野尻抱介の「ぱられる・シンギュラリティ」第7回 図上演習『ズミイヌイ島沖海戦』

1章 海戦はなぜあるのか

 先月の記事( ▶リンク)「ウォーゲームは歴史の動態保存」と書いたところ、今月になってすごい歴史が作られてしまった。今回は予定を変えてその動態保存を試みる。
 そのすごい歴史とは、2022年4月13日に起きた、ロシア黒海艦隊旗艦 巡洋艦モスクワの沈没である。原因はウクライナの対艦ミサイル、ネプチューンによる攻撃と考えられている。まだ確定していないが、本稿ではその前提で進める。
 戦闘で巡洋艦が沈んだのは1982年、アルゼンチン海軍のヘネラル・ベルグラノ以来40年ぶりだ。対艦ミサイルによる巡洋艦の沈没は史上初になる。
 対艦ミサイルによる駆逐艦の沈没ならいくつかあって――といっても3件ぐらい?――フォークランド紛争における英国駆逐艦シェフィールドが有名だ。ミサイルは不発だったが火災が発生し、手がつけられなくなって総員退去した。その後鎮火したが、6日後、荒天下の曳航中に沈んでしまった。
 駆逐艦とか巡洋艦とかの区別は何かというと、ざっくり大きさである。
 空母・揚陸艦(2~10万トン)>巡洋艦(1万トン)>駆逐艦(5000トン)>フリゲイト(2000トン)>コルベット(1000トン)と並ぶ。排水量は目安だ。空母や揚陸艦は特別な用途・形状を持つので、いわゆる軍艦らしい軍艦の頂点に立つのが巡洋艦ということになる。首都の名を冠した艦隊旗艦ともなれば国家の顔だ。それが沈んだのだから世界を驚かせたわけだ。

 「なぜ海戦などというものがあるのか。なぜ国が傾くほどの高額兵器に大勢の人を乗せて海の真ん中へ、敵の的になりにいくのか?」と思ったことはないだろうか。
 私が海戦に興味を持ったのは、この疑問がきっかけだ。第二次世界大戦までならともかく、航空機の1/20の速度でしか動けず、空や宇宙から丸見えの現代に、なぜ海戦が成立するのだろう? 私は謙虚な人間だから「彼らは間違っている」とは考えず、「何か自分の知らない理由があるはずだ」と考えていろいろ調べた。
 第一の理由は船の輸送量が圧倒的に大きいからだ。大型のタンカーは一度に50万トンを運べる。10トントラックで5万台、200トン運べる大型輸送機なら2500機ぶんだ。
 そして海は世界中につながっているから、海を通れば多くの場所に近づける。最終的には車輌や航空機を使うとしても、遠隔地に大量の戦力投射をするとなれば、海上輸送が主力になる。
 現在、海軍戦力の頂点に立つのは原潜と空母だ。潜水艦は単独で隠密行動するが、空母は大きな艦隊を組んで移動する。これを米英では空母打撃群といい、巡洋艦、駆逐艦、補給艦、攻撃型原潜が随伴する。空母は哨戒機を飛ばし、護衛の艦船も常に周囲を見張り、近づく者、視線を通す者が現れたら追い払う構えをとる。
 ロシアの海軍は米英と思想が異なり、空母は小さめ、潜水艦は大きい。巡洋艦や駆逐艦は相手軍艦への攻撃が重視され、「空母キラー」と呼ばれる大型で超音速のミサイルを持つ。
 沈没した巡洋艦モスクワも空母キラーの巡航ミサイルを上甲板に16基並べていて、よく目立つ。そして船体の後半には、ふだんは格納されていて目立たないが、2種類の防空ミサイルがあって大きなスペースを割いている。
 そのほか自分自身を守るため、レーダー照準の連装砲と機関砲(CIWS)を備える。現代の艦船では、砲はもっぱら防衛に使われる。
 潜水艦からの攻撃に対してはソナーや対潜兵器を備えるほか、自軍の潜水艦に守ってもらう。
 ざっくり見当すると、現代の海戦では1の攻撃をおこなうためにその数倍のリソースを防御にまわすようだ。コストが雪だるま式にふくらむ悪循環の構図だが、戦争は相手のあることなのでこうなるのだろう。先に述べた大きな長所があるために、無理を通した結果だ。
 これが先の疑問への答えになるが、私は完全には納得していない。「ほんとにそう?」と疑い続けている。
 ともかく軍艦は自分で自分を守れることになっている。もちろん100%ではない。ある試算では対艦ミサイルへの防御は95%ぐらいで、戦闘を続けていれば遅かれ早かれ被弾すると考えられていた。しかしミサイルを撃ち合うような海戦はなかなか起きない。1967年のエイラート事件に始まり、ラタキア沖海戦、フォークランド紛争の駆逐艦シェフィールド、最後は1987年、イラン・イラク戦争中の駆逐艦スターク攻撃ぐらいだろうか。この認識が正しいなら、今回は35年ぶりの対艦ミサイル戦闘になる。それが4月13日に起きたわけだ。

