HR 連載存続の危機……?
7月に連載が始まり、はや半年。
90’sのファッショントレンドを、当時のリアルな洋服とともに振り返ってきた本連載だが、実は当初より大きな懸念点があった。
当時の服、残ってない場合どうするの……?
ファッション業界に何のコネも伝手もないケムールにとって、これは由々しき大問題。
古着としての価値が確立されて残っているものも多い反面、四半世紀経ってブランドごと完全消滅しているような洋服もかなり多いのである。
編集部を悩ませるトレンドの1つが、今回のテーマである”サイバー”。
当時のファッションシーンを牽引していた国内ブランド「FÖTUS」は2007年にブランド閉鎖。
ロンドン発のサイバーブランド「CYBER DOG」も日本市場から撤退している。
近年の”Y2K”や”Y3K”というキーワードの盛り上がりに合わせて、”サイバー”は再び注目されているものの、90’s当時の洋服を専門的に取り扱っているようなお店は(調べた限り)存在しない。
日夜血眼でネットの海を漁り、時には古着屋さんを徘徊しまくって90’sの洋服を探す日々……。
「今回はマジで終わったかもしれん」
心が折れかけたその瞬間、担当編集の前に神が現れたのである。
「――――これじゃん!!!!」
藁にも縋る思いで取材協力をお願いしたところ2秒で快諾。
そこで今回は、もはや国内有数のサイバーコレクターと言っていいだろうむゆあさんが店長を務めるサントニブンノイチ原宿店に、足を運ばせていただいた。
■SHOP DATA
No.8 サントニブンノイチ原宿店
ABOUT
スタッフそれぞれが着たいと思える服を集めた宝箱のようなショップ。スタンダードな古着からサイバーや子供服を取り扱うほか、SUPER LOVERSやMILK BOYなど90’sを席巻したブランドなどジャンルに囚われない自由なファッションとスタイルを提案している。
ADDRESS:東京都渋谷区神宮前4-26-28 黄色棟3F
OPEN:13:00~20:00
Instagram:@santonibunnoichi_harajuku
Twitter(X):@santo_tokyo
公式サイト:https://santo-tokyo.stores.jp/
店長:むゆあさん
1限目 平成のカオスが詰まったお店
鳥居みゆき(以下「鳥居」) これかわいい!
むゆあ ちょうど90’sくらいのモンドリアンデザインのコートですね。ブランドが有名とかではないんですけど、かわいいですよね。
担当編集(以下「編」) 訳分からんブランドのかわいい服って、まさに古着の醍醐味ですね。
鳥居 インターナショナルシーンって書いてあります。あ~あのインターナショナルシーンね~。
むゆあ へぇ~あのインターナショナルシーンか。
編 (笑)
鳥居 わあ、これなに⁉ ミニモニだ! さんま師匠もいる!
なんかレアものも置いてる感じなんですか?
むゆあ 僕がこういうファッションとしてはちょっと変なもの好きなんですよ。
鳥居 全然変じゃないですよ?
チェーンもあるんだ。昔やたらみんな南京錠とかつけてましたよね。
むゆあ 南京錠はラバーズとかが出してましたね。
鳥居 あちこちから出てるからどこの買ったらいいか分かんなくて、私、カインズホームで買ってつけてました。
むゆあ 本物(笑) ウォレットチェーンは、実は今もけっこう流行ってます。
鳥居 ウォレットチェーンも昔めっちゃ流行ってたことありましたよね。
むゆあ 今けっこう”お兄系”がきてて、00年代のメンズエッグ、メンズナックル系のファッションとか人気あるんですよ。
編 お兄系って言葉自体、めちゃめちゃ久々に聞きましたね(笑)
1999年より、大洋図書から刊行されていた男性ファッション誌。主にギャル男、お兄系と呼ばれる”渋谷系”のメンズストリートファッションを扱う。
「MEN’S KNUCKLE」は「Men’s egg」の増刊号の位置づけで2004年に創刊された。(不定期発行だったが2006年より月刊に移行)
”千の言葉より残酷な俺という説得力”など、Twitterを始めとするネット民ならば一度は見聞きしたことがあるだろう、挑発的なキャッチコピーも話題になった。
2限目 近未来にノスタルジーを
鳥居 ここってどういうお店なんですか? サイバー専門って感じではないですよね?
