村田らむの”裏・歳時記2023”【1月】~年明けの成田クエスト~

あけましておめでとうございます!
ケムールの超穴場トラベル・ガイド連載「裏・歳時記」も2年目。
メジャ~&激込み~&つまんな~い観光名所紹介とは一線を画す、日本の裏側を覗く旅。「ホームレス」や「樹海」取材のパイオニアである村田らむさんの案内で巡りましょう。

村田らむ
一九七二年生まれ。愛知県名古屋市出身。ライター、漫画家、イラストレーター、カメラマン。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教などをテーマにした体験潜入取材を得意とし、中でも青木ヶ原樹海への取材は百回ほどにのぼる。著作に『樹海考』(晶文社)、『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)、『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)などがある。

さて、2023年初めての旅はどこに??

今年もカルトな初詣にGO

 早いものでこの連載もはじまって丸一年になる。
 2022年1月の連載初回では、カルト新聞の藤倉善郎さんと“カルト初詣”に行った。


くわしくは▶村田らむの”裏・歳時記2022” 【1月】癖のある初詣

 そして、また
「今年も1月1日から、カルトな施設に初詣に行きましょう」
 と誘われた。
 嫁やら子供やらがいる身なら“即断り”な誘いだが、幸いどちらもいないので快くOKした。

やや日刊カルト新聞・藤倉善郎さん

 元旦早朝に亀有駅で集合、そのまま成田国際空港に自動車で移動する。
「正月から成田国際空港から海外に行こう!!」
 というバブリーな企画ではもちろんない。
 成田国際空港が目的地だ。
 正確には成田国際空港の滑走路のすぐそばにある「東峰(とうほう)神社」だ。

新年はサクッと「三里塚」へ

 実はここはずっと前から行こう行こうと思っていた神社なのだ。
 この神社は「三里塚闘争」とか「成田闘争」と呼ばれる、成田国際空港の建設に反対する運動が活発な場所に建っている。

 三里塚闘争が始まったのは1966年ですでに50年以上前だ。空港の建設と土地収用に反対する運動が繰り広げられてきた。
 対立はかなり激しく、機動隊員3名が襲撃を受けて殺害されるなど死者も多数出ている。
 だから神社なので、もちろん普通の神社ではない。

「神社に向かおうとすると警察に厳しく職務質問される」

「監視している運動家がいて問い詰められる」

 などと噂を聞いていたから、ワクワクしながら神社に向かった。

 神社へ行く途中で見かけた農地の前には

『第3滑走路粉砕!』

『強制収容実力阻止』

『NO FARM,NO LIFE.農地死守』

 などなど、剣呑な看板や旗が立っていた。

 神社入り口に到着したが、道路の周囲は全部白い鉄の塀がはりめぐらされている。神社までの道は、白い塀しか見えず、まるで豪雪地帯の雪の壁に挟まれた道路を走っているような気分になってくる。かなり異様だ。
 塀の狭間を進んで行くと、意外なことに何台も車が停まっていた。

「初詣に来てるんですかね?」

「初詣に? わざわざこんな場所に? そんなのどんな人ですか?(笑)」

 などと自らの行動を全否定する会話をしながら進んでいくと、道のどん詰まりは広場になっていた。
 神社自体は小さく、比較的新しい石の鳥居があり、その奥に祠があるだけだ。コンクリ製の石畳には『2004.4.15』と刻印してあり、祠の前には小さい賽銭箱が置かれていた。
 手水の場所はあったが機能していなかった。
 神社を出た場所には古井戸のようなものがあったが、鉄網で囲われていた。

 神社の周りには、10人くらいの人がいた。
「貴様、誰だ!!」
 などと怒鳴られたかったのだが、警察にも運動家にも吠えられなかった。
 家族連れや、友達同士の、いたって和やかで穏やかな雰囲気だった。
 広場の真ん中には柴犬が肛門丸出しで座っていて、みんながキャッキャ言いながら写真を撮っていた。

 普段は新興宗教に突撃して怒り心頭の信者の写真を撮っている藤倉さんも、

「お~かわいい、かわいい」

 とか言いながら柴犬を写しはじめた。

「……なんか違う」

 怒鳴り声、ピリピリした空気、そんな修羅場を期待していたのに、想像と違いすぎて思わず苦悶の表情になってしまった。
 しかし、みんななんでわざわざ正月から、こんな神社に来てるんだろう? 

