リストのないワイン屋さんの「今、届けたい」ワインストーリー Episode.1 スペインの新潮流として今最も注目されるワインの造り手、ビーニャ・ソルサル・ワインズ

◆執筆者紹介

江畠 由佳梨 / Yukari EBATA

(社)日本ソムリエ協会認定
ソムリエ

1988年名古屋生まれ名古屋育ち。
神戸松蔭女子大学 英米文学科卒業後、東京のワイン輸入会社に勤務。

フランス語とワインを学ぶ為、ボルドーに約1年間留学。
2018年、プルール株式会社設立。

現在はワインのコーディネート販売、イベントの企画、セミナー講師として活動中。

趣味は各国の料理を作る事、ワイナリー訪問、欧州サッカー観戦。

ワインに込められたストーリーを届けたい

私は幼少の頃から好奇心が旺盛でしたが、大学生の頃は特に国際交流に夢中になりました。

大学では英語やフランス語などを学びながらフランス人家族と一緒に住み、イギリス人の営むバーで毎日アルバイト、そして長期休暇の度に世界中をバックパックで旅行をしていました。そのような生活をするなかで、”何か異文化を繋げる仕事がしたい”と思っていました。

とある日、何気なくコンビニで買ったボジョレー・ヌーヴォーの2009年を飲みました。私は当時ワインに対して何の造詣もありませんでしたが、そのワインがとても美味しくて、「ワインって色んな国のことが知れて面白そうだな。それに、なんかオシャレでカッコいい!」と安直に思い始めました。それが「ワインを仕事にしよう」と思ったきっかけとなりました。

その後私はワインの勉強を始めつつ、ワイン商社に絞って就職活動をし始めます。何気なく始めたワインの勉強でしたが、知れば知る程私はワインに強く惹かれていきました。ワインのことを知る度に、私は世界中旅をしている時のワクワクした高揚感を感じていました。

世界中で生産され、消費されているそれぞれのワインには、背景や歴史、文化が詰まっています。
ワインは水すらも添加せず、ブドウのみを発酵して造られます。そのため、工業製品ではなく農作物だと言われます。造られた年や環境、造り手によって味わいが変わり、ひとつとして同じワインはありません。

今まで、たまにワインを飲む機会はあっても、私には「美味しい」か「美味しくない」か以外の判断基準がありませんでしたが、背景を知ると日本にいても遠く離れた異国に想いを馳せることが出来ます。ひとつひとつのワインには造り手の喜びや苦労がたっぷり詰まっています。私はワインをお客様のもとへお届けする上で、そんなワインの造り手の溢れる想いやストーリーを届けることを大切にしています。

スペインワインの新潮流、ビーニャ・ソルサル・ワインズ

今回私が紹介させて頂くのは、スペイン北部のナバーラ州にあるビーニャ・ソルサル・ワインズというワイナリーです。

(※ワインの熟成室でのサビィ、ミケール、イニャーキ)

「ビーニャ」はスペイン語でブドウ畑、「ソルサル」は野鳥のツグミを意味します。
彼らの畑にはよくツグミがブドウをついばみにやってくるので、畑のシンボルとなっているようです。私だったら「大事に育てたブドウをついばみに来るなんて、けしからん鳥だな!」と思ってしまいそうなものですが、彼らが自然を愛し、自然と共にワイン造りをしていることが窺えます。

ビーニャ・ソルサル・ワイナリーは1989年にアントニオ・サンスという男性が設立しました。ワイナリーに勤めていたアントニオの長年の夢は、彼自身のワイナリーをナバーラに持つことでした。 彼はその夢を叶え、現在は3人の息子達サビィ、ミケール、イニャーキがアントニオの夢を引き継いでいます。

(※ブドウ畑でのサビィ、ミケール、イニャーキ)

私はサビィにしかお会いしたことがないのですが、サビィはとにかく明るくフレンドリーで前向きで、それでいてとても勉強熱心です。

(※2020年にビーニャ・ソルサル・ワインズを訪問した時の写真)

