Talk at Fillers #8 声優 / 作家・池澤春菜様

声と文字――”ことば”に向き合い続けるお客様

銀座の7丁目のあたり。名前のついていない通りにある、小さなワイン&シガーバー「Fillers」。
イタリアンワインを愛してやまないマスターと、お客様の気まぐれなお話に耳をかたむけてみましょう。

今夜は声優 / 作家・池澤春菜さんをお迎えします。

池澤春菜
声優、歌手、舞台俳優、エッセイスト。アクロスエンタテインメント所属。第二十代日本SF作家クラブ会長。星馬豪(『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』)、麻宮アテナ(『THE KING OF FIGHTERS』シリーズ)など、数多くのアニメやゲームのキャラクターを演じた。エッセイ集に『乙女の読書道』『SFのSは、ステキのS』『台湾市場あちこち散歩』など。2020年には初の小説作品『オービタル・クリスマス』(原作:堺三保)を河出書房新社のWebサイトにて公開し、同作で第52回星雲賞日本短編部門を受賞した。近著は『SFのSは、ステキのS+』(早川書房)。
マスター 鈴木 則志
イタリア産を中心に世界各地から取り寄せたワインとキューバ産のシガーを集めたバー「Fillers(フィラー)」のマスター。

声だけ、あるいは文字だけで、数多くの世界や心情を表現し続けてきている池澤さん。

お酒はあまり得意ではないというお話でしたが、ワイナリーへの訪問経験なども非常に豊富で、深い造詣の持ち主。
その豊かな表現力と鋭い感性はワインを楽しむなかでも遺憾なく発揮されていました。

――ちょっと1杯、寄っていきませんか?

飲めない人のバー入門?

マスター 池澤さんは、あんまりお酒はお強くないんですよね。

池澤春菜(以下「池澤」) そうなんですよ。でも今日はすごく楽しみにして来ました。
普段はほとんど飲みませんが、飲み会の席やバーは好きなんです。次の日も言ったことを全部覚えてるので、ちょっとだけ嫌われますけどね(笑)

マスター バーも行かれるんですね。

池澤 バーテンダーの方のカウンセリング能力はすごいなと、いつも感動します。“すごく弱いんですけどこういうものが飲みたいです”ってお願いすると、飲めない人にもぴったりな美味しいドリンクを作ってくださるので。

マスター バーテンダーでも飲めない人っているからね。

池澤 そうなんですね。
たとえば“フルーツを使ったものでアルコールが低くて、ゆっくり飲めるものをお願いします”ってお願いすると、氷が解けても味が薄まらないように作ってくださったり、フルーツのフレッシュさが前面に出たアルコールは風味付けくらいのドリンクを用意してくださったり、すごく工夫をしてくれるので楽しめます。

マスター 僕はシェイカーは振らないんだけど、言ってみるとちゃんと対応してくれるバーもたくさんありますからね。
今日は無理せず楽しんでください。

池澤 ありがとうございます。お酒と一緒に食べ物をいただくのも大好きなんです。

マスター つまみは、サラミとチーズをお出しします。チーズはイタリアから直接買ってきたパルミジャーノレッジャーノの40ヶ月です。

池澤 まあ、アミノ酸がじゃりじゃりするやつですね。私、生まれがギリシャでヤギのチーズを食べたりして育ったので、匂いの強いチーズが大好きなんですよ。
家でもオールドアムステルダムを真空パックに入れて、お野菜室でさらに寝かせてます。

■ソアーヴェ DOC コッリ・スカリジェリ 2014

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マスター 熟成した白ワインなので、酸が落ちてきていて蜂蜜のような甘みが感じられます。
樽とかは使わずにこの濃い色が出てるんです。

池澤 わぁ、いい色。香りもすごくフルーティですね。
味はすごくすっきりしてます。甘いって仰ってましたけど甘みがしつこくないですね。後味にすって消えていく酸の余韻が感じられて、それがとても綺麗です。

マスター 色だけ見ると劣化したと思う人もいるかもしれないんですけどね。

池澤 よい年の取り方をしたってことですね。

マスター 2014年のワインなのでけっこう古いんですけど、お値段も手ごろです。

池澤 じゃあ日常的に気軽に飲める、お付き合いのしやすいいいワインですね。

お茶とワインとシガーと…奥が深すぎる香りの世界

マスター あまり飲まないってなると、普段ワインを楽しむときは香りを楽しんだりするような感じですか?

