リストのないワイン屋さんの「今、届けたい」ワインストーリー Episode. 2 家族経営で優しく上品なワインを紡ぐ、ドメーヌ・トロ・ボー

◆執筆者紹介

江畠 由佳梨 / Yukari EBATA

(社)日本ソムリエ協会認定
ソムリエ

1988年名古屋生まれ名古屋育ち。
神戸松蔭女子大学 英米文学科卒業後、東京のワイン輸入会社に勤務。

フランス語とワインを学ぶ為、ボルドーに約1年間留学。
2018年、プルール株式会社設立。

現在はワインのコーディネート販売、イベントの企画、セミナー講師として活動中。

趣味は各国の料理を作る事、ワイナリー訪問、欧州サッカー観戦。

家族経営で優しく上品なワインを紡ぐ、ドメーヌ・トロ・ボー

今回私がご紹介させて頂くのは、フランスのブルゴーニュ地方のショレイ・レ・ボーヌに本拠地を置く、ドメーヌ・トロ・ボーという造り手です。

(※ワイナリーの責任者を務めるナタリー、ジャン・ポール、オリヴィエ・トロ)

私が初めてこの造り手のワインと出会ったのは10年近く前、私が新卒で入社した、ワイン輸入会社で取り扱っていたことがきっかけでした。
その時の印象は豊かな果実味があり、柔らかく素朴な優しさがあるという印象を持っていてとてもお気に入りの生産者だったのですが、別の会社に転職してしまってからしばらくは、トロ・ボーのワインを口にする機会はありませんでした。

その後、ブルゴーニュ・ワイン好きの夫と出会ってから飲む機会があり、久しぶりに口にしたトロ・ボーのワインは10年前に比べて、とても洗練された上品な印象になっていました。
しかし、それでいて優しく柔らかな果実味はそのままで、学生時代の親友に久しぶりに会ったかのような懐かしい安心感と高揚感をありありと感じ、再び出会ったトロ・ボーのワインに私はすっかり心を奪われてしまったのです。

(※飲食店で開けたドメーヌ・トロ・ボーのワイン)

トロ家の歴史はとても長く、なんと1880年代後半にフランソワ・トロがショレイ・レ・ボーヌにブドウ畑を作り始めた頃から続いています。
息子のアレクサンドル・トロは、父の跡を継ぎ、オーレリー・ボーと結婚しました。
トロ家とボー家の性を掛け合わせて生まれたワイナリー名が、ドメーヌ・トロ・ボーという訳です。

(※ドメーヌ・トロ・ボーのロゴ)

1921年、トロ・ボーはいち早くドメーヌとしてワインを瓶詰めし、その後すぐにアメリカへの輸出を開始しました。ブルゴーニュでドメーヌ元詰めというのは当時にしては珍しい事でした。
現在は、従兄弟のナタリー、ジャン・ポール、オリヴィエ・トロが責任者を務めています。

(※醸造室でのナタリー、ジャン・ポール、オリヴィエ・トロ)

トロ・ボーは様々な村にブドウ畑を持ち、幅広いラインナップのワインを造っています。

豊かな果実味があり、丸みを帯びまろやかで、滋味深い味わい。
真剣に向き合いたいような複雑味のある奥深いワインでありつつ、どこか懐かしいような不思議な親しみやすさがあります。

かつては現在より新樽を多く使用していましたが、近年では新樽の使用率を控え、樽の香りよりもブドウ本来のピュアな果実味が際立つ上品なスタイルになり、洗練さに磨きがかかったように思えます。

(※圧搾して果汁を搾り取った後の黒ブドウの皮と赤ワイン)

私がこのワイナリーを伝えたい理由

ドメーヌ・トロ・ボーがワインを造るフランスのブルゴーニュ地方といえば、多くのワイン愛好家達を虜にする高品質なワインを数多く産み出している、世界でも選ばれた特別な銘醸地です。
白ワインのほとんどは芳醇で豊かな果実味を持つ白ブドウのシャルドネ種が用いられ、赤ワインには果皮の薄く芳香性のある高貴な黒ブドウのピノ・ノワール種が用いられます。
そしてこの「ピノ・ノワール種」というブドウを表した言葉に面白いものがあります。