 この歴史を動態保存するために、非電源系海戦ミニチュアゲームHarpoon4を使うことにする。Harpoonはトム・クランシーが『レッドオクトーバーを追え』を書くきっかけになったゲームだ。最初のバージョンは海軍在籍中のラリー・ボンドが図上演習のシステムを改良して1980年に発表したものだ。改良が続き、3版はホビージャパンから日本語版も販売された。一般のゲームプレイヤーはもちろん、アメリカ海軍では海軍兵学校や予備役将校研修隊、水上艦での訓練補助にも使われている。
 Harpoonは異なるバージョンで2度にわたってH.G.ウェルズ賞ミニチュアゲーム部門を受賞している。H.G.ウェルズはSF小説だけでなく、ウォーゲームの始祖でもある。


Harpoonのコンポーネントにマップはなく、書籍と書類が詰まっている。ミニチュアゲームなのでテーブルに大きな紙を敷いて作図しながらプレイするスタイルだ。艦船の位置を示すために1/2000くらいの小さなミニチュアを並べるが、付属のユニットマーカーを使ってもいいし、なくてもよい。私は1/700の艦船プラモデルを用意して兵装の射界などを確かめながらプレイするのが好きだ。
 私は3版をプレイして熱中したので、1996年に刊行された4版も購入した(写真)。これはシミュレーションがぐんと精密になったかわり、プレイアビリティはかなり低くなった。まあゲームというより図上演習用のルール&資料集と思ったほうがいいかもしれない。昨年、5版 Harpoon Vが出て、こちらでPDF版( ▶リンク) を購入できる。私は購入したものの、まだプレイしていない。
 Harpoonシリーズの魅力は、再現性の良さと比較的シンプルなルール体系、豊富な資料だろう。複雑な現代戦を非電源で再現するのは困難だが、Harpoonは兵器を「世代」で分類することで単純化と再現性の向上に成功している。
 私のHarpoon4プレイ経験はASW(対潜戦闘)が中心で、それも10年前のことなので、今回はルールの復習と慣れないロシア兵器の理解に数日を費やした。付属資料を参照して艦船リファレンスシートという書式に諸元を書き込むのが大変で、装備をきちんと理解しないといけない。別途図解やチャート、マップも作った。Harpoon4はプレイを始めるまでが実に長い。


 何か見落としがあるかもしれないが、以下にその結果を示そう。できるだけ事実に近づくよう心がけたが、想像で補っていることをお断りしておく。

2章 ズミイヌイ島沖海戦(前編) 「ネプチューンミサイルの攻撃」

 ズミイヌイ島、英語でスネークアイランドは黒海の北西部、ドナウデルタ沖にあるウクライナの前哨である。ウクライナ戦争開戦当日の2月24日、ロシアの巡洋艦モスクワと他1隻が現れ、島の守備隊に降伏を迫った。守備隊はたった13人で、もちろん勝ち目はなかったが、無線で「ロシアの軍艦よ、マスでもかいてろ」( Русский военный корабль, иди нахуй / Russian warship, go fuck yourself)と返答した。島は砲撃を受け、守備隊は全滅したと考えられていたが、後になって全員生存して捕虜になっていることがわかった。このやりとりはインターネット・ミームになり、ウクライナの記念切手にもなった。


 そんな因縁のあるズミイヌイ島から東へ50kmほど離れたところでモスクワは沈没した。
 随伴艦はいなかったが、モスクワは艦隊防空艦だから、自分で自分を守れるはずだった。何が悪かったのだろう?