池澤 そうですね。前にタスマニアのワイナリー巡りをしたときは私が運転係だったこともあって、エアソムリエをしてました。

マスター エアソムリエ?

池澤 香りだけでどういうワインかをテイスティングシートに書き込んで、あとでワイナリーの方に、どうでしょうか…ってお伺いして(笑)

マスター 答え合わせの結果はどうでした?

池澤 それが割とよかったんです。

マスター すごいね。

池澤 私、お茶のソムリエの資格を持っていて、中国まで留学してお茶の勉強をしたんです。なので香りのテイスティングのようなものはお茶でずっとしていたので、自分の感覚を言語化しやすかったんだと思います。

マスター 毎回来ていただくゲストの方たちは、香ったり飲んだりしたときの味の表現が難しいってよく仰ってました。

池澤 結局は、その人にとっての美味しいかが唯一の基準なんだと思います。
お茶も、リーズナブルだけど毎日飲みたいって思えるようなお茶もあるし、凄まじい金額でいいお茶だけど1回飲んだら満足っていうお茶もあるし、その人にとって美味しいって感じられることが大事なんじゃないかなって思います。
自分はこれが好き!が1番です。

マスター 香りも味も、決められた方程式や表現があるわけじゃないしね。人それぞれでいいんですよ。

池澤 濡れた犬の香りって本当にあるのかしらって思いますもん(笑)

マスター 鉄分の香りなんかも、電車が急ブレーキしたときの香りって表現したりね。

池澤 あぁ~、鉄が焼けるような感じですね。
ワインによって香りが全然違いますし、面白いですね。お茶もワインも、植物として育ってきた土地の香りがちゃんとそこにあるなって思います。
以前、アルゼンチンでペアリングのコースを楽しませていただいたんですけど、ワイナリーのブドウ畑の真ん中にテーブルを作って、ブドウの木の下で食べたり飲んだりさせてもらったんです。
ワイナリーの光景といっしょに、そこで採れたブドウで作ったワインを楽しめるっていうのは、1つの幸せのかたちなんだなぁって思いました。

マスター ワイナリーや農家とかで、実際に土から生えている食べ物を見ると、その食べ物に対する見方が変わりますよね。

池澤 ブドウ畑を知っていることで、ワインを味わったとき、味と香りと景色が重なってその奥に広がる景色をさらに豊かにできるような気がします。
お茶畑を見に行ったこともあって、その風景を知った上でお茶を飲むと、朝露の下りた柔らかなあの新芽たち、一面きらきらしているところに朝陽が差して…っていう光景が見えるんですよね。

マスター ワインもお茶も、そういう豊かさを求めて産地に足を運んでるんだね。

池澤 そうですね。
お茶っていろんな淹れ方があって、飲むための盃(品茗杯/ヒンメイハイ)と香りを楽しむための盃(聞香杯/モンコウハイ)があるんです。まず聞香杯に入れて香りだけ嗅ぐんですけど、最初は木の先端の新芽なのが、だんだん細い茎になっていって、枝から幹へと変わって、最後は土に還っていくように香りが濃厚に変化していくんです。
お茶が育ってきた道を逆回しで体験させてもらっているような気持ちになります。

マスター お茶のソムリエっていうのは、具体的にどんなことをするんです?

池澤 毎年、畑から採れるお茶がどの等級なのかを定めていきます。
お茶のソムリエは成り立ちがすごく分かりやすくて、私が持っているのは高級評茶員という日本だととても珍しい国家資格なんですけど、中国は良いお茶ももちろんたくさんあるのですが、茶葉の品質の偽装も多いんです。なのでお茶の文化を守る意味もあって、茶芸師・評茶員みたいな国家資格を持っていないと、お茶の仕事ができないようになってるんです。
見極めるときには、同じ畑から採れた茶葉を10種類くらい用意して、鑑定していきます。
これはすごくいい茶葉だけど、保存のときに湿度の管理を少し間違えているから特等ではない、1つ下げよう…みたいなことを決めていきます。
茶葉の生育状況、天気、製茶方法、保存方法とかを総合的に見て判断するので、けっこう科学ですね。

マスター 科学的な結果を、茶葉から感覚を通して見抜いて言葉にしてくんですか。

池澤 なので、麻雀の盲牌みたいに目隠しをして何の茶葉か当てるみたいな試験もやりました。緑茶って不発酵茶なので鑑定がすごく難しいんですよ。

マスター ケムールの編集長は、火を点ける前のタバコの匂いで何のタバコ葉を使ってるか分かるんだけど、もしかしたら池澤さんなら、タバコを喫わなくても分かるかもしれないですね。