(※収穫されたばかりの白ブドウのシャルドネ種と黒ブドウのピノ・ノワール種)

それはかつて20世紀後半にカリフォルニアで活躍した、ロシア出身の伝説的醸造家のアンドレ・チェリチェフが残した『God made cabernet sauvignon whereas the devil made pinot noir.
(神がカベルネ・ソーヴィニヨンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った)』という言葉です。
私はその言葉を聞いた時、ピノ・ノワール種を表すのにまさにぴったりな、巧みで的確な表現だと感じました。

様々な土壌や風土に適応し世界中で栽培されるカベルネ・ソーヴィニョン種とは違って、ピノ・ノワール種は栽培のとても難しい、気まぐれで繊細なブドウでありつつ、多くの醸造家やワイン愛好家達の心を強く惹きつけて止まない魅惑のブドウ品種です。

(※ドメーヌ・トロ・ボーの所有畑のピノ・ノワール種)

ブルゴーニュ地方の中でも最高の栽培区画が連なるコート・ドール地区では、この気難しいピノ・ノワール種100%のブドウを使用している為、村や畑、天候、生産者などによって味わいの差が顕著にみられます。

また、ブルゴーニュ地方のワインの価格は年々上昇しており、それにより地価も併せて上昇している為、ブルゴーニュ地方のワインの価格は高騰する一方です。

美味しいブルゴーニュ地方のワインに出会った時はの喜びは何物にも変えがたい貴重な感動体験となります。しかしその一方で、高価な憧れのワインを購入して飲んだとしても、必ずしも美味しいとは限りません。

ブルゴーニュ地方のワインを口にする時は、今回はどんな表情を見られるのか期待と緊張にに胸が高まる一方で、手の届かない何かを追いかけているような、ちょっぴり切ない気持ちになります。

しかし、このドメーヌ・トロ・ボーのワインは収穫年や畑の位置する地域ごとの差はあれど、いつ飲んでもどこかほっとさせてくれるような、包み込むような優しさのあるワインなのです。

(※ドメーヌ・トロ・ボーの所有するピノ・ノワール種の畑)

他のブルゴーニュ地方の一流有名生産者に比べると、とびきり華やかなワインという訳ではないのですが、飾らないピュアで洗練された味わいになっており、実直で素直な安心するワインです。

(※ドメーヌ・トロ・ボーを代表する赤ワイン)

現在は6代目のジャン・ポール・トロという男性が醸造しているのですが、私は従姉妹のナタリーが醸造しているものだと長年思い込んでいました。

ナタリーが度々来日して講演をしていたのもありますが、ドメーヌ・トロ・ボーのワインに女性的な優しさを感じていたので、勝手に彼女の親しみやすく気取らない、優しいお人柄をワインの味わいに重ねていたのだと思います。

(※醸造室でワインのテイスティングを行うナタリー)

「ドメーヌ・トロ・ボーの記事を執筆していてあなたの事を紹介したいから写真を送って欲しい」とナタリーに頼んだところ、8日前に撮影したばかりだという最新の写真を快く送ってくれました!とっても気さくでフレンドリーな方です。

(※ブルゴーニュのシャブリ地方で行われたお祭りに参加したナタリー)

おまけにお気に入りの写真を1枚頂きました。
こちらは毎年冬に行われる、ぶどうの守護聖人サンヴァンサン(Saint Vincent)に感謝する伝統的なお祭りでの写真のようです。楽しそうですね♪

『私たちはワインを造る事よりも、ブドウを造る事により注力している』と話すナタリー。
丁寧な畑仕事の様子が窺えます。

(※ドメーヌ・トロ・ボーの収穫の様子)

トロ・ボーのワインは、気兼ねなく過ごせる友人や、久しぶりに帰っても温かく迎えてくれる家族のような、そんなフレンドリーな優しさと安心感をくれるワインです。

どんな感動する他のブルゴーニュ・ワインに出会っても、何度もドメーヌ・トロ・ボーのワインが恋しくなってしまいます。

フランス・ブルゴーニュってどんなところ?

