『1974』をリリースしましたけど、リリースの方法へのこだわりはあるんですか?
Caravan「ちょうど、2011年の震災後に、俺とマネージャーと一緒にSlow Flow Musicっていうレーベルを立ち上げて。レーベルと言っても、自分の作品を出すためのレーベルなんだけど。そうなって、エイベックスを離れて。そこから配信ってものはやらずに行こうと。で、盤にこだわってきたの。それも、いわゆるレコード屋に卸したり、CDショップで売るんじゃなくて、ライブ会場や、知り合いの、例えばこういうバーだったり、あとはパン屋だったり、洋服屋だったり。知り合いに売ってもらう。本当に顔の見えるお店で、コミュニケーションしながら手渡しで売るっていうビジョンを持っていて。自分達なりの商店街みたいなものを作りたいなと思って、そういうのをずっとやってきてはいたんですけど。10年ぐらいそれでやったんだけど、まぁいい加減サブスクもあれだよねって。逆にそうやることで、“ライブ会場に行けません”、“近所に売ってる店がありません”っていう人が、“聴けないんだけど、どうしたらいいですか?”っていう意見があったりとか。“サブスクやってほしい”っていう声もすごく多くなってきて。じゃあ、もういいかと。もう頑張ったかなと。というところで(笑)」
――時代は確かに…ね。
Caravan「そうですね。逆にそうやって自分達がこだわりを持って活動するのは、すごくやりがいがあったし、良さでもあったんだけど。その分、もしかしたら知らず知らずに排除してしまってる人もいるのかなっていうのもあって、弊害を感じたりもしたので。もうこれはいいタイミングかなと思って、サブスクでもやる。ただ相変わらずCDはちゃんと作り続けて行こうと思ってますけどね」
――レコードはどうなんですか?
Caravan「レコードは一回だけ作ったんだけど、やっぱり毎回作るっていうのは意外と大変ですね。コストの面もあるし、大量に作るわけにもいかないから。どうしてもロットも上がっちゃうから。とはいえ、レコードの値段をやたら高くするっていうのも、ちょっとおかしいなって思うし。そこら辺は悩ましいところではあるけど」
――難しいとこだよなぁ。もうちょっと安価にレコードが作れたらいいんだろうけどな
Caravan「こういう企画で、レコードリスナーがすげー増えたらね、たぶんレコード作るのももうちょっとやりやすくなると思うんで、この企画ずっと続けてほしいなぁ」
――頑張ります。さて、次は無人島に持っていきたい5枚。これが本当に難しかったと思うんですよ。
Caravan「難しいっすね。アナログで所有しているものの中からとなるとさらに難しい。この人がすごい好きで。『雑魚』っていうアルバムが有名です」
――『雑魚』は持っています。マーク・ベノは、地味だけどいいシンガーソングライターですよね。
Caravan「この『Marc Benno』すっげーいいアルバムなんですよ。曲もよくて。力の抜けた演奏と、癖になるボーカルと。何がいいのかよくわかんないけど、すっげー聴いちゃうっていう。大好きですね。昔、髪の毛切りに行く時にこの写真を持ってって、こういう感じのパーマをかけてくださいって言ったことあるぐらい好きですね(笑)」
――どうなったんですか?
Caravan「全然こうならなかった(笑)。佐藤タイジ君みたいになった(笑)。クレジットをあらためて見ると、すごいメンバーもいいですね。ブッカー・ティーがピアノやってたり、ライ・クーダーがスライドやってたり、リタ・クーリッジがコーラスやってたり。もうオールスターだね」
――すごいな。70年代オールスターだ。特におすすめの曲はありますか?
Caravan「『Second Story Window』。レコードにマルついちゃってるぐらいだから」
――本当だ!マルつけてる!いるいる!好きな曲にマルつける人!
Caravan「そんぐらい好きなんです(笑)」
――次の1枚は?
Caravan「これは皆さんご存じのスティーヴィー・ワンダーですね。スティーヴィー・ワンダーって、俺、大好きってほどでもないんですけど、このアルバムがすごい好きで。もうすっごい大地感もあるし、スペイシーだし、すごいいいなって思って。このジャケットもすごい好きなんですよ。『INNERVISIONS』。これは名盤ですね」
――好きな曲は?
Caravan「僕はB面が好きで。『Higher Ground』という有名な曲。KenKenがバキバキ弾くみたいなやつ。あれから始まりの、最後2曲。本当美しいですよ。『Don’t You Worry ‘Bout a Thing』っていう曲。これが本当大好き。お葬式でかけてほしいぐらい。大好きな曲で。DJやったりする時にかける用にBPM書いちゃって(笑)」
――本当だ(笑)。これ、カメラマンさん寄って撮ってもらっていいですか?わかりにくいんですけど。
Caravan「もう大好きで。これがフェイドアウトするやいなや、最後の曲。ここでもう昇天」
――無人島で昇天!
