ジョー横溝が、親交のあるミュージシャンを迎え、“レコードと煙草”について語る連載『スモーキング・ミュージック』。
連載2回目のゲストはジョーが“兄さん”と呼ぶシアターブルック・佐藤タイジ氏。
タイジ氏とジョーはInterFM『Love On Music』という番組を8年も一緒にやっているだけではなく、震災以降、毎月『明日の日本を考えるLIVE FOR NIPPON』というイベントを開催するなど、その親交はとても深い。
今回も“レコードと煙草”をテーマに深いトークを聞かせてくれた。
■著者プロフィール
ジョー横溝 -Joe Yokomizo-
ライター/ラジオDJ/MC。1968年生まれ。東京都出身。
WEBメディア『君ニ問フ』編集長や音楽&トーク番組『ジョー横溝チャンネル』にて音楽に関するディープなネタを発信。
■ゲストプロフィール
佐藤タイジ -Sato Taiji-
ミュージシャンであり音楽プロデューサー。1967年生まれ。徳島県出身。
ファンク・ロックバンド『THEATRE BROOK』ほか複数のユニットで音楽活動を行う傍ら、ソロアーティストやバンドのプロデュースも行う。
▼こちらの記事は佐藤タイジ氏厳選のレコードに収録されたプレイリストとともにお楽しみください
※記事の最後に佐藤タイジ氏の解説もあります
――今日はタイジさんが所有するタバコのジャケットのレコードを持ってきていただいています。どれもいい感じですが、まずはどれから行きましょう?
「まぁボビー・ウーマックでしょう。『Across 110th Street』は名曲です」
――間違いない名曲ですね。
「このジャケット超カッコよくて。一応説明するとバリー・シェアー監督によるブラック系映画『110番街交差点』のサントラ盤やね。でも、俺この映画版は観てない…あれ?観たのか?ジャケにも写っているアンソニー・クインとかが出てる。で、音楽J・J・ジョンソンなんだね。それにしてもこういう、いわゆる渋い刑事もののテレビドラマって、なくなったね」
――リアリティを出そうと思うと、コンプライアンスに引っかかったりするんでしょうね。
「そういうことだろうね。このレコードもジャケットでタバコをバンバン吸ってるもんね(笑)」
――結局、タバコのシーンもそうですし、暴力的シーンとかも今テレビでは放送できなくなっちゃってますもんね。
「カルチャーとしてなくなったよね。要するに刑事っていうのがカッコいい存在ではなくなったっていうことでしょうね」
――ちなみに、このレコードはいつ買ったか覚えてます?
「池袋のレコード屋でバイトしてる時だから92、3年に買ったんじゃないかな。ボビー・ウーマックってカッコいいなと思って、それで何枚か買ったんだよね。特にこの『Across 110th Street』が好きで。ジャンル的にいわゆるブラックムービーものだけど、そのブラックムービーが好きでこれがレコ屋に入ってきて、なんだこれ?って気になって。ジャケがカッコいいから聴いてみたら内容もカッコよくって。
俺、ボビー・ウーマックは、ブランドとしてとても信頼しているっていうところがあるんですよね。その後知るんだけど、沼澤さん(シアターブルックのドラマー・沼澤尚)ってボビー・ウーマックのツアーで日本に来たんだって。日本に沼澤尚が逆輸入で叩きにきたのは、ボビー・ウーマックのライヴ。それって割と業界の中ではデカかったらしく、それの余波で俺は沼澤尚っていうのはいいドラマーだって知るわけです。それで沼澤さんに連絡を取って…という流れです」
――じゃあこの『Across 110th Street』は今のシアターブルックを引き寄せる運命の一枚みたいな感じですかね?