サビィは世界中を飛び回り様々な土地でブドウの栽培や、ワインのマーケティングや醸造等を勉強しています。
なかでもサビィがよく足を運んでいるのはフランスのブルゴーニュ地方だとか。
ブルゴーニュ地方といえば、ピノ・ノワールという果皮の薄い高貴な黒ブドウを使用することで知られており、気品溢れるエレガントなワインを産出することで評価の高い銘醸地です。

(※かの有名なロマネ・コンティも、ブルゴーニュ地方で生産されているワインです。)

従来、スペインワインは濃厚で樽の香りがしっかりとしたパワフルな飲みごたえのあるワインが多く造られていましたが、ビーニャ・ソルサルのワインは伝統的な重厚感のあるワインではなく、ピュアな果実味を活かしたエレガントなワインが造られています。
スタンダードなシリーズのワインではあえて樽を使わず、ブドウ本来の味わいを際立たせています。

(※ソルサルの定番アイテム)

昔から栽培されてきた畑に注目し、ナバーラでは少なくなった樹齢70年~120年のガルナッチャという土着品種のブドウ畑を所有しています。 土地に根付いた品種を大事にしており、ガルナッチャ種やグラシアーノ種など固有の品種に力を入れて有機栽培を実践。 畑を区画ごとに細分化するなどテロワールも大事にしています。

(※ソルサルの持つ樹齢の長いガルナッチャ種のブドウ畑)

醸造においても近代醸造技術を思慮深く利用しており、新樽や酸化防止剤の使用を極力避け、 伝統を大事にしながらフレッシュ感のある高品質なワインを造り出しています。

(※ワインの熟成室にて、ボトリング前のワインを樽から頂きました!)

これらのワインはスペイン国内で最も権威のあるワイン専門誌ギア・ペニンを始め、イギリス人評論家のジャンシス・ロビンソン女史や同国のワイン専門誌デカンタ、 アメリカのウォールストリートジャーナル紙などの様々なメディアからも高評価を獲得するなど、 スペインの新潮流として、今最も注目されている生産者と言えます。

私がこのワイナリーを伝えたい理由

私がこのワインを一人でも多くの方に知ってほしいと願う理由は、ワインが美味しいということはもちろんなのですが、ワイナリーが自然体でサステイナブル(持続可能)でありつつ、オリジナリティのあるワイン造りをしているからです。

今までのワインの世界は、一部のワイン評論家があまりにも巨大な権力を持っており、評論家達の好みによってワイン市場の価格が大きく変わる、という現象が頻繁に起こっていました。某有名な評論家は濃厚な味わいを好み、生産者達はその評論家の好みに合わせてこぞって濃いワインを造っていた時期が長くあります。(今でもそういったワインの名残はたくさんあります。)

世界中には様々な地形や気象条件、ブドウ品種、造り手が存在しているのに一部の人の好みに合わせてワインを造っていると、世界中のワインが個性を失い、どれも同じような傾向を持つワインばかりになっていってしまいます。

そこで近年では、それぞれの風土にあったワインを造ろう、と原点回帰してその土地らしいワインを造る生産者が再び増えてきました。
ビーニャ・ソルサルはその代表的な生産者とも言えます。
今までのスペインワインの傾向に沿ったワインではなく、ソルサルの拠点とするスペインのナバーラの土地に敬意を払い、自然の育むブドウに最大限の敬意を払い、唯一無二の美しいワインを生産しています。

ビーニャ・ソルサルは環境にやさしいブドウ栽培を実践しています。すべての工程は手作業で行われ、土着の植物にこだわり、そんな環境で育てられたブドウは病気に侵される抵抗力を高めると言われているほどです。

畑に対しての最小限の介入というビーニャ・ソルサルの哲学は醸造にも受け継がれています。乾燥酵母を使用せず自然酵母を使用し、フィルターをかけず僅かな量の酸化防止剤のみを添加します。

