HR SPECIALでSWEETなゲスト
大きなフリル、パニエで膨らんだスカート、イチゴやテディをあしらったメルヘンなテキスタイル―—。
90年代には「KERA」や「ゴシック&ロリータバイブル」などのそのスタイルにスポットを当てまくった雑誌も多く登場し、当時のファッションを語る上では欠かせないピースの1つ。
そう、今回は待望のロリータ回だ。
ジャンルの確立やトレンドの隆盛から時間が経ち、もはや言葉としては一般化したと言っていい”ロリータ”。
だけど実際、ロリータファッションって何なんだろう……?
というか、誰に聞けばいいんだろう……?
……と、毎度のことながら途方に暮れた結果、蜘蛛の糸に縋るカンダタよろしく、ある方へとお電話。
(呼出音) トゥルルル……トゥルルル……
担当編集「初めまして、ケムール編集部の小梅と申します。”鳥居服装学院”という連載をやっており……ごにょごにょ(連載の説明)」
???「なるほど。私でよければぜひご協力させてください!」
担当編集「え、マジですか。でも”あの部屋”、自宅ですよね? 訪問&私物の試着もOKですか……?」
???「大丈夫です!」
担当編集(女神か……)
人様のご厚意には徹底的に甘えさせていただくのがケムールのスタイル。
というわけで、今回のゲストはお店ではなく、日本ロリータ協会会長・青木美沙子さんのご登場です!!
■青木美沙子(あおき・みさこ)
ロリータモデル&看護師。ロリータファッションの第一人者として、ロリータ を広める活動中。様々な企業とコラボプロデュースも行う。現役看護師として働いている。
学長&会長の豪華な布陣となり、話も超盛りだくさんになったため4月と5月は合併号。
決して担当編集が話をまとめる筆力がないわけではございません。
これを読めば、ロリータのあの頃と現在が分かるはず!!
いざ、1000着のロリータ服がある「ロリータ部屋」へ……!!
1限目 90年代が帰ってくる??
鳥居みゆき(以下「鳥居」) うっわぁ~すごいですね。
担当編集(以下「編」) 圧巻……動画では拝見してましたけど、改めて見ると凄まじい……。
鳥居 ゴスロリだと黒基調だから気になんなそうですけど、淡い色だと日焼けとかの変色もあるじゃないですか。だから管理がすごいですね。
青木美沙子(以下「青木」) ありがとうございます。一応、ロリータ部屋のお洋服はブランドごとに分けられています。
編 青木さんが今日着ていらっしゃるのは……?
青木 Innocent Worldです。クラロリ(クラシカルロリータ)の代表的なブランドさんで、上品なくすんだ色味のものが多いので、鳥居さんも好きかなぁって思っていました。
■BLAND DATA
No.32:Innocent World(イノセント・ワールド)
ABOUT
Innocent Worldはデザイナーの「藤原 ゆみ」がヨーロッパのクラシカルスタイルからインスピレーションを受け、上品で可愛らしい物作りを基本とし新しい時代のお嬢様スタイルを提案するブランドです。
Innocent World(イノセントワールド)というブランド名は「無邪気な世界」「汚れなき世界」という意味でいつまでも天真爛漫な少女の心を持つ女性の為に、という意味でつけられました。
青木 ちょうどこのお洋服は5月に公開される映画『ハピネス』で吉田羊さんが着用されているものと一緒です。原作は『下妻物語』でも知られる嶽本野ばらさんで、私も衣装協力をさせていただいています。
私は映像でしか拝見してないんですけど、劇中では主人公を演じる蒔田彩珠さんはもちろん、橋本愛さんや山崎まさよしさんもロリータを着てくれていました。
とりいのーと:嶽本野ばら作家。少女文化の後継者として、ロリータ趣味、怪奇趣味などを織り込んだ作品を発表している。代表作『下妻物語』は深田恭子・土屋アンナのW主演にて映画化され、ロリータファッションを広い層にまで認知させるなど多大な人気と影響力を誇る。
鳥居 山崎まさよしさんも映画のなかでロリータ着てるんだ。