池澤 タバコも火がついてなければいい匂いな気がします。

マスター タバコの燃えるときの臭さって、巻いている紙が燃える臭いでもあるんですよね。だから葉巻とかは紙巻タバコよりイヤな臭いがないって言われますね。
そういえば、この連載のゲストで前にいらっしゃったTsubasaさんに頂いたいい葉巻があるんですけど、喫うのがもったいなくてまだ取っておいてありますよ(笑)

池澤 シナモンみたいな甘い香りがしますね。

マスター ベガス・ロバイナというタバコ農家をやっている有名な方が巻いた葉巻でね。巻いた人によっても味わいが変わるのが葉巻なんですよ。

池澤 そうなんですね。葉巻も奥が深そうです…。

記憶と結びつく”香り”

マスター 香りって観点で楽しむと違った面白味がありますよね。
五感のなかで1番記憶と結びつきやすい感覚が嗅覚だっていいますし。

池澤 わたし、ギリシャ生まれなんですが、2004年のアテネオリンピックのときに取材でギリシャに行かせてもらったんです。それが生まれて初めての里帰りだったんですけど、ギリシャの町に降り立った瞬間、”あ、私ここにいた。知ってる、この匂い”って思いました。

マスター ギリシャに生まれてから何歳まで住んでたんですか?

池澤 3歳くらいまでです。

マスター それでもはっきりと匂いが記憶に残ってたんだ。

池澤 オレガノの香りと、マスティハっていう松脂のガムみたいなものの香りと、埃と日の光の香りとで、”わたしここにいたんだ”って。

マスター 視覚の記憶とかで覚えているものはなかったんですか?

池澤 うーん、覚えているものもあると思うんですが、親に後から聞いたものとごっちゃになってるかもしれません。でも香りだけは上書きのしようがないので。香りの記憶って、脳の1番深いところに入るんだなって思いました。
香りと言えば、パイプのあま~い匂いは懐かしく感じます。
私が子供のころ、父が書斎で喫っていたので。海泡石のメシャムパイプを使っていました。

マスター すごく歴史が古いパイプですね。

池澤 名前もすごくきれいですよね。海の泡の石って書くんですよね。

編集部メモ:メシャムパイプ

海泡石でできたパイプ。 現在ではトルコが有名。 トルコにはアルティナイ社、オーストリアのウィーンにはロバート・ストランバッハ社がある。 アフリカではタンザニアのアンボセリメシャムが有名。 石なのにブライヤーより軽く、歯に負担がかからない。 長い間の喫煙でパイプは琥珀色に美しく変化していく。 18世紀に入ってヨーロッパで彫刻メシャムパイプが作られ始めた。 彫刻メシャムパイプは、1880年から1890年の間ヨーロッパで全盛期を迎えた。 シガーホルダーも多く作られていた。現在は、トルコのエスキーシャヒルのメシャムが主流。

引用:柘製作所

\日本が世界に誇るパイプメーカー”柘製作所”社長が語るパイプの話はこちらから/

マスター お父様はご自宅で喫われていたんですか?

池澤 はい。仕事しながら喫っていました。手に包むみたいにパイプを持って、そこからふわぁ~っと甘い匂いが漂って。私はよくその横で好きな本を読んでいました。

一杯に宿る奇跡を感じて

マスター 池澤さんはチリとかアルゼンチンにも縁が深いと伺ったので、今日はアルゼンチンのワインをご用意してみました。

池澤 わぁ、ありがとうございます。マルベックよりも色が浅いですね。

マスター このワインのブドウ品種はピノノワールなので。

池澤 前に見たマルベックのものは血みたいな濃い色をしてました。
私、ワインはチリとかアルゼンチンとか、本流じゃないところのものばかり味わっている気がします(笑)

■チャクラ32 トレインタ・イ・ドス

マスター 開けたてなので揮発酸も若干あると思います。それに2020年ビンテージでまだ若いから。生産本数は少なくて、9972本のうちの4492本目になります。
ジェームズ・サックリンという有名なワインの評論家が100種類の優れたワインのうちの1本に選んでますね。

池澤 じゃあいい年のワインなんですね。
ふわっと広がって、じゃりじゃりと舌の周りに残るような味わいで、余韻が口のなかに残りやすいです。
ちょっといじわるなお嬢さんって感じがします。なかなか心のなかを見せてくれないけれど、話をしてみたらいいところがいっぱいあるみたいな。