Caravan「そう。これはスティーヴィー・ワンダー、すげーなっていう。宅録の走りじゃないけどさ、ほとんど自分で楽器やって、多重録音で作ってるアルバムなんです。恐るべしだなって」
――マーク・ベノに続いての書き込むシリーズ(笑)。
Caravan「書いちゃうんだなー」
――性格出ますよねー。
Caravan「あんまり大事にはしてないんですよね。綺麗にとっておこうみたいのなくて。ある意味、道具なんでしょうね(笑)。扱いは雑なの」
――ニューヨークのギタリストで、ロバート・クワインっていう方がいて。
Caravan「トム・ウェイツもバックで弾いてますよね」
――はい。彼が亡くなったあと、家にあった膨大な量のレコードを奥様が近所のレコード屋さんに寄贈して。で、音楽が好きな人に買ってもらいたいってことで。その場所を教えてもらって。そのニューヨークのレコード屋さんにお邪魔してクワインさんが聴いてたレコードを何枚か買ったんです。やっぱりレコードにクワインさんのメモが書いてあって。この曲の何がいいとか、このフレーズが何だとか。
Caravan「あれよね。大事なところに付箋貼ったり、蛍光ペンでライン引いちゃうみたいな」
――みたいな人だと思います。さて、次の1枚。
Caravan「ニーナ・シモンさん。このアルバムもすごい好きで。
ニーナ・シモンって人がもちろん大好きではあるんですけど、面白いなって本当思うんですけど、当時の、同時代に流行ってる曲をカバーしちゃうんですよね。昔の人あるあるだけど、ダニー・ハサウェイがキャロル・キングやってたりさ。今売れてる曲を今やっちゃうみたいな感じで。バーズの『Turn! Turn! Turn!』とか『To Love Somebody』とか、あと、ディランの『The Times They Are A-Changin』とかやっちゃってる。それがまた完全に自分のものにしていて、すごいなって」
――確かにすごいですよね。そして次のアルバム。
Caravan「この人も好きなんですよね。エリック・カズというピアノ弾きがいて、このアルバムもすっごい好きで、もう何回聴いたかわかんない。ちょっとゴスペルっぽい曲もあったり、すごく温かい。これも曲がすごくいいし、時代の空気みたいなものを感じるアルバムですね」
――推し曲は?
Caravan「もう一曲目からいいですが、推し曲はやっぱり『Cruel Wind』。でも、全部いいっすよ」
――でも、これひどいジャケットっちゃあ、ひどいジャケットなんですけどね。
Caravan「こっからいろいろ情報を得るんですよ。このウェスタンシャツはどんなんだ?とかね。これはきっとリーバイスだなとか、このポケットは?とかね。トニーラマだなみたいな」
――でもジャケットのポーズとしては、醜悪ですよ。もう屁をこいてる感じですよね(笑)。
Caravan「アハハハ。リモコン持ってテレビを見てるような(笑)」
――アートディレクターは何を考えてこれにしたのかっていう。
Caravan「『If Your Lonely』ですからね!」
――確かに(笑)。
Caravan「でも、この恰好で言われてもね(笑)。淋しいのかい!みたいな(笑)」
――そしてラストの1枚。
Caravan「ニック・ドレイクという、ちょっと内省的なシンガーソングライターで、割と早くして亡くなっちゃったんですけど。この人の何とも言えないギターと歌が俺はすごい好きでね。ギルドっていうブランドのギターを使っていて。俺ギルドのギターをデビュー当初からずっと使ってて。で、アコギ買うならギルドだなって、この人を知った時点で心にきめてたというか。そんなぐらいの、割とミーハーな感じで」
――憧れの人?
Caravan「そうだね。憧れの人」
――推し曲はありますか?
Caravan「1曲目もいいし、あとはそうだな、『Northern Sky』。でももう全部いいです!『Hazy Jane』って曲もいいね。演奏もすごいシンプルなんですよ。ちょっと本セクションとか入るんだけど、すごくシンプルで。何とも言えない、この人にしかない空気感がありますね。陰りがあるというか」
――無人島の5枚、やっぱりCaravanさん色が出てますね。
Caravan「ですかね?もうねぇ、好きなんですよ。ただ無人島ねー。5枚じゃ足りない」
――さて、2024年、ここから先はどんな予定ですか?
Caravan「そうですね、ライブをいろんなところでやりたいですね。小っちゃいライブでも、いろんな街に自分から出ていく年にしたいなというのと、今年で50歳になるので。50になったら、たぶん今までやろうと思ってたけど後回しにしてたこととか、50歳過ぎたらもう一生やんないんじゃないかなって気がしてて。今年は、いろいろインプットじゃないですけど、旅行も含め、行ってみたかったところとか、あとは、見たかった映画とかさ、見たかったライブとか、あと、習い事とかさ。インプットの年にしたいなって思ってます。そういうざっくりとした目標はあって。例えば、誰々が来日するとかも、もう思いつく限り、行ける限り行ってみようと思ったりしていて。そういう自分からインプットを求めに行くというか。受け身で待ってるんではなく、取りに行く感じにしたいなって思ってます」
▼こちらの記事はCaravan氏厳選の「無人島に持っていきたい」プレイリストとともにお楽しみください
【Caravanの無人島に持って行きたいレコード5枚】