青木 男性の場合、ロリータに似たテイストだと”王子系”って呼ばれるようなスタイルもあるんですけど、昔からロリータ界隈では男性の方もごく普通にロリータ服を着てらっしゃいます。
後ろがシャーリングになっているのでサイズ調整もしやすいですし、露出が少ないので異性装する際にも着やすいのかもしれないですね。
編 『下妻物語』はロリータファッションを世に知らしめた、大きな影響力を持った作品ですね。
青木 ロリータファッションは、90年代の原宿のストリートファッションとして日本発で生まれたファッションで、2000年代に以降に明確なスタイルが確立されていきました。
『下妻物語』は2004年の映画なので、ちょうどロリータのファッションとしてのジャンルが確立されてすぐ後くらいの時期にロリータの盛り上がりを後押ししてくれた作品です。
編 ファッションとしてのロリータを知らなかった人にまで認知を拡大したのが凄まじいです。
青木 最近では”懐古ロリータ”って言って、『下妻物語』の深田恭子さんが着ていたロリータをイメージするような服をリバイバルで作っているブランドさんも多いですし、当時のロリータが再注目されている時代でもあります。
編 一回りして、原点回帰している感じなんでしょうかね。
2限目 ロリータは”めんどくさい”?
鳥居 青木さんは、いつ頃からロリータにハマったんですか?
青木 17歳くらいのときに「KERA」っていう雑誌があって、その読者モデルになったことが大きなきっかけでした。
まだまだ私も初心者だったし、当時はロリータファッション自体がまだそんなに世の中に知られていなかったんですよね。千秋さん、JUDY AND MARYのYUKIさんとかがロリータパンクっぽい感じだったんですけど、世の中にはまだ今ほど浸透していなかったり、明確に”ロリータ・ファッション”っていうものが確立されていない時代でした。
鳥居 そうなんですね。私、ラフォーレにずっと入ってるJane marpleすごい好きでした。当時、すごい高かったけど。
No.33:Jane marple(ジェーン・マープル)ABOUT
1985年、MILKより独立した成田保裕と村野めぐみにより始まり、ストライプやタータンチェック柄などをキーモチーフにしたトラッドなスタイルを提案してきた。
1988年にラフォーレ原宿 Part Ⅱの2Fに直営店をオープンし、その後89年より1Fのクリスマスウィンドウディスプレイを担当するなど、90年代の原宿の冬を彩ったブランドでもある。
青木 すごい高かったし、今もすごい高いです。でも着てらっしゃいそう。
鳥居 学生のときに、何だここのお店すごく高いって思ってました。それに、(ロリータの)その道の人しか入るべからずな感じで、めちゃくちゃ入りづらかった。他のロリータブランドともフロアが違いましたし。
青木 Jane marpleはロリータとは区別しておきたいブランドさんなので、絶対に地下には下りないんですよ。ロリータよりももう少し幅が広いんです。
鳥居 そうだったんですか。たしかにちょっと違う感じはしますね。PINK HOUSEとかはロリータですか?
No.34:PINK HOUSE(ピンク・ハウス)ABOUT
1973年、デザイナー・金子功によって設立されたブランド。花やフリル、レースなどを用いた唯一無二の「可愛い」を提案してきた。森尾由美さんが愛用し、「はなまるマーケット」では衣装提供もされていたことで知られる。
青木 大人になったロリータちゃんたちがハマったり、着ているブランドです。私自身もよくお買い物していて、着ることもあります。
鳥居 ピンクハウスって前は今と違って、少し上の年代の人たちが着ているイメージがあったから、ちょっと昭和っていうイメージありましたよね。
青木 PINK HOUSEを着ている方のなかでも代表的な森尾由美さんとかって私たちよりも少し上の世代なので、そういうイメージがあったのかもしれないですね。
鳥居 そうすると、森尾由美さんは元祖ロリータ的な存在なんですか?