マスター ビオディナミ(Biodynamie)っていう自然由来の伝統的な手法で育てたブドウを使っています。ウマで鋤を引いたりね。

池澤 ワインってブドウが作られる過程も、醸造の過程もいろいろな偶然や奇跡が関わっていますよね。
以前、チリですごく不思議なワインを飲ませていただいたことがあります。
チリ地震の際に壊滅的な被害を受けてしまったワイナリーのものだったんですが、樽も割れて空気に触れてしまい、もうダメだけど捨てる前にちょっと飲んでみようって飲んだら、得も言われぬ発酵をしていたそうで。
白ワインなのに、このワインくらいとても色が濃いんです。その割れてしまった樽のぶんしかない上に2度と再現ができないワインで、人間の力ではコントロールしきれない何かが最後に奇跡として残るんだなと思いました。

マスター チリやアルゼンチンとは、どういうご縁だったんですか?

池澤 最初はチリで開催されたイベントにゲストとして呼んでいただいたのがきっかけです。
ただ、地球の真裏でトランジット大変だし、スペイン語だし、チリは南米で1番治安がいいと言われてるけどそれでも南米だし…っていうので、なかなか受けてくれる方がいなくてゲスト選考が難航していたそうなんです。
そのときに、池澤春菜なら大丈夫じゃないかって白羽の矢が立って…。

マスター なんで大丈夫なの(笑)

池澤 世界中いろんなところ行ってるし、さんざん危ない目にも合ってるし、度胸あるし、多少英語できるしなんとかなるでしょうってことだと思います(笑)
私も、自分からチリに旅行なんて絶対行かないと思っていたので、呼んでもらえるなんて最高!行きまーす!って二つ返事でお引き受けして、海外旅行をしたことがなかったマネージャーのお世話をしながら行ってきました。

マスター 立場が逆転してますね…。どっちがマネージャーか分からないですよ(笑)

池澤 次に行ったのは、レギュラーが1つ延期になって、たまたま半年くらいぽかんとスケジュールが空いたタイミングでした。
これは、今新規の仕事入れるのを止めたら、自分の好きになる時間が半年間できるかもしれないって。せっかくなら1番遠いところに行ってやろうと思って、チリに留学したんです。

マスター それは随分思い切ったね。

池澤 ただ行ったからには言葉ができるようにならないと、遊びに行っただけで半年間が無駄になっちゃうから、午前中は大学、午後は語学学校、土日は家庭教師をつけて…ずっとスペイン語の勉強をしていました。

マスター ぽっかり空いた期間だけどしっかりスキルアップに使ったんだ。

池澤 でもそのあいだも単発でのお仕事は残っていたので、1、2ヶ月に1回くらいはチリと日本を往復してました。
チリって日付変更線も越えるので、行くのに2日、帰るのに3日かかるんですよ。めっちゃきつかったです。

マスター 以前来ていただいた浅田舞さんも今年2回、アルゼンチンに行ったって仰ってたけど、さらにタフですね…。

池澤 チリ留学の半年間のあいだにアルゼンチンにも3回行きましたよ。家から1時間くらいだったんです。
アルゼンチンって食べ物がすごく美味しいんですよね。蚤の市とかでも、ヨーロッパでは高騰しているような珍しいアンティークがごろごろ出てきたり、すごく面白い国ですね。

殺して差し上げて……?

マスター 今は声優業と文筆業、どちらが多いんでしょう?

池澤 意図しているわけではないんですが、ちょうど半分半分くらいです。
ごく初期から連載は持たせていただいていたんですが、そのころに比べれば書くお仕事のボリュームはすごく増えましたね。

マスター 仕事以外に、去年は小説のスクールでも書いてたんですよね。

池澤 そうなんです。ゲンロンが開講しているSF創作講座に生徒として通ってました。
講座では、毎月の課題として原稿用紙で50枚程度の短編小説を書いていたんですが、日本SF協会の会長をやっていた時期とも被っていたので、周りからは”バカなの…?”って(笑)

マスター 仕事も、仕事以外の活動量も凄まじいね。

池澤 締め切りを買ったのと同じなので、書かないともったいないですから。
それに、毎回30作以上の短編小説を全て読んで、いいところと悪いところをきちんと言語化して伝えてくださる大森さんたち講師の方々がきっと1番大変です(笑)
凄まじい仕事をされているなと感じます。

編集部メモ:ゲンロンSF創作講座

池澤さんは”柿村イサナ”という別名義にて、大森望さんを主任講師とするゲンロンSF創作講座第6期になんと”生徒”として参加されていました。
(超多忙なのに課題は自主提出作品までコンプリート。最終審査では河出書房新社の伊藤靖さんより特別賞を受賞しています!)

