淡い水色のからだ、くりくりとした瞳、全体に丸くて愛らしいフォルム。
そう、「ムーミン」。
ムーミンパパとママ、スナフキン、ミイ。ムーミンの彼女、フローレン。キュートなだけじゃなく、(特に漫画版の)毒があってかなりクセ強なキャラクターたちは世界中で愛されています。
では、その作者のことを知っていますか?
男の人? 女の人? 名前は?
えっ、ムーミンに原作なんてあるのかって?
こんにちは!〒”〒”です。
「デデの映画沼」第二回は映画『TOVE』(トーベ)。
ムーミンを生み出した、トーベ・ヤンソンの人生を描いた伝記映画をご紹介します。
(映画のフライヤー。これほんと好き。女優さんのスカートの揺れ方や指先やつま先まで完璧。極め付けは一緒に踊るムーミンのシルエット。神)
〒”〒”(デデ)
ギャルイラストレーター/YouTuber。8月12日生まれ。
イラストレーター・漫画家としての活動と並行し、ギャルスタイルとサイバーファッションを融合させた”サイバーギャル”としても活動している。YouTubeではメイクチュートリアル他、自身で施すロングギャルネイルが人気。元体重約70kgの隠キャ喪女。世間のギャルに対する「汚い」や「マナーが悪そう」などのマイナスイメージを払拭することが目標。ギャル界のHIKAKINを目指している。※文字に書く場合は、ギャル文字の『〒″〒″』表記が正しい。
第一回は私の大好きな沼映画「マジカル・ガール」をご紹介させていただきましたが、今回は、現在上映中の映画から気になった作品を紹介することになりました!
(さて何を観ようか……)
10月公開の上映作品一覧をスクロールすると、度肝を抜かれる作品が目に止まりました。
ん…?「TOVE」…?トーベって……あのトーベ?!?!
ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンだ!
まさか、彼女が主役の映画を観られる日が来るなんて!!!!!
私がハマった最初の「沼」
ムーミンは…ムーミンは私の青春でした…。
ムーミン谷の住人にはなれませんでしたが、間違いなく沼の民ではありました。
分かりますか?この世の全ては私の敵ですが、
ムーミンとバファリンだけは優しさでできてるんですよ!!
私がムーミンに出会ったのは、アニメ平成版でした。完璧に守られた世界観とスナフキンの初恋泥棒っぷりにすっかり虜になり、アニメ昭和版へ。
昭和版ではムーミンの破天荒っぷり、スナフキンのもうすぐ還暦か?と思わせるような渋さとスキンヘッドに驚きました。
そうなると、他にはどんなムーミンが待っているんだろう?と、次は原作が気になっちゃうのがヲタクですよね。
当時まだクソガキだった私はお金がなく、中野ブロードウェイの古本屋さんでマンガ版一巻を一冊だけ買ったのを覚えてます。海外のマンガを買ったのはムーミンが初めて。なにもかも衝撃でした。あ、まず左から読むんだ!と。
漫画版のトゲのあるトーベ節にノックアウトされ、ムーミンに頭を支配された私は、スマホで原作者トーベ・ヤンソンのことも調べまくりました。
ですが、出てくるのは作品としての「ムーミン」の事ばかりで、トーベについてはほとんど手がかりなし。
トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson 1914-2001)
やっとの思いで手に入れた情報は、余生をトゥーリッキー(ムーミンシリーズに彼女をモデルにしたほぼ同名のキャラクターが出てきます…エッモ…)という同性のパートナーと、海の見える小さな小屋で過ごしたといった、フワッとしたもので、それ以前をどう生きたとか、写真なんかもほぼなくて…。
端っこの情報だけでも超エモくてめっちゃ気になるのに!どうしてそれ以上出てこないんだろう!とジタバタした思い出があります。
そんな経験をした私がですよ。
映画「TOVE」に偶然辿り着いたわけです。
やっぱ帰るべき沼ってあるよね……!!!!!
ニッコニコで上映館を調べたら、なんと東京は渋谷・新宿・立川しかなく泣きました。
この記事が謎にバズって上映館が増えればいいのに。
トーベの想像を裏切る不良っぷり
さあ、泣きながら到着した、新宿武蔵野館。張り切っていきます!