青木 いえ、実はちょっと違くて……PINK HOUSEもロリータじゃないんです。
鳥居 え、違うんですか。
青木 ロリータと親和性はありますし、カワイイファッションの先駆者的な存在ではあるんですが、PINK HOUSEの歴史に対して、ロリータのジャンルは30年くらいの歴史しかないので、厳密には違うんです。
鳥居 そういうのがあるんだ。音楽でもありますよね。うちはロックであってビジュアルじゃないみたいな。
青木 そうなんです。ロリータ界隈ってちょっとめんどくさいんです(笑)
3限目 ロリータの語源とタブーと着こなし方
鳥居 ロリータ服ってほんとに作りが凝ってますよね~。柄も素晴らしい!!
青木 鳥居さん、すごく似合いそうです。
鳥居 私、ロリータ大好きだったんですよ。でも身長があるからあんまり手出せなかったんです。
青木 え~、そんなことないと思いますよ。むしろ私はずっとこっち界隈の人だと思ってました。
鳥居 私も似合うかなぁ……(笑)
鳥居 ロリータって、色んなパターンで着まわしたりするんですか? それとも、これにはこれって決まりがある?
青木 ほぼジャンスカ(ジャンプスカート)がメインで、ヘッドドレスやボンネットはセットになっているものもあります。中に着るブラウスは立ち襟のものに変えてみたり、ロリータのジャンルの枠組みのなかではもちろん着まわしもします。
セクシーな雰囲気にならないようにするのが難しいんですよ。胸がある方の場合はつぶして着たりすることもありますね。
鳥居 それは子供っぽくするってことですか?
青木 ロリータって単語自体がすごく難しいんですよね。日本だととくに、”ロリータ”って言ったときに、純粋なファッション以外の意味がくっついてしまうので……。
編 ロリコンのロリータと混同されるやつですね。
青木 そうです。語源は一緒なんですけど、ロリータちゃんたちからするとそこが混ざってしまうのはすごい嫌なんです。
だから、性的な要素を最大限排除したうえで、肌の露出を避けてかわいらしさ・少女らしさを演出するっていうのが、ロリータファッションの課題なんです。
とりいのーと:”ロリータ”
”ロリータ”の語源は、ロシア出身のアメリカの作家、ウラジミール・ナボコフが書いた小説『ロリータ』にまで遡ることができる。
ロリータファッション、ロリータ・コンプレックスなどの派生語に見られるように、本作のヒロイン、ドロレス・レイズの愛称である”ロリータ”は「魅力的な少女」の代名詞として使われる。
鳥居 だからさらしを巻いたりするんだ。あれ、暑そうですよね……。
青木 でも結果的にはさらしを巻いたほうがロリータのお洋服をイメージ通りに着こなせたりするんですよ。
鳥居 じゃあ私が、背が高くてロリータ似合わないなって思ってたのは、どうしても大人っぽくなっちゃうからか。着ると余白が大きくなっちゃって、それが気になってたんですよ。
青木 たしかに90年代、00年代のロリータ服は丈が短いものが多かったんですよね。なので高身長の方が着ると、ばっちり膝が出る感じで。
今は丈もかなり長くなっているので、鳥居さんも着やすいやつたくさんあると思います。
鳥居 ほんとだ。これサイズじゃなくて作りの問題で丈が短いんですね。これは青木さんが当時着ていたやつですか?