*初期設定
 2022年4月13日午前1時(ウクライナ時 UT+2)
 天候は中ぐらいの雨、海況4。
 ロシア軍: ミサイル巡洋艦モスクワがズミイヌイ島の東、東経30.83度、北緯45.23度を方位090、16ktで単独航行している。(ktはノット、1ノットは時速1.852km)
 ウクライナ軍: 移動式のネプチューン沿岸防衛システムをオデーサ近郊の海岸にセットアップしている。搭載レーダーもしくは衛星等の外部情報を使って巡洋艦モスクワを探知している。レーダーはパッシブモードにすると500~600kmの探知半径になる。自分で電波を出さないので敵に探知されにくい。地理的な理由から通常モードのレーダーで目標を直接探知することはできない。
 ネプチューンミサイル RK-360MT は2021年に配備されたばかりの対艦巡航ミサイルで、スペックはわからない。しかしロシアのKh-35Uミサイルをベースにしたとみられているので、そのデータを使って判定する。
 ウクライナ軍は攻撃に先立ち、TB2ドローンを3機飛ばして陽動したと伝えられている。しかし効果は疑問視されているので、ここでは考慮しない。
*勝利条件
 巡洋艦モスクワを戦闘不能にすればウクライナ軍の勝利。それを阻止すればロシア軍の勝利。
*タイムライン
 午前1時0分0秒 ウクライナ軍はネプチューンミサイルを2基発射する。目標まで70海里(130km)。ミサイルは超低空を580ノットで巡航する。到達は7分後。
 目標はその7分で3km程度しか動かないので作図では省略する。ネプチューンはプログラムにより10km手前で自分のレーダーを作動させ、アクティブホーミングで目標を捉える。
 超低空の飛行物体に対する巡洋艦モスクワのレーダー見通し半径は24海里(44km)。これは目標の高度、レーダーアンテナの高さと地球の丸み、電波の屈折率から計算できる幾何学的な制約だ。その外にあるものは自分では探知できない。


 このレーダーチャートは巡洋艦モスクワを中心にしたマップで、日本語では運動盤という。海上自衛官が訓練で他船との相対運動を記入させられて頭をウニにするやつだ。半径24海里と14海里の円はレーダーの探知半径。北にのびる直線はネプチューンミサイルの飛行経路である。

 午前1時4分30秒 着弾2分30秒前。ネプチューンはレーダー見通し圏内に入った。ゲーム進行は3分間隔の戦術ターンから30秒間隔の交戦ターンに移行する。
 モスクワは航空機を探知できる三次元レーダーを2基搭載している。MR-800トップペアとMR-710MフレガットMだ。対象が探知圏内に入れば必ず探知できるとは限らず、天候によって成功率が異なる。中程度の降雨を想定すると、探知半径は24海里、探知成功率は40%になる。
 ダイス判定の結果、トップペア3Dレーダーがミサイルの探知に成功した。
 探知から応射までの時間については、Harpoon Vでリアクションタイムのルールが加わったので、これを適用した。巡洋艦モスクワが持っている第3世代の戦闘システムでは90秒+ダイス判定ぶんの時間がかかる。
 ダイス判定の結果、リアクションタイムは120秒となった。秒刻みの海戦でこれはきつい。ぎりぎり1チャンスあるようだが――

 午前1時6分30秒 着弾30秒前。巡洋艦モスクワは艦隊防空ミサイルFort Mを6基、個艦防空ミサイルOsa-2Mを2基発射した。命中率はそれぞれ65%と55%。
 15秒の第1移動フェイズで双方は接触する。1基のネプチューンに対しFort Mを3基、Osa-2Mを1基割り当ててダイス判定すると、多勢に無勢、ネプチューンは2基とも撃墜されてしまった。
 しかしきわどいタイミングだった。もしここで撃ちもらすと主砲とCIWS(近接防空システム)機関砲に望みを託すことになるが、命中率は25%と40%で、運がよければ助かる程度のものだ。