「ここは飛行機を撮りに来る人が多いよ」

 ダウンジャケットを来た中年の男性に教えられた。
 たしかにすぐ横が成田国際空港なんだから、飛行機を見るには絶好の場所だろう。ただ、いい大人がわざわざ飛行機見たって何とも思わないだろうに。立ち去ろうとも思うが、その男性が、

「あと5分で来るよ」

 と言うのでとりあえず待つことにした。
 子供が「まだかな? まだかな?」とワクワクしている。飛行機でワクワクするなんて、こいつまだガキだな……と思っていると、キーンというジェット音が聞こえてくる。
 その刹那、ぐおおおおおおっと本当に目の前を飛行機が通り過ぎていった。巨大感が半端ない。

「すげー!! すっげー!!」

 と思わず声が出た。めっちゃワクワクした。急に満足感で満たされた!!
 飛行機見るの、オススメだから、皆さんも絶対参ったほうが良いよ。

 その後、2件のカルトな宗教施設に行ったのだが、今回の記事では取り上げるのは止めておく。※編集部注:さすがにヤバすぎる場所でした

韓国へ向かうトム・ハンクス

 初詣をした6日後に、韓国に行くことになった。海外旅行は2020年2月以来だ。
 前回も韓国で、ちょうど韓国でパンデミックが発生した翌日に渡航した。ずっとピリピリした雰囲気だった。その後本格的なコロナ禍になってしまい、海外にも行かなかった。

 ちなみに最後に韓国旅行をした時には西荻窪に住んでいたのだが、その後すぐに東村山に引っ越した。東村山からの海外旅行は初めてだった。少し、空港までの距離は広がった。つまり行くのに時間がかかる。
 はっ、としてスマートフォンで、乗換案内を調べる。始発で6時台後半から、7時過ぎくらい。
 飛行機が早朝便だったのでギリギリだ。電車を一本逃したり、遅れたりしたら、搭乗できなくなってしまうかもしれない。

「しかたない、前乗りするかあ……」

 と思ってホテルを探し始めたが、

「待てよ……。空港って閉まらないはずだから、適当に中にいられるんじゃない?

 と思い直す。

 スティーブン・スピルバーグ監督の映画『ターミナル』はクラコウジア人のトム・ハンクス演じるビクター・ナボルスキーがジョン・F・ケネディ国際空港の国際線ロビーに居続ける話しだった。一日くらいいけるだろ? と思い、出発の前日の夜に再び成田空港に向かった。

あなたが知らない夜の空港

 22時過ぎの空港にはまだ人がいたが、潮が引くようにどんどん静かになっていった。
 とりあえず、ウロウロ歩いてみる。
 地下1階から上層に登っていく。
 3階は搭乗手続きをする場所だ。人はほとんど残っておらず、ロボット掃除機が自分の仕事をこなしている。

 「空港」をゆっくり見たのは初めてだった。いつか漫画やルポの資料に使えるかもしれない、と思いパシャパシャと写真を撮る。

 4階は出発前に立ち寄るレストランなどが並ぶエリアだ。店舗の大半は営業していなかった。
 ワンチャン、マクドナルドくらいはやってるかと思ったがしっかりと閉まっていた。晩飯は空港で食べようと思っていたので、少しガッカリだった。
 営業していたのはセブンイレブンだけだった。取りあえず飯は食えるが、ちょっと味気ない。

 アナウンスが流れる。
「空港内で宿泊されるお客様は、地下1階、1階、2階のいずれかでお過ごしください」
 つまり3~4階にはいられないということだ。実際、機器の修理や工事が始まって居づらい雰囲気になって来たので立ち去る。
 しかし空港的に
「空港内で夜を明かすこと」
 を良しとしているのだな……と思う。

 俺はホームレスを長年取材してきたが、夜明かしを許している施設は本当に少ない。実に心の広い施設である。
 空港内にはたくさんの椅子が置かれている。椅子も公園の椅子のように手すりがあって眠れないような意地悪な構造ではない。むしろ、尻の形状に曲がっておらずフラットだ。座る時は少々ケツが痛いが、とても寝やすい椅子だ。もちろん館内の温度もちょうどよい。

深夜の成田空港では●●●が食える!!