むゆあ もともとは大阪発祥で、服好きな人を増やそうっていうコンセプトでオーナーのロザッチさんが立ち上げたお店です。
今の原宿店は、スタッフが好きで着たい服を置いてます。なのでY2Kもあるし、スタンダードにカジュアルな古着もある。当然、僕が好きなサイバーもあります。
やっぱり好きな服じゃないとスタッフが楽しくないし、勧められるお客さんのほうも楽しくないと思うので。
鳥居 わー! かわいい! CYBER DOGだ。今イギリス行かないとないですもんね~。
鳥居 ほんとに質がいいんですよね。ファーも意外と抜けないし。懐かしい~。
編 裏地もなめらかかつ程よい厚みがあって、化繊なのに肌当たりがいいですね。
■BRAND DATA
No.18 CYBER DOG(サイバードッグ)
ABOUT
ロンドン発のサイバー系ファッションブランド。ロンドンにある旗艦店では、洋服だけではなくメイクやインテリア、アダルト用品まで販売している。
洋服は、GACKTさんなども当時愛用していたが、国内のサイバーファッション低迷に伴い、現在は日本より撤退。
むゆあ もちろんFÖTUSもあります。
鳥居 うわ、FÖTUS! これの青持ってましたよ~。襟が高いからジップでいつも顎の肉挟んでた(笑)
懐かし~。私、FÖTUS大好きだったんですよ。よく集めましたね。
むゆあ もともとは僕の私物だったんですけど、まあいいかなって思って商品としてお店に並べてます。
編 サントニブンノイチ原宿店はけっこう各スタッフの私物なんかを売ってるんですよね。
むゆあ そうなんですよ。好き勝手やらせてもらってますね(笑)
■STREET ARCHIVE
■TFC STYLING
CAP:FÖTUS
SHIRT(半袖):FÖTUS
SHIRT(長袖):FÖTUS
PANTS:FÖTUS
SHOES:コージクガ
■BRAND DATA
No.19 FÖTUS(フェトウス)
ABOUT
日本における90~00’sのサイバーファッションを象徴するブランド。デザイナーは斎藤雅弘さん。GRAYのJIROさん他、多くのヴィジュアル系アーティストも愛用していた。2006年に渋谷「ZETRUM」が閉店。その後はKERAショップで取り扱いがあったもののブランド閉鎖になっている。
ブランドロゴに象徴されるように、”FOTUS”はドイツ語で「胎児」を意味する。
編 足元のコージクガ。バッファロー、ロッキンホースとかと並ぶ当時のストリートで履かれていた厚底靴の鉄板ですね。
鳥居 わぁ~2000年くらいの原宿ってこういう人いっぱいいましたよ。でもこれ私、足をひねっちゃいそうで当時は履けなかったなぁ。
むゆあ ですよね。僕もめちゃくちゃひねります。
鳥居 ひねりながら履くもんなんですかね(笑)
帽子もかわいいですね。こんなの売ってたんだ。
むゆあ それはイカって呼ばれたみたいです。
鳥居 むゆあさんのはネコ?
むゆあ これは、そうですね。ネコです。
鳥居 私、サイバー系を着なくなってもずっととってあったんですよ。でも何年も前に新しく出てきた芸人で近未来キャラをやりだした人がいて、衣装代が大変だっていうから全部あげちゃったの。
編 それは、もったいない……。超貴重ですよ。
鳥居 ね。もったいない。今どこで何してるか分かんないけど返してほしい(笑)
編 探してもなかなか見つからないのでファッションアイテムとしてはもちろんなんですけど、資料としても価値が超高いですよね。
むゆあ そうですね。なので、最近は店にずっと出しとくっていうより、好きな人にちゃんと渡るように裏に引いていることも多いです(笑)
鳥居 今来るお客さんでもFÖTUSとかCYBER DOG目当てのお客さんは多いですか?
むゆあ いますね。老若男女いらっしゃいますけど、僕よりさらに若い人とかでも探している人はすごく多いです。
編 それぞれのブランドの世界観に芯が通ってて洋服としてめちゃくちゃ面白いですし、類似品がないってことでしょうね。欲しかったら血眼で探して当時のブランドをディグるしかない。
鳥居 あ~ホントに楽しい! ちゃんとお金おろしてくればよかった。誰か貸してくれません?
編 買い物する気だ(笑)
3限目 やっぱり欲しくなっちゃった
鳥居 この柄も持ってた。集合体恐怖症だったんですけどね。
編 1番よくない柄ですね(笑)
鳥居 着てれば自分は見なくて済みますから。人を苦しめてやろうって感じで(笑)
いいなぁ~。あの時代に戻りたい。最近のサイバーってどうなんですかね?