 ダイス判定をふりかえると、防空ミサイルの発射が間に合えば、巡洋艦はほぼ助かる。防空ミサイルはソビエトらしく強力なのだ。しかしせっかくの防空ミサイルも、発射が間に合わなければ宝の持ち腐れになる。リアクションタイムが4ターン(120秒)より大きいか、あるいはレーダー探知に1~2回失敗すると時間切れになる。
 これはひとえに巡洋艦モスクワの戦闘システムが第3世代という古さだからだ。アメリカの現用イージス艦は第5世代で、リアクションタイムはほぼ1ターン(30秒)だ。

 この設定でウクライナ側の勝率は五分五分くらいの結果になった。妥当なところだと思う。史実はウクライナ側の勝ちなので、勝率はもっと高いかもしれない。
 ネプチューンのスペックのうち、終端誘導での回避運動を「あり」にすると迎撃ミサイルの命中率はそれぞれ15%低下し、撃ちもらしが増える。最新兵器だからそれくらいできてもおかしくない。
 また、ネプチューンを2基ではなく4基使えば、これも撃ちもらしが増える。
 天候が「強雨」だとレーダー探知半径と探知確率が下がるため、迎撃は常に失敗する。気象記録によれば4月13日0時のオデーサは雨、3時が曇りで回復傾向だ。しかし巡洋艦の周辺がどうだったかは確言できない。
 このシミュレーションでは乗組員の状態までは再現できない。Harpoonでは、乗組員は戦闘配置についていて機器を正しく操作し、機器は期待通りに動く想定でシミュレーションする。実際がどうだったのかは、今後の調査と公開を待つほかない。

3章 ズミイヌイ島沖海戦(後編) 「ダメージコントロール」

 最初の疑問「巡洋艦はなぜネプチューンの攻撃を許したか」に続いて「巡洋艦はなぜネプチューン2発で沈んだか」を考える。


 時刻や出所は不明だが、ダメージを受けたモスクワの画像と動画が流れている。信憑性は高いようだ。モスクワは左に傾斜し、火災が発生して沈没しかけている。一夜明けて13日18時まで浮いていたことは人工衛星のレーダー観測でわかっている。
人影はなく、膨張式救命ラフトもなくなっている。ヘリコプター格納庫の扉は開いたままになっている。すでに総員退去したようだ。
写真では煙突の根元付近に火災がみられ、そこから船尾方向に、舷窓や魚雷ハッチから黒煙の出た跡が連なっている。艦内で少なくとも50mにわたって黒煙がたちこめたことになる。軍艦は戦闘配置になると水密隔壁を閉めるものだが、してなかったのだろうか?
クリアに見えているのは船尾側の80mぐらいだ。煙でよく見えないが、煙突から舳先までは100mほどある。前半部に並ぶP-1000ミサイルの発射管はおぼろげなシルエットが見え、誘爆していないように見える。
 ネプチューンのような対艦巡航ミサイルは浸水させるため喫水線付近を狙うことが多い。モスクワの本来の喫水線は写真で海面上に見えている側面の倍くらい下だ。海面下に破口があるかもしれない。もし被弾した時点で隔壁が閉まってなかったら、浸水が始まってから水圧に逆らって閉めるのは難しいと思う。
 Fort MのVLS(垂直発射装置)の蓋はすべて閉じており、Osa-2Mもランチャーが出ていない。ランチャーの扉は半開きになっている。出さなかったのか、いちど出したものを引っ込めたのかは、この写真からはわからない。ミサイルを発射すれば周囲にいくらか汚れが付着しそうなものだが、その跡はみられない。
 先のシミュレーションでは、防空ミサイルの発射にこぎつければ高い確率でネプチューンを撃墜できた。被弾したということは、防空ミサイルは撃てていない可能性が高い。

 Harpoon4のルールを使って、ネプチューンが2基命中した場合のダメージ判定をしてみよう。
 モスクワの保有ダメージポイントは239。ネプチューン2基の付与ダメージポイントは58。
 239-58=181。攻撃を受けるたびにダメージポイントが減っていって、ゼロになると沈没する。その前段階として速度が25%ずつ低下していくのだが、このダメージは25%に満たないので、モスクワは通常どおり航行を続けられる。
 次に、このダメージ比からクリティカルヒットの回数を判定する。範囲は0~3で、今回は3となった。その内容はさらにダイスロールして決める。
 (1) 小規模な浸水 (2) 小規模な浸水 (3) MR-800レーダーが損傷
 となった。浸水は30分ごとにダメージポイントを4%失う程度で、変化は緩慢だ。
 他のケースも試してみたが、似たり寄ったりだった。中規模の火災が発生して速度が15ノットに制約されたりしたが、自力でセバストポリに帰れることは変わらない。
 ネプチューンのスペックは不明だから、付与ダメージポイントを3割増しの76にしてみよう。
 艦の最高速度は32ノット→24ノットに落ちる。クリティカルヒットの数は0~4。大差ない感じだ。