 うろついていると、外国人の人たちがやたらとたくさんいる場所があった。ホテルを取らず空港で泊まることを決め込んでいる人たちがいるのだろうか?
 コンセントつきのテーブルが何台かあって、ちょっとタブレットで仕事をしたかった俺としては是非席取りしたかったが、すでに全部埋まっていた。若者たちが楽しげに語らっている。初心者には場所取りが難しいのも、公園でのホームレス生活と同じだ。
 しかし、どの椅子ゾーンにもたいていいくつかUSBのコンセントが用意されている。
 どこに座ろうかなと思いつつ、何気なく上を見上げると、オレンジ色の光が灯っていた。

「おお、吉野家だ!!」

 さすが吉野家、24時間営業だった。
 さっそく足を運んでみる。吉野家独特のコの字型のカウンターではなく、テーブルが並ぶ一般的なレストランの形だった。そして値段が少しだけ(50円ほど)高かった。
 まあ空港だから、映画館や富士山の上で食べるようなものか……と無理やり自分を納得させて、牛丼大盛りと卵を頼む。やっぱりアツアツの物を食べられるのは嬉しい。

 食べ終わった後は、2階で席取りをする。まあまあ混んでいたのに、女性ひとりしかいないエリアを見つけた。
 席からギリギリコンセントに届いたので、iPadでポチポチと請求書を書いたりしていた。

「すいません~!! 掃除しますんで。ワックスかけますので2時間後には座れます」

 と作業服を着たお兄さんに言われる。
 なるほど、掃除で立たされることが分かっているから、人が少なかったのか。
 成田ビギナーではそこまでは分からなかった。

楽しい”プチ難民”体験

 幸い他のゾーンで似たような席に座ることができたので充電しながら、ポチポチと仕事を続けた。
 他の席には若い男性やカップル、外国人客などがやってきては、横になった。みんな躊躇せず横たわり、グーグーと寝息を立てはじめる。うら若き女性も寝ている。
 食べ物や飲み物を持っている人も多い。堂に入っている人が多い。どうやら成田泊まり経験者が多数いるようだ。

 周りはみんな眠りについたが、成田国際空港自体は眠りにつかない。
 掃除や工事がそこいらで行われている。しかし深夜3時過ぎに、館内の電気が消えた。

 薄暗い中、グーグー、スースーと寝息だけが響く。

「おお、寝てる人のために電気消してくれるとは、なんと優しい」

 昔々、雑誌の企画で24時間営業のマクドナルドで一ヶ月生活できるか? という馬鹿企画をやったことがあるのだが、多くのマクドナルド店舗ではウツラウツラしかかると、
「大丈夫ですか? 寝ないでくださいね」
 と店員が起こしにきた。
 なかなか眠れるマクドナルドはなかったのだが、そんな中渋谷のマクドナルドだけは、深夜は電気を消して眠りやすくしてくれた。東京ドリフターズに渋谷マックなみに優しい成田国際空港。
 ありがとう成田国際空港……と思っていたのだが30分後には明かりがついた。

 成田国際空港の夜は短かった。
 電気がついても、しばらくはみんなグーグーと寝ていた。俺は、iPadで漫画を描いているうちに、朝になった。
 成田国際空港の濃いWi-Fiのおかげで原稿も無事に送信することができて、韓国旅行へ同行する編集者と合流して無事韓国に旅立ったのであった。

 成田国際空港率の高い1月であった。
 成田国際空港プチ難民生活、皆さんも一度くらいはやってみてはいかがだろう?
 いや、やんなくていいけど。

らむさんに2023年の抱負をお願いしました

 というわけで2023年になってしまった。
 年明けからコツコツと原稿を書いて入稿すると、担当編集から
「2023年の抱負を書いてください」
 と言われた。
 抱負とは「心中に持つ計画、決意」みたいな意味である。本当に秘密裏に進めている計画を語るわけにはいかないし、そうかと言って、
「もう50歳ですし、とにかく健康第一で。楽しく仕事をやっていきたいと思います」
 なんてクソみたいなコメントでお茶を濁すのも嫌だ。
「部屋でも片付けながら考えるかー」
 と仕事部屋を片付けていると、ここのところ買ったDVD、Blu-rayがやたらと出てきた。

 昨今、アマゾンプライムやネットフリックスなどのサブスクの興隆で映画やドラマが見やすくなった。しかし、意外と抜けている作品も多い。特に古い作品は見づらい。そんな時はレンタルビデオ店に行けばいいのだが、東村山のTSUTAYAは、俺が引っ越してくると同時に潰れてしまった。
 仕方なく、Amazonや中古ショップで買うのだが、買ってしまうと急に観る気がなくなってしまうのだ。
 そんなDVD、Blu-rayの山である。
「なんか死ぬまで、観なそうだなー」
あ、そうだ、これを抱負にしておこうと思いついた。
「2023年、村田らむはたまってるDVD、Blu-rayを見ます!」
 どうでもいいだろ! と思うかもしれないけど、そもそも人の抱負なんてどうでもいいよね!

▶これまでの「裏・歳時記」

文・村田らむ Twitter:@rumrumrumrum

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