むゆあ 今、FOTUSはスーパー戦隊の衣装で着られてますよね。アイカエレクトロニクスさんは当時からFOTUSとも関わりが深かったみたいで、今もコラボしたりしてますね。
No.20 AIKA ELECTRONICS(アイカ エレクトロニクス)ABOUT
近未来とバイオミックをテーマにした、時代に染まらないサイバーファッションギアを提案する。”AIKA”はフィンランド語で「時間」を意味し、時を経ても色褪せない近未来ファッションの意味が込められる。ブランド公式リバイバルとなる「FÖTUS2022」を手掛けるほか、テレビ朝日系列「王様戦隊キングオージャー」に衣装提案・提供。
鳥居 あ~もう~本当に懐かしい!! 感激ですよ!!
え、W.&L.T.とかもあるの?? W.&L.T.って買ったときにもらえるふわふわのキーホルダーみたいのありましたよね。私、あれ自転車につけてました。
むゆあ 仰ってたWのやつとは違いますけど、キーホルダーもありますよ。レンチキュラーのウォレットなんですけど……
鳥居 え! なんで持ってるの⁉
編 W.&L.T.は当時のFRUiTSとかKERA!とか、雑誌のストリートスナップでも常連ブランドでしたよね。
鳥居 サイバー系では多かった気がします。
No.21 W.&L.T.
ABOUT
アン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテンなどと並び「アントワープの6人」と称されるデザイナー、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクによるブランド。ポップなデザインの洋服、さらにはPAKPAK(パクパク)というキャラクターも人気を博し、「FRUiT」や「KERA!」などのファッション誌のストリートスナップ常連のブランドとなった。
現在はブランド名を自身の名前である「Walter Van Beirendonck」へと変更している。
鳥居 これ、すっごいかわいいですね。
むゆあ それはジュピターのジャケットです。背中と袖のジップがかわいいですよね。でもめちゃくちゃ腕曲げづらくないですか?
鳥居 そんなことないよ?
むゆあ ほんとっすか。じゃあその服向いてます(笑)
鳥居 あ、でも万歳はしづらい。賛成と喜びを表現しづらいですね。ひな壇とかでハイハイって手上げづらいかも。
編 衣装にする気満々ですね(笑)
鳥居 だってこれ最高だよ?
むゆあ サイズもジャストですもんね。ちなみにジップのなかはメッシュになってます。
鳥居 え、かわいい! 最高じゃん! これほしい。買います!!
むゆあ 気に入ってもらえてめちゃくちゃ嬉しいです。
編 ……とりあえず、もう1スタイリング用意していただいてるので、収録の続きしません?(笑)
■TFC STYLING
BEST:CYBER DOG
TOPS:FÖTUS
T-SHIRT:FÖTUS
PANTS:ILLIG
SHOES:コージクガ
鳥居 かわいいな~! それに、生地がいいからかすごくあったかい。
むゆあ 生地が肉厚で目がつまってるからなんでしょうね。
編 空気栓を洋服にしようっていう意欲とセンスに脱帽ですね。
むゆあ でも実はこのジャージ、洗うと全然乾かないんですよ。栓開けて乾かしたり、裏からドライヤー当てたりしないといけなくて。
編 そこは近未来なのに全然機能的じゃないんですね。
鳥居 洗濯機が追いついてないんですよ。
4限目 サイバーファッションはどこから生まれた?
編 むゆあさんは【10月号/メゾン編】に登場してくれたÉLÉMENTSのお二人と同い年で、ニブンノイチ時代の先輩でもあるんですよね。
むゆあ そうなんです。なのでÉLÉMENTSの回見て、うわ、鳥居さん来てんのずる!って思ってました(笑)
鳥居 今日来れて良かったですよ。楽しいし、懐かしいし、感激です!
編 そもそもの話なんですけどサイバーってどういうファッションなんでしょう。
ブランドがなくなってたり、日本から撤退してたりで、当時の現物を探してもまとまっては出てきませんし、ネットの情報なんかでも断片的なものしかでてこないんですよね。
鳥居 やっぱり海外のほうが人気だったんですか?
むゆあ 発祥はおそらくドイツとかのレイブ系のクラブシーンから生まれたファッションですね。
なのでドイツとかイギリスとか、海外でのほうが人気が高いと思います。当時はラフォーレとかにもブランドが入ってたみたいですけど、海外から個人輸入している方とかも多いですね。
鳥居 普通に原色を使ってがちゃがちゃさせるとデコラになっちゃうけど、サイバーってそれともまた違いますよね。
編 デコラはいい意味でのチープさが売りですけど、サイバーは素材も異様にいいし、少しベクトルが違うんでしょうね。今じゃあり得ないだろうって洋服も多いですし。
むゆあ これとかは、自分も未だに着こなし方がよく分かってないやつです。
鳥居 一応、ベスト……?