提出作品はこちら!

また、6期生有志による集大成である”解き放たれたSF誌”「&6(アンロック)」が11月11日(土)開催の「文フリ東京37」にて発売されます。
「脱出」をテーマに”柿村イサナ”を初めとする気鋭のSF作家たちが描く物語は要チェック!

イラスト:ももやまもぎゅへい

文フリ東京37

日時:2023年11月11日(土)12:00~17:00
会場:東京流通センター第1・第2展示場
URL:https://bunfree.net/event/tokyo37/

サークル名:SF講座六期生有志
ブース:お-03

…ちなみに余談ですが、第5期、第7期では”講師”として登壇されていました。

マスター いやぁ、すごいなぁ…。
ちなみに、お酒を普段は飲まない池澤さんが、酔っ払いの演技をするときってどうやって役を作っていくんですか?

池澤 私、作品のなかでたくさん人を殺してます。空を飛んだこともありますし、人間じゃない生き物になったことだってあります。
想像で酔っぱらえるんですよ。悪の首魁を演じたときは、10万人単位で”殺して差し上げて”ってやってましたから。

マスター 10万人虐殺するような、想像や観察のしようがない演技づくりは酔っ払いよりもさらに難しそうですね。

池澤 自分のなかにたくさんの引き出しがあって、電車のなかにこういうことを言っている人がいたとか、本を読んで出会った色々な登場人物や感情とか毎日見ているものをちょっとずつ入れていくんです。
演じるときには、無意識に引き出しをあけて、これとこれを組み合わせたら使えるかも、これも使えるぞみたいなことをやっているんだと思います。
だから10万人を殺したことはないけれど、10万人を殺すことにためらいを覚えないほど自分のしていることが優しさであり絶対の正義だって思っている人の気持ちは分かるわけです。

マスター 色々な要素を組み合わせながら、行動じゃなくてキャラクターの思考回路を自分に下していくんですね。

池澤 でも、タバコを口に咥えながらの演技のときは、実際に咥えたりもします。鉛筆とかでは固さが違ってタバコを咥えて話す感じが出せないので、喫っている方から1本頂いて演技をするっていうのはありましたね。

マスター ケムールにぴったりなエピソードまでありがとうございます(笑)
そうだ。締めに、甘いものでもどうでしょう?

池澤 わ~大好きです。

マスター バッピというイタリアの有名なウエハースメーカーが出しているシガ―ルと、クルミエリというイタリアのビスケットです。
このビスケットは19世紀から続いている本家本元の老舗で、バターとバニラビーンズの原材料の違いも感じていただけるかなと思います。

池澤 現地で食べられているお菓子っていいですよね。スペインに行ったとき、修道院の古いレシピに残っているお菓子を頂いたんですけど、材料も作り方もすごく素朴で、素晴らしく美味しかった思い出があります。
箱もかわいい~。

マスター ワインはイタリアのフリウリで作っているヴェルドゥッツォ(verduzzo)というデザートワイン用のブドウ品種を使ったものを合わせてみてください。
度数は12.5%でそこまで高くなくて、2015年のビンテージです。

池澤 ん~唇にとろんときますね。蜂蜜みたいな甘さのなかに、少し淡い、海みたいな塩気のある香りが感じられます。
ビスケットもすごく美味しい。これは無限に食べられちゃうやつですね(笑)


■ Talk at Fillers #8

■フィラー ワイン&シガー(FILLERS WINE&CIGER)

東京都中央区銀座7-7-15 銀座HARAビル 3F
080-7961-5704(予約可)
営業時間:月~金 19:00~00:00
定休日:土・日・祝日
Instagram:@fillers_ginza
HP:
https://fillers-ginza.jp/

■池澤春菜

Twitter(X):@haluna7
Instagram:@haluna7

ソアーヴェスーペリオーレDOCGモンテサンピエロ 2015
【らびっとらん】ONLINE SHOP

ライター:小梅之々(こうめこれこれ)
Twitter(X):@korekore_koume
ケムール編集部員。前は古着屋。潰れたソフトケースのなかにあるしわしわの煙草がすき。担当連載は「鳥居服装学院」「Talk at Fillers」「ネオホームレス-自由と稼ぎの流儀-」
株式会社アクロスソリューションズ所属。
HP:https://www.acrossjapan.co.jp/

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