「そんなところはあるかもね。それにしてもカッコいい。白人と黒人が一緒に仕事しているっているところもいいですね」
――こうやってお気に入りのレコードのジャケットの話をそのジャケを見ながら聞いているとそのレコードが欲しくなりますね。
「そうだね。でももうこれもジェネレーションなんじゃないの?だってこの企画のために“タバコを吸ってるアルバムのジャケットを探してるんだ”って話を娘にしたら、“アナログって何?”って言われてさ。うちの子はギリCDわかるけど、さすがにアナログは、“何これ?”みたいな感じで」
――それはそうですよね。でも、カルチャーとして伝えていきたいなとは思うんですよね。
「音楽をフィジカルで買うというのが、なくなりはしないとは思うけど、途絶えつつあるやん。亡くなったうちの親父は新聞屋だったから、よく輪転機の話をしてくれたの。新聞って職人が文字をひと文字ずつ組んで印刷してたんだぞって。その話がすげー好きで。そういうのって全部すっ飛んだじゃん。でも文明って、ここに至るまでに前段がずっとあるわけ。紙の発明とか、印刷の発明とかね。それがあってパソコンにたどり着いて、それが個人で使えるようになったという人類のストーリーがあるわけじゃない。パソコンの発明も重要だけど、紙の発明と印刷の発明が人類を進化させたのには誰も異論はないと思うんだよね。
印刷の技術とか、そこにいた職人たちが持っていたスキルとかが、おざなりになっている。日本って伝統文化を残すのにすごく予算を割いてるとは思うので。でも、歌舞伎とか能とかが伝統文化だとして、新聞の輪転機は伝統ではなかったのか?っていう問いに対して、結局誰も答えない。で、それは途絶えちゃったわけ。もうないの。どこの会社にもないじゃん。そういうことしてるから、ジャーナリズムがなくなる。今ってジャーナリズムに対するリスペクトがないもんね、日本には」
――確かに。そういう意味での保守主義には僕も賛成です。つまり、ここに壁があるのには、意味があるからであって、その壁を壊す前に、そこに壁がある意味を考えようという感じですよね。たしか…エドマンド・バークが言ってた理論だと思いますが。
「日本って、ちゃんと検証とかしないで、一気に100がゼロになるよね。なんかバカみたいだね。例えばタバコに関して言うとさ、実は人類ととても長年の付き合いがあるわけじゃない。まあおそらく3、4千年以上付き合ってきてるわけじゃない。これは俺個人の考え方だけど、それだけ人類がずっと寄り添って生き永らえてきて、それによって幸せだった人生もあるだろうし。それによって救われた人生もあるだろうし。健康によくないっていう理由だけで蔑視するのは愚かだなって思うよね」
――まさにそう思います。ところで、私も1枚タバコのジャケットのレコード持ってきました。
「シックの『Risque』(『危険な関係』)ね。ジャケット、こんなカッコよかったっけ?」
――そうなんですよ。
「めっちゃカッコええやんね。何年の作品?」
――79年です。オリジナルメンバー(ナイル・ロジャース,故トニー・トンプソン,故バーナード・エドワード)でのシックの3枚目のアルバムですが、なんと言っても名曲「Good Times」が入っているので買ったレコードです。
「Good Times」って今聴き直してもめちゃくちゃよくて。もちろんヒップホップのサンプリングにされてるとかもあるんですが、歌っている内容が“踊っていい時代を迎えようぜ!”みたいなことなんですよね
「実際さ、ディスコってムーブメントとしてすごく過小評価されてるじゃん。ディスコって完全に世界を変えてるよ。世界中でリリースされたディスコのレコードの量ってカウント不能ぐらいなとこまでいってるでしょ。俺知らなかったんだけど、ナイル・ロジャースのインタビューで、シックの解散の理由は、シックがドーンと売れて、ツアーやるじゃん。ツアーやった先でディスコ排斥運動っていうのに出くわすわけよ。メジャーリーグの野球の試合が終わった後に、地元のDJがディスコのレコードを燃やそうっていうので、シックのレコードを燃やそうって言ってさ」
――ディスコレコード燃やす運動に関しては去年公開になったビー・ジーズのドキュメンタリー映画『ビー・ジーズ栄光の軌跡』の中にも出てきました。