(館内になんと「トーベ展」なるものがあった!特別感あってラッキー🤞🏾)
しかし今回はなかなか大変です。
なぜなら、第一回でレビューした『マジカルガール』はアマプラでいくらでも見返すことができたのですが、今回は一回きりの上映でレビューを書かなきゃいけませんからね。文章ど素人ガチ勢の私は少しの描写も逃すまいとメモ帳を握りしめてのぞみました。上映中、館内が真っ暗で自分の書いた文字が読めない(当然)!などのハプニングに戸惑いつつも、無事鑑賞!
第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。著名な彫刻家の父と挿絵画家の母のもとに生まれたトーベは、才能を認められない”売れない画家”だった。保守的な美術界は彼女には息苦しく、廃墟のようなアトリエで煙草を吸いながら絵を描き、芸術家仲間とのパーティーに明け暮れる。
厳格な父との衝突、一晩で恋に落ちたアトス、そして同性の恋人ヴィヴィカとの情熱的な交わりを通して、揺れ動き、時に傷つくトーベ。そのなかで日銭稼ぎのために書き始めた子供向け小説が「ムーミン」の原型となる。愛らしいキャラクターに彼女の自由への渇望を込めた「ムーミン」は、やがてトーベをスターダムに押し上げていく――。
というのがあらすじなのですが……
この映画、ムーミンの創作秘話的なものを期待して観に行かない方がいいです。監督も、「トーベの生きざまを撮るのに夢中になってます」といった感じが満載です。そのくらい、ひとりの女性としてものすごい。
私はこの映画を観る前、トーベは人や物に執着することのない、どこか飄々とした女性なのではないか…と想像していました。
ですが、彼女はとても人を愛することに熱く、また傲慢でもありました。想像していたよりずっと人間らしくて、動物的で、眩しくて、激しく、目まぐるしい。まるで不良少女がそのまま大人になったよう。
トーベさん、想像以上にワイルド。(ついでに言うと、不倫もしてる)
原作特有の毒を知っている方なら受け入れられると思うのですが、
ムーミン? 子供向けのやさしいアニメだよね! ぬいぐるみ持ってる~!
といったイメージのままこの映画を観ると、結構驚かれるのではないでしょうか…。
ということで、映画『TOVE』でぜひ見て欲しい不良っぷりを3つご紹介します!
① 酒と煙草やりすぎ
トーベさんは、ヘビースモーカーです。
右手でムーミンの原稿を、左手でタバコを吸っているシーンが何度も出てきます。
あと、酒もドギツそうなの平気で飲みます。ガンガン飲みます。
あのさあ……トーベさんさあ。
マジで好き。
それにしてもこれ、在宅ワークあるあるとも言えるんです。
私の同業者で、仕事中は常にストロングゼロをキメる子や、お菓子を食べる子がいるんですよね。
(かく言う私もビールを飲みながらこの記事を書いてます)。
だらしなく聞こえると思いますが、私たちにとって仕事しながら片手で摂取できるものは、「エンジン」なんです。これがないと捗らない。
※喫煙シーンがたくさん出ると「ケムール」的にもポイント高いですね!ラッキー。
② ヴィヴィカが自由すぎる
この映画では、今まであまりスポットライトを当てられていなかった、30〜40代までのトーベをメインに描いています。
その物語の中心になるのは、とある人物との激しい恋。
ヴィヴィカ・バンドラー。
このひとりの女性が、トーベの人生において決定的なスパイスになります。(当時、フィンランドでは同性愛は犯罪とされていました)ふたりの秘密の恋が「ムーミン」にも影響をあたえていくのです。
このヴィヴィカがまた良い女なんですね…。良い女は声の出し方が違います…。
登場シーン、彼女が一言発した瞬間「ああ、この人にトーベは惹かれていくんだな」とすぐに分かりました。この声はぜひ劇場で聞いてほしいと思います(どことなく『キャロル』のケイト・ブランシェットに似てる)。
ただ一つ問題がありまして。
ヴィヴィカはね、まず既婚者なんですよ。
そして誰とでも寝るようなヤツなんです。愛人はトーベだけじゃなくて…。
いえ、そこはもうこの際いいんです。この映画、不倫ばっかりなので!