青木 すてちゃってるものも多いんですけど、このBABYさんは不思議の国のアリスっぽい当時から人気のある王道のロリータです。
No.35:BABY, THE STARS SHINE BRIGHT(ベイビー・スター・シャイン・ブライト)
ABOUT
長きにわたりロリータシーンを牽引し続けるロリータトップメゾン。映画『下妻物語』で深田恭子さんが着用していたのも同ブランドの洋服だが、それ以前からロリータちゃんたちの御用達。
王道の甘ロリから、落ち着いたクラロリまで幅広いロリータジャンルの洋服を展開する。
鳥居 たしかにこういう色味多かった。
青木 これにエプロンを合わせてアリスっぽい雰囲気にしたものとか、イチゴ柄やクマちゃん柄は昔も今も人気がありますね。
このイノセントワールドのジャンスカは、色味も落ち着いていて、丈も長いので、鳥居さんも着やすいと思います。
鳥居 かわいい~! すごい素敵な色!
■90’s MAGAZINE ARCHIVE
■TFC STYLING
ジャンプスカート:Innocent World
エプロン:Innocent World
ブラウス:Innocent World
カチューシャ:Innocent World
編 めちゃくちゃ似合いますね……。
青木 ポージングも完璧です。やっぱりこっち界隈の人でした。
4限目 ロリータをつくるのは”心”
青木 私が鳥居さんに感じるロリータ要素が、ボブスタイルと前髪のぱっつんなんです。
編 たしかに、ロリータを着ている人で前髪をかき上げたりする人っていないですね。
鳥居 でも髪型ってこういう風に巻いたらかわいいんじゃないとか、染めたりとかやってるわけですよね? 私なんて何にもできないですよ(笑)
青木 もちろんロングの人も多いですね。姫カットとか。
でもロリータっぽいヘアスタイルの場合、共通するポイントは眉毛を隠すことです。眉毛って表情が出てしまう部分なので、隠すことによってよりミステリアスなお人形感を演出できるんです。
編 なるほど……お人形感!
青木 なので表情もなるべく表には出しません。
鳥居 そしたらメイクもお人形っぽく寄せるんですか?
青木 そうですね。メイクも、チークを濃いめにしたり。抜け感とかいらないんですよ。
シースルーバングとか動きのあるヘアスタイルが流行ってますけど、そういうのとは真逆ですね。
編 この連載では過去にデコラ、アメカジ、サイバーなどなど色んな90年代トレンドを特集してきていて、どのジャンルも割と自由に、ファッションの型に問わられずにめちゃくちゃに楽しむみたいなことが共通していたんですが、洋服だけじゃなく髪型やメイクなんかにも「これ!」っていうセオリーや型があるのは新鮮です。
鳥居 ロリータって敷居が高いイメージがありますよね。
青木 完璧主義なんだと思います。
確かに昔はすごくハードルが高くて、全身ロリータブランドで決まってないといけないみたいな空気があったんですけど、今はプチプラでロリータが買えたり、楽しむためのハードルは下がってきたかなっていう印象はあります。
セオリーはありますけど、自分がロリータだって思って着ていればそれはもうロリータであって、他の人に何を言われようと楽しんでいいんです。
HR ロリータ百花繚乱の時代へ
分かっちゃいたことだが、ロリータ……奥が深すぎる。
しかしもちろん、こんなもんじゃない。
日本のストリートから生まれた”カワイイファッション代表”はここから百花繚乱の時代を迎えていく。
次号はロリータファッションとしてのジャンルが確立され、ゴスロリを始めとした細分化されていくロリータについて。
90年代~現在まで、変わったことと変わらなかったことを概観していく。
お楽しみに!!
~放課後~
1981年生まれ。2001年に芸人デビュー。「ヒットエンドラーン」のネタでブレイクする。映画・ドラマ・舞台出演のほか、小説・絵本の執筆も。発達障害をテーマにした番組『でこぼこポン!』(Eテレ)に出演中。
Instagram:@triimiyukitrii
YouTube:「鳥居みゆき地獄」
Twitter(X):@korekore_koume
ケムール編集部員。前は古着屋。潰れたソフトケースのなかにあるしわしわの煙草がすき。担当連載は「鳥居服装学院」「Talk at Fillers」「ネオホームレス-自由と稼ぎの流儀-」。
株式会社STSデジタル所属。
HP:https://sts-d.com/