「あの排斥運動けっこう派手だったでしょ?実は全米であったらしいから。要はシックの解散って完全にそれのあおりで、ツアーでずっこけて、それで解散なんだって」
――なるほど。完全にジャンル差別ですね。
「人種差別みたいなものも背景にあるんだろうね。60年代の公民権運動に反抗する白人みたいな図式なんだと思う」
――今また世界的に分断がはびこる不安な空気の中で、タイジさんもよく言ってるように、“パーティーしようぜ”どか“踊ろうぜ”っていうその感覚って、とても肉体的でいいなって。
「ダンスって絶対人類からなくならないカルチャーの一つで、それをオーバーグラウンドに持ってきたディスコっていうカルチャーは、すごいですよ!」
――この連載でも、音楽を扱うからには、時代をよくするためのメッセージは入れていきたくて。踊りながら社会を、時代をよくしていこう!と叫んでいる、まさに現代の阿波踊りロックンローラーといえば佐藤タイジだなって思ってこの1枚を持ってきました。
「ありがとう。あと、こういうジャケットを見ると、写真のジャケットってカッコいいと思っちゃう。シックってカッコいいなぁ」
――タイジさんが持ってきた他のタバコジャケットも見せてください。
「マール・サンダースの『HEAVY TURBULENCE』。地味だけどね。マール・サンダースはジェリー・ガルシアとの共演で知らてるよね。このアルバムもガルシアが参加してて超カッコいいですよ。レコードかけてみる?」
――かけましょう。これはいつ買ったんですか?
「これも、レコ屋でバイトしてる時だね。どっか別のレコ屋かな…。すげー久しぶりに聴く。俺、マール・サンダース、ガルシアでやってるってところでしか知らないんだけど、実はけっこう参考にしたの、シアターブルックのサウンドを作る時に。いわゆるスローファンクっていうのかな…スワンプとかに比べて、もうちょっと軽めにくるじゃない。だからカッコいいなって。当時よく聴いてた」
――そうだったんですね!そしてもう1枚持ってきてくれてますね。
「もう1枚のジャケットは、タバコの中身は日本では違法とされている一品なんでしょうけど(笑)。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ。ファーストですよね」
――これはもうタバコじゃないぞっていうのを強調しているジャケットですね(笑)。
「完全に強調してますね」
――ボブ・マーリーは佐藤タイジにとってはどんな存在ですか?
「え?!いや、偉大です!!ボブ・マーリーとかレゲエ全般にして思うのは、結果的に、ジャマイカはイギリスの植民地だったために、イギリスの音楽がどれだけ進化したかっていうことです。ポリス然りだし。あと、レゲエがレイヴカルチャーに及ぼした影響も巨大だと思う。ダンスホールのコンセプトがレイヴに移行してったわけじゃん。ディスコとダンスホールって、たぶん並んで進化したと思うの。アメリカではディスコ。そしてアメリカ、ロンドンのアンダーグラウンドではダンスホールだったわけで、それがいわゆるレイヴになって、で巨大化していってEDMになったわけで」
――ただ、日本だとダンスカルチャーって、流行にはなったけど、カルチャーとして機能したのかが正直よくわからなくて。
「確かに国内のメディアはそれを重大なこととしては捉えないよね。でも、日本人が海外に出てって、例えばスティーヴ・アオキみたいに確実に自分の居場所をこしらえに行ってる人たちがいるじゃん。そういう意味で考えたら、レイヴとかもうど真ん中で走ってきた俺にしてみたら、小さい出来事ではなかったなっていう実感はあるんだよね。それがメインストリームでどれだけ機能したかはわからないけど。例えば、無農薬野菜とかって日本のレイヴカルチャーって、実は近かったと思うんだ。で、そういう流れは今も残っているしね」
――確かに。そして、タバコ縛りなしでジャケが好きなレコードも何枚か持ってきてくれてますね。
「久々にレコード棚をひっくり返したよ。俺レニー・クラヴィッツのファーストって超影響受けたなって思った。あとザ・バンドの『ビッグピンク』。やっぱりずっと影響を受け続けてます。スライに関してはもうしょうがないです(笑)。あと、この間大阪・堺のサムズレコードで買った思い出のレアグルーヴのコンピレコードです」
――こうしてみると、やっぱり佐藤タイジの音楽ルーツはブラックミュージック?