また、ビーニャ・ソルサルは数々の賞を受賞するワインを産み出し続けているにも関わらず『みんなの手が届く価格で』と高品質なワインをお手頃な価格でリリースしています。
ワインに対して“コスパがいい”と表現することは個人的にはあまり好きではないのですが、ワイナリーの消費者に対する真摯な努力を感じずにはいられません。

日本でも近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」という考え方があります。 “商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる”という考え方です。ビーニャ・ソルサルの取り組みはまさに「三方よし」と言うにふさわしいと思います。

(※ビーニャ・ソルサル・ワインズの畑にて。桜にそっくりですが、こちらはアーモンドの木です。)

スペイン・ナバーラってどんなところ?

ビーニャ・ソルサルが本拠地を構えるナバーラ州はスペインの北部に位置しており、フランスと隣接しています。

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を辿ると教会や修道院、宮殿等、その痕跡を見ることができます。

(※ナバーラのコルテスにあるサンファンバウティスタ教会)

中世の頃にはナバラ王国として栄え、その領地はフランスにまで及んでいました。
スペインとフランスの歴史形成に大きく関わりつつも独立した政治や文化を持つ誇り高い国家として、今日にも多くの影響を与えています。

ナバーラ州は山に囲まれ豊富な緑の中で多様な地形を持ち、多くのバラエティに富んだ食材やワインを生産しています。ホワイトアスパラガスやアーティチョーク、ピキージョピーマン等の野菜のほか、豊かな水源に恵まれている為川魚も豊富で、釣り好きで知られるアメリカの文豪ヘミングウェイは「ナバラで釣った川マスは人生イチ」と語った逸話も残っているそうです。また、ピレネー山脈のふもとでは痩せた土地が多く、牛よりも羊やヤギが多く飼育され、羊やヤギのチーズも伝統的に造られています。

(※ナバーラのアルタホナという自然豊かな街)

ビーニャ・ソルサル を知るならこのワイン

ビーニャ・ソルサル・ガルナッチャ・ロサード
希望小売価格: 1,600円(税込1,760円)
タイプ:辛口ロゼワイン
産地:スペイン・ナバーラ
ブドウ品種:ガルナッチャ100%

鳥に描かれている模様は梅かと思いきや、意外にもポップコーン。
ドイツの評論家の方に『スペインワインってどれも重たくて気軽に飲めないのよね』と言われたのをきっかけに、ポップコーンに合わせるくらい気軽に飲めるワインを造ってみせようということで出来たワインです。

ナバーラはロゼワインの名産地としても知られていますが、
そのD.O.ナバーラのコンクールでベスト・ロゼに選出されています。

輝きのある美しいやや濃いめのピンク色。フレッシュなストロベリーなどベリー系果実やバラなどの香りに、ほのかなに感じるホワイトペッパーのニュアンス。

前菜からメイン料理まで幅広いお料理に合わせて頂けます。
欧風料理はもちろんの事、タイ料理や中華などにもよく合います。

ビーニャ・ソルサル・ガルナッチャ
希望小売価格: 1,600円(税込1,760円)
タイプ:フルーティで軽やかな赤ワイン
産地:スペイン・ナバーラ
ブドウ品種:ガルナッチャ100%

ソルサルワインズが設立された1989年は、ベルリンの壁崩壊の年。
鳥の模様はベルリンの壁にあった落書きと同じものが再現されています。

フレッシュな赤系果実やプラムに、ほのかにドライフラワーなどのニュアンスなどがあり、 きめ細やかなタンニン、スパイシーなハーブのニュアンスがあり、優しさやエレガントさを感じます。

シンプルに塩胡椒で味付けしたお肉や、酢豚、餃子などによく合います。
単体でも十分美味しいワインです。

最後に

ワインはその背景や生産者を知ると、より一層美味しく楽しめます。
皆さんも、機会があれば是非スペインに想いを馳せながらビーニャ・ソルサル・ワインズのワインを召し上がってみて下さいね!

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