ただヴィヴィカのその性質の”描き方”にモヤっとするというか。
すごーーーく個人的な意見になってしまいますが、
その”ふしだらさすら魅力の一つ”みたいに描かれているのが、最高に解せぬポイントなのです。
ヴィヴィカの本性を知って怒るトーベにヴィヴィカが、
「自由の心はどうしたの?」と返すシーンがあるのですが、正直映画館で暴れるところでしたよ。
その口でトーベに自由を語るなや…マジで…
それでもトーベはヴィヴィカが良かったんだよなー。
というわけで私自身ヴィヴィカは少し苦手ですが、
2人のやりとりは本当に大好きです。
どれも宝石のようなシーンばかりで、映像的にもとても綺麗で。
……あ、トーベに愛されたもう一人の話聞きますか?
アトス・ヴィルタネン。スナフキンのモデルさんです。
スナフキン、皆さんお好きですよね。私もすっごい大好きです!
多くを語らず、語れば深く…他にないキャラクターですよね。
でもアトスに関しては正直、好きにも嫌いにもなれませんでした…。
あの…薄い…。
印象が薄すぎる…。
本当にこの男の人がスナフキンのモデルなの…?
スナフキンは皆さん知っての通り、数々の名言が存在しますが、
それも元はアトスのポエマー気質から来ていると聞いていました。
ですが正直この映画では「そ、そうなのか?」といった感じで、
もしかしたら作品中、スナフキンに通ずる何か深いセリフがあった…のかもしれないのですが、
こうして感想を書いていても一つも思い浮かばないのです……。
ただ、描いているうちにキャラクターに作者の理想が強く入り込んでいって、だんだんモデルとかけ離れていくのはよくある話なので、
「スナフキン」とはあくまでトーベの中のアトスであって、実際はこのぐらいの人だったのかなあ…と思う事にしました。
あ、ちなみにこの人も既婚者です。あとから別れてましたが。
③ 生き方を体現するダンスシーン
そして、私が一番魅力的に感じたのは、トーベのダンスシーンです。
トーベさん、映画のなかでたびたび踊ります。
それはミュージカル映画のようなゴキゲンなダンスではありません。踊りを知らない私から見たら、はっきり言ってめちゃくちゃです。身体が動くままに身体を動かしているような。
どちらが先か分かりません。
「踊り狂う」とはまさにこの事だと思います。でも、不思議な迫力があって圧倒されました。喜びだったり、悲しかったり、何かに取り憑かれているような激しさがあふれています。
特にオープニングシーンのダンスは必見です。まるで身体が勝手に動いているよう。トーベは「そのままの人」。誰かのまねではない、彼女しか踊れないダンスは、彼女の生き方そのものを体現しているのだと、その後の展開で分かっていきます。
このシーンはオープニングにして、間違いなくベストシーン…。
私が監督なら、このシーンが撮れた瞬間、ガッツポーズしてる。
「ムーミン」という作品は、そのまま「トーベ」だった
まさに、自分の踊り方を貫いたトーベ。その生き方は「ムーミン」の不思議な世界観にリンクしていきます。ああ、ムーミンって、トーベっていう人間の、そのまんまの部分なんだなって。
「ムーミン谷」は、人間の性格のすべてを凝縮したような集落だと思います。愛情からひねくれた感情まで、すべて含めて。
(私は前から「ムーミン谷に住みたい!」って言う人に会うと、東京に住んでいる人が「田舎に住んでみたいなぁ」って言うのと同じものを感じてたんですが、「TOVE」を観て確信に変わりました)
谷の住人たちは穏やかで嫌味がなくて、理想のスローライフを過ごせるメルヘンな場所のように思われているけれど、実際は臆病なやつもいれば、いやしいやつも、正直見ていてイライラするようなやつもいる。
でもどのキャラクターも、良くも悪くも「あー、いるいる、こんな人…」という。
アニメ平成版では聖母のように描かれたあのムーミンママでさえも、漫画の一巻では息子であるムーミンの黄金に輝いた尻尾を自慢するため、一緒に町中を歩いて回るシーンがありました。(それを尻目にスナフキンは、「マヌケなやつらめ!」とか言ってたと思う)
見栄を張ってしまう人間の愚かしさをよく理解していたからこそ、あのような描写ができるんだと思いました。
そこの正直さが、「ムーミン」の魅力なのだと。トーベの愛も皮肉もそのまま込められているから、私はムーミンが好きなんです。
映画「TOVE」を観たあとは、家族と恋と芸術にジタバタしながら生きたトーベの人生を思い浮かべながら「ムーミン」をもう一度読み返してほしいです。
ほら、この映画に出てくる、不良少女が描きそうな作品でしょ?