むゆあ いうなればベストですかね(笑) ちょっとガスマスクみたいになってて。
鳥居 顔ぜんぶ隠れちゃう!(笑)
むゆあ 襟は折り返したり、開けて着るといいです(笑)
鳥居 顔ぜんぶ隠れててもよくないですか? 1人一蘭ができる。
編 仕切り(笑)
鳥居 サイバーって玩具でなんかしようって感じじゃないですよね。なんかさ、自転車の蛍光シールみたいなああいう感じ。メタリックでキラキラしてて。
筆箱のロマンだよ。
むゆあ ……筆箱?
鳥居 昔の筆箱ってギミックがすごかったんですよ。
ボタン押したら鉛筆削りが飛び出したり、筆箱の後ろ側が開いたり、鉛筆入れてるところも無駄にちょっとだけ上がったり。
そういうのにロマンを感じたのと同じ感じでサイバー系の洋服に興奮したんですよね。
みゆき学長の説明通り、鉛筆削りがついていたり、背面側が定規収納になっていたり、鉛筆がむやみに飛び出したりするギミック満載の筆箱。
超懐かしい! おまけにまだ商品として存在することにやや驚き。
ポケモンとか、PUMAとか、よく分からん謎のドラゴンとか、ありましたね~。
鳥居 むゆあさんがサイバーにハマったきっかけは何だったんですか?
むゆあ オーナーから当時着れなかったって話を聞いて、自分で調べてみたのがきっかけですかね。うわ、これカッコいいって。
鳥居 ぎりぎり間に合ったんですね。
むゆあ そうですね。ぎりぎりで90年代、00年代の残ってたストリートの空気みたいなものには触れることができたのかもしれないです。
ローソン前の雑誌のスナップとかも、撮られるまで何度も往復してました(笑)
鳥居 えー撮られたかったの?(笑)
むゆあ 目立ちたくて(笑)
鳥居 私はなるべく目立ちたくないから、いいですいいですってお断りさせてもらってました。
このあたりのATMって(表参道の)ローソン?
むゆあ いえ、お店出てすぐのところにファミマがあります。
鳥居 それじゃあさっきのジャケット、そろそろお金を払います!
編 忘れてなかった(笑)
HR 90’sに欠かせない唯一無二のファッションピース
トレンドとしてのサイバーは00年代後半から低迷し、1度ほぼ完全に消滅しかけたと言っていいだろう。
しかし洋服として、文化として、本当にイイものはなくならないのかもしれない。
担当編集自身、あれだけの量のサイバーブランドを目の当たりにしたのは初めてだったが、90’sを彩ったサイバーファッションのピースはどれもこだわりと想像力に満ちていたことは実際に手に取ってみれば一目瞭然だった。
当時のサイバーブランドとそれを愛好した人々が残した爪痕は、AIやマルチバースなどの影響を受けたトレンド「Y3K」(Year3000の略)などにも感じることができるはずだ。
(厳密にはかつてのサイバーと現代のサイバーは全然違うのだけど、そこはいつかまた次の機会に……)
「(無事に記事になって)よかった!!」
■SHOP DATA
No.08:サントニブンノイチ原宿店
■BRAND DATA
No.18:CYBER DOG
No.19:FÖTUS
No.20:AIKA ELECTRONICS
No.21:W.&L.T.
■鳥居服装学院×サントニブンノイチ
~放課後~ ”サイバーゴリラ!!”
1981年生まれ。2001年に芸人デビュー。「ヒットエンドラーン」のネタでブレイクする。映画・ドラマ・舞台出演のほか、小説・絵本の執筆も。発達障害をテーマにした番組『でこぼこポン!』(Eテレ)に出演中。
Instagram:@triimiyukitrii
YouTube:「鳥居みゆき地獄」
■サントニブンノイチ原宿店
ADDRESS:東京都渋谷区神宮前4-26-28 黄色棟3F
OPEN:13:00~20:00
Instagram:@santonibunnoichi_harajuku
Twitter(X):@santo_tokyo
公式サイト:https://santo-tokyo.stores.jp/
Twitter(X):@korekore_koume
ケムール編集部員。前は古着屋。潰れたソフトケースのなかにあるしわしわの煙草がすき。担当連載は「鳥居服装学院」「Talk at Fillers」「ネオホームレス-自由と稼ぎの流儀-」。
株式会社アクロスソリューションズ所属。
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