「そうだね。もちろんビートルズもものすごい影響受けてるんだけど、ブラックミュージックをプッシュすることの方が俺のキャラクター的には正解なのかなって思うね」
――確かに。説得力があるし、ここまでブラックミュージックをプッシュしている人もいないですよね。
「日本のミュージシャンはあんまりそういうふうになってこなくなったよね」
――何故なんでしょう?
「わかんない。全然わかんない。なんでかな?って思うけど」
――一昨年『サマー・オブ・ソウル』というドキュメンタリー映画がありましたよね?
「素晴らしい映画だったよね。あの映画の舞台になっているのが、1969年の夏にニューヨークのハーレムでブラック・ミュージックのスターたちが集結して開催された音楽フェス『ハーレム・カルチュラル・フェスティバル』。実に『ウッドストック』より先に開催されて、平和や人権や自由について謳ってたわけやん。
――あれの映画を観て、こういうやり方で世の中って変えられるんだなって思いました。
「あのフェスは本当にすごかったね。クエストラヴは頑張ったと思うし。あの映像が完全封印されてたっていう事実もすごいなと思ったし。でも復活させて、これやばい!ってみんながなったのは、アメリカの宝だよね」
――本当に宝だと思うし、そういうふうに音楽をまた聴き直してくれるといいなって思います。聴き方は自由だけど、音楽を掘れば必ず人権とか平和とか出てくるんですよね。別にジャケットに平和って書いてなくても伝わってくるし。
「伝わってくるんですよ。で、俺はそういう音楽が好きだし。もちろん音楽って現実逃避をすげーさせてくれるから、とても素晴らしいものなんだけど、でも現実逃避できるメディアだからこそ、ちゃんと現実を歌うっていう意識があるミュージシャンが好き。言葉を選んで、でも言いたいことがあってみたいな。日本人でもたくさんいると思うよ」
――その話の流れで言うと、今年の『中津川THE SOLAR BUDOKAN』の日程が発表になりましたね。
「うん。9月23日、24日の2日間やね。まだ今年のテーマは決めてないけど、基本的に100%再生可能エネルギーでやるというコンセプトは変わんないからね」
――ええ。今、マール・サンダースのレコードからガルシアの声が聞こえてきたので、思い出したんですけど…。レイヴとかダンスっていうところで言うと、僕はデッドのライヴを89年にアメリカで見たときに、デッド・ヘッズがライヴの最中に踊っているのがとても印象に残っていて。室内のアリーナでのライヴだったんですけど、フロアみたいなところで女の子たちがほぼ半裸のような状態でクルクル回って踊ってるんですよ。それがすごく美しくて。
「デッドのファンってみんなオシャレだし、客がカッコいいんだよね」
――ええ。で、そのデッド・ヘッズが踊っている画が、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の最後のシーンとすごく被ったんです。主人公のホールデン・コールフィールドは社会のインチキ野郎どもに耐えられなくなって、旅に出るわけですよ。で、旅の最後にニューヨークに母親と住む妹のフィービーに会いに行くんです。
で、フィービーに会うんですが、イノセントの象徴であるフィービーは最後にバケツをひっくり返した大雨の中、雨に濡れながらキャッキャ言いながらクルクル回って踊るシーンがラストにあるんです。その無垢なる象徴としてのフィービーが雨の中で踊るシーンと、デッドヘッズたちが踊るシーンが重なったんです。無垢なるものは踊るんだっていうのが僕の中にあって。だから踊っている人たちを見るといいなって思うんです。
「俺も好きなんですよ。踊ってる人たちっていい」
――だから阿波踊りとかもすごいいいと思うし。美しいと思うんです。
「踊りって統制が取れてなければ取れてないほどいいんですよ。統制が取れている阿波踊りって、見てて不愉快になるからね。みんなもっと自由でいいんだよね。自由に生きていたほうが美しいし輝いていると思うね」
※佐藤タイジ氏が持ち寄ったレコード7枚