長年使っていたザックが、先日破れました。
思えば10年ほど前、友達たちに「山登りいこうぜ〜」と誘われて急遽買った5000円の安物で、この連載を始めてから最近やたらと酷使するようになっていたザック。
お値段がお値段なので、山の上で同じのを持っている人とすれ違うたびに互いに目を逸らしながらそっと苦笑いをした、そんなブツ。いや、よく持ってくれものだよ……これまでありがとうな、相棒。やはり、一抹の寂しさは禁じえません。
しかし、迫る次回の撮影日。山グッズ専門店で悩みに悩んで購入したおニューのザック、1万2000円也。お値段、これまで使ってたものの倍以上。トレッキングシューズに引き続き、「経費で落ちないかな……」と脳裏によぎったもののぐっと言葉を飲み込みます。
帰宅してさっそく背負ってみました。
うわ、全然違うわ。めっちゃ軽いし楽。今まで使ってたやつ何だったの? え、これまで山道が結構きつかったのってザックのせいもあったりするのかしら……寂しさ? ごめん吹き飛んだ。
教訓。「値段には値段なりの理由がある」
さて。新たなギアも手に入れたことですし、ほんの少しだけ山にも慣れてきた気がするし、少しステップアップを目指すことにします。
降り立ちますは、初回にも訪れた高尾山。「また?」とか言わない。
今回もケーブルカーに乗ります。「また?」とか言わない(二度目)。
ケーブルカーで高尾山駅に到着、吊橋のある四号路を進み頂上を目指します。前回は天気がどんよりしてましたが、今回は初秋の空気を感じる秋晴れ。気持ちいーい。
はい着きました、高尾山山頂です。
……え? 初回と一緒じゃないかって? いいえ、今回の本番はここからですよふふふ。
山頂から奥の方に伸びる、いわゆる「裏高尾」と言われる方へと足を進めます。山の頂上から頂上へと尾根を進む、いわゆる「縦走」ってやつですね。え? 高尾山レベルで縦走って言うなって? アーアー聞こえなーい。
高尾山山頂までは割と見かけていた登山者ですが、この日は平日だったせいかさすがにこのルートは人もまばら。マスクも外して、快適に歩みを進めます。
ただ、この「平日」というチョイスがこのあと思わぬ落とし穴を産むのですが……ウキウキと歩いているこのときの私はまだ知る由もなく。
アップダウンを繰り返し、汗をだくだくにかきながら歩くこと約1時間。この日の目的地・小仏城山に到着―!
標高670m、東京都を一望できる絶景が広がります。
そして、小仏城山の魅力といえばこれ。この光景を見ながら、茶屋の食事が楽しめるのです。お目当ては、城山茶屋名物のなめこ汁! このなめこ汁と、いつもの蓮池先生レシピで贅沢なお昼ごはんをいただく。これが今回の目的なのです。
が。期待していた茶屋の様子、何かがおかしい。店の中にいたおじさんに恐る恐る確認します。
「あーごめんねー。緊急事態宣言中は、平日は閉めてるんだよー」
えーーーーーーーーー!!!!!
ぐすん……期待していたなめこ汁が。蓮池先生にも今回は「なめこ汁に合わせたいごはんものをお願いします」とお願いしていたというのに! というわけで急遽、メインのみのそとごはんとなりましたが仕方ない。というか先生レシピのメインがあれば十分という気もしますが。
蓮池陽子
ビストロ勤務の後、料理教室で講師を務める。アウトドアで山菜や貝などの山や海の恵みを採取する中で、美味しい物の背景には“美しい自然”や“沢山の物語”があることに開眼。現在は料理教室からフードコーディネートまで幅広く活躍し、アウトドア料理のレシピ本も多数出版。
気を取り直して。今回のそとごはん、調理開始しますよー。
◯炊き込み! 生姜焼きごはん
<材料>
生姜焼き用肉 100g(3〜4枚)
米 120ml
千切りキャベツ 40〜50g ※市販品でOK
片栗粉 大さじ1/2
塩 小さじ1/3
[タレ]
・しょうが(すりおろし) 1かけ
・にんにく(すりおろし) 1/3かけ
・醤油 大さじ1と1/2
・酒 大さじ1/2
・みりん 小さじ1(大さじ1/3)
・ごま油 小さじ1/2〜
マヨネーズ、七味、青ネギ 各適宜
ガッツリ生姜焼きを大胆にも炊き込んでしまうというこのレシピ。
「普通の炊き込みご飯よりインパクトがあり、作るのがワクドキするものが良いかなと。食欲の秋ですし、食べ応えがあって楽しそうなメニューにしてみました」蓮池先生談。
先生、なんで私の趣味を完璧に把握してくださってるんでしょう……(泣)。そして今回はそとごはんもレベルアップ。カワグチ、「メスティン炊飯」に挑戦です!
