リストのないワイン屋さんの「今、届けたい」ワインストーリー Episode. 3 飲む者の固定観念を覆すアメリカのナチュラルワイン生産者、ブロック・セラーズ

◆執筆者紹介

江畠 由佳梨 / Yukari EBATA

(社)日本ソムリエ協会認定
ソムリエ

1988年名古屋生まれ名古屋育ち。
神戸松蔭女子大学 英米文学科卒業後、東京のワイン輸入会社に勤務。

フランス語とワインを学ぶ為、ボルドーに約1年間留学。
2018年、プルール株式会社設立。

現在はワインのコーディネート販売、イベントの企画、セミナー講師として活動中。

趣味は各国の料理を作る事、ワイナリー訪問、欧州サッカー観戦。

飲む者の固定観念を覆すアメリカのナチュラルワイン生産者、ブロック・セラーズ

今回私がご紹介させて頂くのは、カリフォルニア州バークレーにある都市型ワイナリー・ブロック・セラーズです。

(※当主のクリス・ブロックウェイ)

このブロック・セラーズは私の中での固定概念を大きく変えた造り手です。
私が初めてこの造り手のワインと出会ったのは前職でとあるワインの輸入会社に転職したての頃です。私はそれまで『カリフォルニアワイン』や『ナチュラルワイン』をあまり好んで飲む事がありませんでした。正直に言ってしまうと、苦手な存在でした。

ブロック・セラーズのワインに出会うまでは『カリフォルニアワイン』は濃厚で重ためのものが多い印象でした。その前に勤めていた別のワインの輸入会社ではクラシックなフランスワインが中心だったこともあり、私は酸とミネラルがあってエレガントなワインばかりを好んで飲んでいました。私はそこまでお酒が強くないので、大勢で集まる時に食事と合わせて1杯飲むにはいいけど、自宅で買って1人や2人で飲むには飲み疲れてしまうような気がしていました。

『ナチュラルワイン』はそもそも、その言葉自体が嫌いでした。
ナチュラルワインとは、極力自然に寄り添ったワインを指すのですが、意味は広義で、ブドウ栽培が減農薬で行われているもの、ビオロジックやビオディナミという特殊な有機農法で行われているもの、ワイン醸造の際に乾燥酵母を使わずに自然酵母のみで発酵させたもの、濾過をしないもの、酸化防止のための亜硫酸を加えていないものなど、本当に様々です。

どの生産者もブドウのみからワインを造っていて、必要に応じて濾過をしたり雑菌が発生しないように亜硫酸を入れたり、入れなかったりしています。
“ナチュラルでないワインなんてあるの?極端に亜硫酸を抑えた衛生的でないワインや、美味しくない工業的なワインのコマーシャルにオーガニックワイン等という付加価値をつけようとしているんじゃないか” そう懐疑的に感じていたのです。

ところが、私はブロック・セラーズの造る、 “ヴァインスター・ジンファンデル・ソノマ 2013年” という赤ワインを飲んだ時に衝撃を受けたのです。
グラスに注いだワインの色調からして淡く、私が今まで知っていたアメリカワインとは別物でした。過度な甘さや重たさは全くなく、どこまでも優しく染み渡るようで、渋みは穏やかなのに奥底から何か湧き上がるような力強いエネルギーを感じるワインでした。

ワインを飲んでいると、国やスタイルに関わらず、急にびびっときてしまうワインに出会う事があります。
ブロック・セラーズがきっかけで、私はカリフォルニアワインやナチュラルワインの多様さを知り、今までの固定概念に捕らわれる事なくワインと向き合う事が出来るようになったと感じています。

(※営業時代に顧客先のワインショップにてブロックセラーズの試飲イベントを開催させていただいた時のもの)

ブロック・セラーズのオーナーで醸造家のクリス・ブロックウェイはネブラスカの出身でオハマで生まれ育ちワインに興味を持つようになり、カリフォルニアに移り住むことを夢見ていました。
ワイナリーのある郊外ではなく、あえて都会にワイナリーを構えたのはワインを造るうえで重要な様々な情報を的確に入手できる環境である「アーバン・ワイナリー」こそが自分の求めていたスタイルだと考えたからです。

工場や倉庫が立ち並ぶバークレーの一角に構えた醸造所で、クリスは2002年にたった1樽の赤ワインから、その歴史をスタートさせました。
ブロック・セラーズではブドウの生育に重要な固有環境や土壌の性質をワインに活かすことを最大の目標にしています。