フランスのブルゴーニュ地方がワインにおいて、いかに特別な地なのかは少し伝わったかと思いますが、ブルゴーニュはワイン以外ではどのような地域性があるのでしょうか。

まずブルゴーニュ地方の玄関口として知られているのは、かつてブルゴーニュ公国の首都であったディジョンという、歴史に彩られた活気あふれる街です。パリなどの他の都市から交通機関でブルゴーニュ地方を訪れる際は、まずこのディジョンにアクセスする事になります。
現在は“芸術と歴史の町”と呼ばれ、ブルゴーニュ公国時代の文化遺産や美食を誇る街となっています。

ディジョンの中心部は比較的コンパクトなので、ふらりと街歩きをするのにぴったりです。ノートルダム教会を中心に歴史的な建造物が立ち並び、この街の魅力が凝縮されています。

(※ノートルダム教会)

また、ディジョンは18世紀後半から伝統的にマスタードが造られている事でも有名です。
様々なフレーヴァーの可愛らしいマスタードがセットで売られていたりするので、ブルゴーニュ地方へ訪れた際にはお土産におすすめです!

(※ブルゴーニュで売られているカラフルなマスタード)

続いて、ワイン産地の連なるコート・ドール地区の中心都市となるボーヌ。
中世を想わせる石畳の通りや歴史的建造物が点在する、とても絵になる美しい街です。

(※ボーヌの街並み)

その街の中心にあるのは15世紀に建てられた町の病院、オスピス・ド・ボーヌ。

オスピス・ド・ボーヌは街の歴史の象徴でもあり、ゴシック様式の建築と鮮やかなモザイク模様の瓦屋根が特徴です。
美しい外観をもつこの施設は、20世紀の半ばまで、恵まれない貧しい人々に医療サービスを施してきました。その間、近隣の貴族などからぶどう畑が寄進され、その畑から生まれたワインの売り上げがオスピス・ド・ボーヌの運営を支えていました。

(※オスピス・ド・ボーヌ)

そして、ブルゴーニュといえばワインにぴったりの郷土料理の数々も見逃せません。
ブドウの葉を食べて育つエスカルゴ(食用カタツムリ)をハーブやニンニク、バターと共に殻に詰めてグリルしたエスカルゴ・ア・ラ・ブルギニョン(Escargots à la Bourguignonne )や、牛肉の肩、肩ロースなどを、たっぷり赤ワインで煮込んだブッフ・ブルギニヨン(Boefu of Bourguignon)等が特に有名です!

(※エスカルゴ・ア・ラ・ブルギニョン Escargots à la Bourguignonne )

(※ブッフ・ブルギニヨン Boefu of Bourguignon)

ドメーヌ・トロ・ボーを知るならこのワイン

ドメーヌ・トロ・ボー ショレイ・レ・ボーヌ 2017

トロ・ボーが拠点としている村・ショレイ・レ・ボーヌのブドウを使ったこのワインは
まさにトロ・ボーの名刺代わり!
なだらかな斜面であるため通常は大人しい印象であるこの村のワインですが、
トロ・ボーの手にかかると上質で充実した味わいとなります。
2017年のブドウは糖度が高く凝縮していて、収量も安定して多かったといいます。
例年に比べ恵まれた天候で特に柔らかくジューシーに仕上がっており、いつ飲んでもとても美味しいワインです。

希望小売価格: 5,300円(税込 5,830円)
タイプ:エレガントな赤ワイン
産地:フランス・ブルゴーニュ
ブドウ品種:ピノ・ノワール100%

最後に

コロナ禍でまだまだ自粛ムードの続く日々ですが、国内にいてもワインは私たちに楽しい旅をさせてくれます。ワインの背景にある文化や歴史、造り手を知る事で、少しでも皆様のワインライフが楽しいものになる事を祈っています!

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