事前にお米は洗い、ジップロックに入れて保冷して持参。タレの調味料も合わせて持参してあります。こちらも保冷して持参した豚肉にタレ大さじ1をよく揉み込み、片栗粉を入れてさらにモミモミ。
メスティンに米と水140ml(分量外)と塩を入れてよく混ぜて平らにならし、肉を広げて入れます。ちなみにお肉は大きければ適宜カットとのこと。今回は大きめメスティンなのでそのままで。
さて、ここからが勝負です。メスティンに蓋をして沸騰するまで中火、沸騰したら弱火で約10分炊飯。水の沸騰するクツクツという音がなくなれば炊き上がり、とのことですが……。
だ、大丈夫かな。中が見えないメスティン炊飯、実は過去何回か失敗しているのですよね。今回も泣きながら生煮えor焦げた米を食べる羽目になるのか。いやそれだけは避けたい。というか茶屋も閉まってるから、失敗したらリアルに死にかねないよね。
そんな事態を避けるべく、今回、事前に蓮池先生にポイントを聞いてみました。
「ごはんは鍋で炊く場合、1合でも2升でも要する時間は同じです。おおよそ沸騰するまでに10分、沸騰したら弱火で10分。メスティンは熱伝導が良いため、はじめから中火にすると火力が強い可能性があります。8〜10分ぐらいかけて沸騰させて、残り10分ぐらいで炊き上げるつもりだといいですよ」(蓮池先生)
なるほど、メスティンは弱火がポイントと。
「また炊き込みごはんは、下記のポイントがあります。
① 醤油などを入れると焦げがち
② 塩分がはいるとご飯が固くなりがち
なので、白米を炊く時より多少多めに水分を入れたほうが良いですよ」(蓮池先生)
なーーーるーーーほーーーどーーー! いや本当に役立ちませんこの知識? 先生ありがとう!
水が沸騰するクツクツいう音がなくなってきたので、すぐに蓋を開け、手早く肉を蓋に取り出してます。キャベツをご飯の上に広げ、肉を戻し蓋をして5〜10分蒸らしタイム。
蒸らし終わったらマヨネーズと青ネギ、七味など好みの薬味をかけて完成です!!
きゃー、めちゃくちゃ美味しそう! というか歩き疲れて過去最高にお腹が空いてます。
余ったたれをかけて、パクリというか、ガブリ。あー生姜焼き、美味しい! というか下味がしっかりしてるせいか、炊き込んでもしっかり生姜焼きの味なんですね、不思議。マヨと七味が効いています。というか山の上だとマヨとか全く罪悪感ないですね(ニッコリ)。ご飯も、今回はバッチリ! ほのかに醤油味の効いた炊き込みご飯と、しんなりキャベツが相性◎。
お腹が一段落したのでぐるりと周りを見回すと、みなさん思い思いのスタイルでご飯を楽しんでいます。中にはバーナーでコーヒーを沸かして分厚いハードカバーを読んでいる人も。実はこの小仏城山、バスの時間をうまく合わせればJR高尾駅まで1時間ちょっとで戻れるのですよね。そう考えると、山頂でゆっくり過ごすつもりで来るのもいいかも。
お昼過ぎてモヤが晴れ、都心のビル群が見えてきます。あれって新宿かなー、となると向こうは池袋? 東京? 関東平野を一望しながら、少しレベルアップした自分にゴキゲンになりつつ、訪れる秋の気配を存分に堪能したのでした。
でもやっぱ、なめこ汁も食べたかったな……。