 結論: ネプチューンが2基命中しても、この巡洋艦は簡単には沈まない。

 史実でもすぐには沈まなかったが、総員退艦しており、深刻な火災と浸水が生じている。
 Harpoon4のダメージ判定は実際の船体構造や攻撃位置を考慮してないので、大まかな規模感がつかめる程度だ。シミュレーションというよりストーリー・ジェネレーターである。
 しかし、常識で考えてもこのタイプの対艦ミサイルが有効なのは駆逐艦以下とされていて、巡洋艦が沈んだのは意外だった。判定結果もその常識に沿っている。
 もちろん、ミサイルどころか煙草の火が燃え広がっただけでも船は沈没することがある。しかし煙草の火は普通消し止められるものだ。きっかけになるダメージの大きさと、沈没という結果の間には一定の「もっともらしさ」がある。
 ネプチューンは船体のどこに当たっても沈没を招くほどの威力はないが、当たりどころが悪ければ沈む。
 船舶工学の専門家が「ミサイルがここに当たれば沈没するかも」という分析を発表していた。
 通信傍受の報告ではSOS発信が1時5分、電力喪失が1時47分となっている。船体は少なくとも17時間は浮いていたが、早々に電力を喪失したとしたら、発電機やその他の電気系統にクリティカルヒットがあったのかもしれない。

 今回のロシア軍はあちこちでヘマをやらかしているので、本件のダメージコントロール失敗も乗組員が原因かもしれない。彼らはきちんと隔壁を閉め、遅滞なく対処しただろうか? 黒海艦隊旗艦の乗組員となれば優秀だと思うのだが、今回の戦争は常識が通じないことが実に多いので、なんとも言えない。
 なぜ海戦なんてものが成立するのか、というそもそもの疑問に対して、この出来事が示すのは「ごめん、成立しなかった。みんなはそんなミサイルじゃ無理って言ってたけど、撃ってみたら命中して沈んじゃった。空母だって実戦ではあっさり沈んじゃうかもよ?」である。
 本当にそうなら世界中の海軍が大騒ぎするだろう。
 しかしHarpoon4のシミュレーションで、現象の解像度が少し上がった。それを信じるなら、導けるのは次の2点だ。

(1) 巡洋艦モスクワの戦闘システムは古く、対艦ミサイルを防ぎきれない。被弾は乗組員の責任とは言えない。
(2) 被弾後のダメージコントロールには疑問が残る。乗組員はなぜ浸水や火災を阻止できなかったのだろうか?

 そうとなれば古い戦闘システムを更新し、ダメージコントロールの手順と訓練を見直せば、延命できるかもしれない。海軍という金食い虫だが勇壮でロマンチックな営みは、シンギュラリティ到達までなら続くだろうか。

 ――以上、素人の床屋政談レベルにはちがいないが、記者会見でいい質問ができるくらいの予習にはなったと思う。新しい事実が出てきたらパラメーターを調整して結果をすりあわせるとしよう。それを繰り返していくことで、歴史の動態保存は進む。

 


▶今までの「ぱられる・シンギュラリティ」

野尻抱介の「ぱられる・シンギュラリティ」第一回野尻抱介
SF作家、Maker、ニコニコ技術部員。1961年生まれ。三重県津市在住。計測制御・CADのプログラマー、ゲームデザイナーをへて専業作家になったが、現在は狩猟を通して自給自足を模索する兼業作家。『ふわふわの泉』『太陽の簒奪者』『沈黙のフライバイ』『南極点のピアピア動画』ほかで星雲賞7回受賞。宇宙作家クラブ会員。第一種銃猟免許、わな猟免許所持、第三級アマチュア無線技師。JQ2OYC。Twitter ID @nojiri_h

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