また、クリスはブドウが持つ本来の素質や特性を発揮する為に、有機栽培による持続可能な農法が大切だと考えています。自社畑は所有せず、信頼の置けるいくつかのブドウ農園と契約し、収穫されたばかりのブドウをクリス自らが何時間もかけてトラックで醸造所に運ぶそうです。

(※サン・フランシスコに位置する醸造所)

ラベル・アーティストのマルタ

オシャレでアーティスティックなラベルも、ブロック・セラーズの魅力のうちのひとつです。

ブロック・セラーズのラベルは全てクリスの友人のマルタ・エリーゼ・ヨハンセンという女性が手がけているそうです。

(※壁画を描くマルタ)

味を知らなくても、思わず手に取りたくなってしまうような可愛いラベルアートです。
シンプルだけど味があってどこか優しい、クリスの造るワインと共通するものを感じます。

(※ブロック・セラーズのワインの数々)

私がこのワイナリーを伝えたい理由

カリフォルニアには今、ブロック・セラーズのように従来のインパクトのあるワインのスタイルとはまた違った、ザ・ニュー・カリフォルニアという新しい世代による、新しいジャンルが確立されつつあります。ザ・ニュー・カリフォルニアとは「土地固有の風土を表す本来のエレガントなカリフォルニア・ワインを造ろう」というムーヴメントです。“ニュー”カリフォルニアと言われつつも、それは原点回帰をした本来のカリフォルニアの姿であるとも言われています。

長年愛されてきている濃厚でインパクトあるスタイルのカリフォルニアワインを決して否定したい訳ではありません。こんなに繊細なワインについて想いを馳せていても、やはり肌寒く冷える夜や、こってりした料理や分厚いステーキを食べる機会がある時など、シーンに応じて濃厚な赤ワインが欲しくなります。

ただ、新しい選択肢として、この肩肘をはらずどんな時でも飲める優しいワインは私たちをじんわりと癒し、あらゆる固定観念を払拭し、多様性のある生き方を教授してくれているかのようです。

新しいムーヴメントは、一時のブームに留まらず、もはやひとつのスタイルとして定着しつつあるようにも思えます。このザ・ニュー・カリフォルニアを牽引するブロック・セラーズのクリスは本当にカリスマ性を備えていて、これからも私たちに沢山の新しい可能性をもたらしてくれるのではないか、と明るい未来を感じてしまいます。

(※ブロック・セラーズがリリースした、高品質なワインをお手軽に楽しめる缶ワイン)

(※こちらは私の顧客へお届けの商品。リピートの非常に多い、エントリー・クラスのラブ・シリーズです。)

アメリカのカリフォルニア州バークレーってどんなところ?

バークレーはアメリカの西海岸にあるサンフランシスコ湾の対岸に位置しており、カリフォルニア大学をはじめとした複数のキャンパスがあり、学園都市として活気のある街です。

The University of California, Berkeley, often referred to as Cal is a public research university located in Berkeley, California.

アジア系の留学生も多く、アメリカ国内において最も差別の少ない暮らしやすいエリアとも言われています。
1960年代にブームを巻き起こしたヒッピー文化発祥の地でもあり、現在は全米で政治的・社会的に最も進歩的な都市として知られている、先進的な街です。

Hippies Dancing and Playing Guitar. Age effects added.

オーガニックフードに関心の高い人も多く、街の至るところにオーガニックに配慮したレストランがあります。

Vegetarian sandwich made with sourdough bread, avocado creme, cucumber, radish and remoulade sauce with bowl of sprouts served on a table.
ブロック・セラーズを知るならこのワイン

ヴァインスター・ジンファンデル・ソノマ 2018

低い糖度と適度な酸度の時点で収穫、ジンファンデル特有の光沢のあるルビー色が特徴。
木苺やスパイスのアロマ、口に含むとフレッシュな酸味と黒果実系のかすかなニュアンスを感じながらも、イキイキとした印象。
繊細で、ナチュラルな果実味が最大の魅力です。
従来の土っぽくボリューミーなジンファンデル種の印象を覆す、エレガントなワイン。

希望小売価格: 5,300円(税込 5,830円)
タイプ:優しく染み渡るナチュラル赤ワイン
産地:アメリカ・カリフォルニア州バークレー
ブドウ品種:ジンファンデル種 100%

最後に

固定観念がひとつ崩れると、するすると新しい思考が流れ込んできます。
新しい世界が増える事で、もともとあった世界を失う訳ではありません。
様々な可能性に目を向けて、幅広くワインの選択を楽しみましょう!

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